2016年1月6日水曜日

販売ステージの明解性をつくる

文庫の販売ステージを考える
年末に元塾生を訪ねた時のエピソードの続きです。ビジネス書の商品展開の話しの後で、元塾生から「1月から文庫を見ることになっていますので、文庫の販売ステージも見てほしい」と言われました。

エスカレータから上がってきたすぐの曲がり角に文庫の新刊コーナーが設置されていました。その裏側にベストテンコーナーと書評コーナーがあり、その右側は大型TVで映像化作品のDVDを流して、映像化作品のコーナーができていました。

フロアの一番端にあるエレベータ前の位置に文房具が置いてあり、文庫の新刊台と店内通路を挟んだ向かい側が新書のコーナーです。その隣が文庫売り場でしたので、文庫の新刊コーナーは独立した空間となっています。

奥の壁に向かって設置された文庫売り場の棚にはエンド平台があり、その前の店内通路に面したところに比較的大きめの販売ステージがありました。そこに置かれているのは売れ筋の作品のようです。

本来文庫の多面展示や大量商品の陳列は入口近くの独立したコーナーがいいですし、新刊コーナーと各文庫の棚は近い方が商品の連動をつくりやすいと思います。どういうわけか、この店ではその位置が逆になっていました。

新刊は発売日によってローテーションをつくると効率よく販売できるのですが、この店では発売日から一か月間場所を固定して商品を展開しているようです。

この配置はおかしいと元塾生も言っていましたが、こうした場所を入れ替えるのは労力がいるし、これまでこの棚を作ってきた背景もあることなので、すぐに入れ替えるのは難しいことのように思います。

文庫のスペースをどのように構成するかは非常に大切な要素ですし、ゾーンごとに同商品を配置していくのかでほんの探しやすさが決めってきます。もちろん商品を並べるだけでなく、POPやパネルによる商品の見せ方も大切な要素となってきます。

全般的に多面展示が少なく、どの販売ステージでも何を意図して商品が並べられているのか、見た目で分かりにくい陳列のスタイルになっているようです。まずは販売ステージごとの明解性をつくることがこの店の優先課題なのだろうと思います。

明解性のつくり方
文庫ゾーンに立って最初に見に飛び込んでくる販売ステージに『仮面病棟』のタワー陳列がされていましたが、タワーの隣には違う商品が並んでいます。

元々、タワー陳列そのものからは商品がとりにくいので、隣に6面とか9面とかの多面展示を作ってセットで陳列することが主流です。脇の平台陳列から商品を手に取ってもらって販売するのが普通なのです。

これでは売りにくいと判断したのか、他の場所にもう1か所『仮面病棟』のコーナーができていました。

これまで自分が関わった店ではテーブル1台で一点の多面陳列を原則として、1000冊越えの作品をつくることに挑戦して、何点もの作品で単店1000冊越えを成功させてきました。

3メートルぐらいの大きさの販売ステージでは、8面と6面の組み合わせで12点の多面展示ブロックをつくりましたし、テーブルの組み合わせを使った販売ステージでは、1点で1台15面を基本におすすめ作品のブロックをつくりました。

多面展示のブロックをつくることによって、その場の性格付けを明解にし、商品のボリュームとパネルと手書きPOPで訴求力を高め、2度見3度見でその気にさせる作戦を行うこともできました。

気の利いたPOPのコピーが書けると、それを見て作品を手に取るお客さまが多くなりますし、楽しみにしてくれるお客さまも現れました。商品を並べることとPOPで分かりやすくすることはわかりやすい陳列のための大きな要素です。

この店の売り方はそうした大量陳列・大量販売の売り方と一線を画して、単品を大事に売るような売り方のように見えますので、販売ステージは複数の商品の組み合わせでブロックごとの明解性をつくる必要があります。

