作品と読者をつなぐ言葉
書店員がお客さまに対するおすすめ本を決める時には「本を読んで、その本の良さに気付き、その良さをお客さまに伝えたい」という思いが基本になっていると思います。
書店によっては年末に従業員が選ぶおすすめ本ランキングを発表しているところもありますし、読者が本を選ぶ際のヒントになっているとも聞いています。
また、書店員がある本を仕掛けて売ってみようと考える時、そこには何かしら動機づけになるきっかけがあるはずです。
新刊案内を読んで「面白そう」と感じたり、本の表紙を見て「本が売ってくれと言っている」と感じたり、出版社の担当者の説明に納得して「これは絶対売れる」と確信したり、本にかかわったときのそんな心の動きが書店員に売ってみようと思わせるのです。
「本は読むものではない。売るものだ」とうそぶいていた自分は、何を基準にお客さまにおすすめする本を選んでいるのだろうか。
都心の店にいた時に5年分のベストセラーランキングを集計して、作品ごとに何がきっかけで売り始めたのかを記録したことがあります。その結果は6種類に分類されました。
「類書の実績のデータがある」
「初速良好に付き追いかける」
「戦略的に仕掛ける」
「売らなくてはいけない本社企画」
「営業マンとのお付き合い」
「他店のマネをする」
「これを仕掛けたら面白そうだな」という気にしてくれる作品もありましたし、出版社のメンバーとの強力な関係性ができて「さあ、売るぞ」と言って仕掛け始めたこともありました。
どのパターンで仕掛けるにしても、売れそうな予感を感じてスタートした作品はとてもよく売れました。売れそうな予感に従って作成したPOPのコピーのお陰で劇的な販売数を記録したこともありました。
本のタイトルを見て売れる商品展開がイメージでき、POPやパネルがうまく工夫できると、多くの作品が週間ベストに連続してランキング入りしました。
『成功のバイオリズム「超進化論」』が発売されました。出版社の担当者に事前に新刊案内のチラシを見せられた時、タイトルを見て、ターゲットとする購買層がイメージできませんでした。
一つの作品のために出版社を立ち上げ、リヤカーを引いて全国行脚をしている。
成功者500人にインタビューしてそこに法則性があることを発見した。
そんな説明を受けても、著者を知っている人が買うのだろうなというイメージしか浮かんできませんでした。そんな状況では積極的な数で事前注文をする気にならず、ビジネス担当に話を振ってしまいました。その時の事前注文は10冊になりました。
新刊の案内を受けた時点で、本のタイトルから購入されるお客さまを想像できる場合があります。そうすると、どの場所に、どのくらいのボリュームで陳列すればいいのか、その本の売り方と売れ方がイメージできます。
売れ方のイメージが湧いて、お客さまの心に響くようなPOPのコピーが書けるとよく売れていきます。残念ながら『成功のバイオリズム「超進化論」』との最初の出会いではそうした流れにはなりませんでした。
そうこうしているうちにその作品の発売日がやってきて、実際に手に取って本の表紙を見たとき、何か心に引っかかるものを感じました。売れるイメージは湧かなくても、なぜかほっとけないという気にさせる作品がたまにあります。
心に刺さった棘を取りたくて、「これちょっと読んでみるよ。読んで売れる商品展開のイメージが湧いて来たらまた相談するから」とビジネス書の担当者に言って、店に送られてきていた見本を持ち帰って読むことにしました。
作品自体は完結していて、著者や著者の行ったことを知っている方は必ず読むだろうと想像できるし、内容にも熱いものが感じられます。ただ、お客さまが表紙を見てこの本を手に取ってくれるとは思えませんでした。
何が欠けているから売れる商品展開のイメージが湧いてこないのか。その隙間を埋めるには何が必要なのだろうか。お客さまの心に響く言葉が必要だし、それを見つけ出さなければならないと感じました。
Facebookにはこの作品に関する投稿がたくさん出ていました。どの投稿を見てもとても熱い文章で語られています。それらの文章の中から心に引っかかる言葉をつなげていくとPOPのコピーが浮かんでくるのではないだろうか。
あきらめなければ
人生は好転する
たった一冊の本を届けるためだけに出版社を創業し
リヤカーを引いて全国各地を行脚した熱い男
成功者500人にインタビューして法則を発見した
現状に何か問題を抱えている方や、好転するきっかけが欲しいと考えている方々は多くいるだろう。そんな方向けのメッセージとして考えた時に出てきた言葉なのですが、まだまだこなれていないように感じます。
この作品の内容の一部を切り取っただけの印象が強いですし、表紙に使われている文章をPOPに使うのは自分のスタイルではありません。まだまだだなという思いが残ってしまいました。
ただ、売れる商品展開のイメージが少しだけ感じられるようになりましたので、連休明けにビジネス書の担当者と相談してみようという気になりました。
いざ店に出てみると10冊積んだはずの作品は影も形もありません。どうなったのか聞いてみると、発売当日に10冊売れてしまったということでした。商品が無くては意味がありませんので、POPは書きませんでした。
ビジネス書担当は20冊手配したと言っていましたが、それでいいのだろうかという思いも浮かんできました。何か引っかかるものがあるので、テーブルを使った多面展開でお客さまにアピールしてみたいと提案しました。
ビジネス担当もその気になって出版社担当者と交渉し、100冊の注文に対し、直送で翌日店着させるよう手配してくれるということになりました。
翌日の午後、店着した100冊をビジネス書担当が品出したので、事務所に入ってPOPを書いていると出版社の担当者がやってきました。
出版社担当者はA3サイズのパネルを持参してくれましたが、そのパネルのコピーから受けるイメージでは、お客さまが作品を手に取ってくれるとは思えませんでした。
お客さまにこの作品を手に取っていただくためには何が必要なのか、作品とお客さまとをつなぐ言葉って何だろうか、そんなことを二人で話していたら自然と言葉が出てきました。
「スポーツでもビジネスの世界でも、成功者はみんなこのバイオリズムに従っている。停滞期、活動期、過渡期、成長期のどの時期に何をなすべきか理解できれば、自ずと道は開けるのではないだろうか」
このセリフを使って手書きのパネルを作ってみました。出来上がったパネルを見て、これなら作品と読者をつなぐ言葉になるかもしれない。もしダメでもまた考え直せばいいと思いました。
「まずはやってみなはれ」の境地ですので、まだ確信には至りませんが、ビジネス書担当者が100冊展開のパネルとして使ってくれました。今はこのパネルの言葉がこの作品の未来を切り開く第一歩になることを期待しています。
「人生は絶対こうなる」
ということはないが
やっぱり法則はある
スポーツでもビジネスでも成功者はこのバイオリズムに従っている
どの時期に何をなすべきか理解できれば自ずと道は開ける
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