ただ、ちょっと見た限りでは大きなステージをブロックに分けて、ブロックごとの明解性を出すような商品の陳列の仕方はできていないようです。他のジャンルと同様に商品の並べ方が散漫な印象を受けてしまいます。

明解性づくりの提案
『仮面病棟』のタワー陳列の裏側には面積の半分を使って獅子文六作品が並べられ、もう半分はミステリー系の作家の作品が並べられていました。違う種類の作品群でステージを分割するとその場の明解性が損なわれます。

自分がもしこのステージをつくるなら、隣には同じちくま文庫の三島由紀夫作品を並べます。同じちくま文庫の作品というくくりで装丁の統一感も感じられるし、文豪の復刊作品としてもその場の明解性を持てます。

『命売ります』の拡販を始めたとき、出版社の作ったパネルは帯のコピーとほとんど同じ内容でしたので、手書きのパネルを作りました。パネルのコピーは下記のようになりました。とても気に入った手書きパネルができて累計300冊以上の販売実績がつくれました。

文豪の作品は実は面白い
まともに読んで面白い

又吉効果というべきか
文豪作品の読み直しが始まった

このパネルは獅子文六作品にも使えるような気がしますし、コーナーに置いてある商品の意味合いを表現する看板の役割も果たせます。

三島由紀夫作品は他にも重版されている作品があります。二人の作家の中から売りたい作品や売れそうな作品を中心にして大きく展開し、他の作品と一緒にコーナー化すると、そのステージ自身が文豪作品というくくりで自己表現するようになります。

商品の属性としての統一感と、それを表すPOPやパネルの明快さがあると、そのステージそのものの明解性を作ってくれます。ステージごとの明解性を多く作ることで、その店の主張がお客様に伝わっていきます。

この店のある地域はグレードが高い商品がよく売れる地域ですので、一緒に並べたら相乗効果が現れてもっと売れるのではないかと思います。

棚前のエンド平台は小さ目ですし、目線の位置に棚からはみ出る形で面陳什器がついていますので棚とは分断されています。そうした場合はエンド平台だけで一つの世界をつくるような形をするとよいと思います。

「このミステリーがすごい2015」の外文第一位の『悲しみのイレーヌ』は今が売り時です。昨年の『その女アレックス』も大爆発しましたし、今でもまだまだ動いています。他にも何冊か文庫が刊行されています。

「ピエール・ルメートル作品」は大きな販売ステージの一角に並べられていました。それもどの作品も同じ面数で、陳列の差別化ができていません。本来『悲しみのイレーヌ』が今は売り時なのに、他の作品と同じ展開では並べる意味が半減してしまいます。

『悲しみのイレーヌ』は「このミステリーがすごい 外国文学第一位」なのです。その価値を伝えることが店の担当者の仕事ですし、わかりやすく陳列するには面数を他の作品よりも多くすることが必要です。

この時期は『悲しみのイレーヌ』の多面展示が半分、残りの半分をその他の作品で埋めて「ピエール・ルメートル作品」でエンド平台をつくるべきです。旬の作品を中心にしたコーナーづくりはお客さまへの絶好のアピールポイントになります。

見た目で旬の作品が何かを理解できる陳列が、お客様の購買意欲を高めることができるのです。

 大きな販売ステージに多面展示のブロックを作って、おすすめ本の大量販売をねらう考え方は基本的に賛成なのですが多面展示をあまりしていないこの店では一気に変更することは難しいように思います。

旬の作品を中心に関連商品を集めて小さ目の販売ステージの明解性をつくり、お客様の支持を受けて旬の作品の販売数が大きくなれば、自ずと多面展示の方法を取り入れていく機運が生まれてくるでしょう。

まずはエンド平台や小さなテーブルから、商品の属性とPOPのコピーの工夫で販売ステージの明解性を作る。どのスペースでどういう商品を陳列するのかをお客さまにアピールし定着させることが第一歩のように思います。そのための方法を提案しました。

0 件のコメント:

コメントを投稿