2015年12月31日木曜日

書店発ベストセラー 久々の挑戦 続報

仕掛け売りの輪を広げる

元塾生が半年ほど前に異動した店を訪ねてきました。ビジネス書を担当しているので、ぜひアドバイスをしてほしいと以前から言われていたのですが、訪問する機会がなかなか作れず、年末になってようやく実現しました。

その店はエスカレータを背にしてレジカウンターがあり、その周囲に大小のイベントスペースや陳列台が並んでいます。その奥に各ジャンルの棚が並び、それぞれの棚にはエンド平台がついています。

レジカウンター周辺は平台や面陳棚ばかりなので本の表紙ばかりが並んでいるイメージになっています。それぞれのステージに商品ががたくさん並んでいるのですが、同じ商品が何か所にも置いてあるものもあり、どこか散漫な印象を受けました。

ステージごとにジャンル分けがされていますが、多面陳列が少なく基本的に1面で商品が並べられています。どのステージでも同じような陳列の仕方なので、ステージごとの性格付けが伝わってこないように感じました。

「どの場所で、何を、どう売りたいのか」が伝わるような陳列をしていくと、どこに行けばどういう商品があるのかお客さまに伝わります。そうすると、必ずその場所に寄ってみるというお客さまが現れて、一定の客動線がつくられていきます。

発売されたばかりの新刊、売れ行きの良い作品、担当者のおすすめ本、購買動機は人によって様々なのでしょうが、今が旬だと思われる作品は必ず手に取ってまうお客さまは結構多くいらっしゃいます。

ビジネス書の新刊台の横の小さ目の販売ステージに4面積みの作品が3点並べてありました。それぞれにパネルがついていますが、商品の陳列量とパネルの大きさがマッチしていませんでした。

4面陳列ならばA4サイズのパネルがいいのですが、ここではA3サイズのパネルが使われていました。A3のパネルを使うのなら、商品は少なくとも6面陳列から8面陳列がいいですね。その方が見栄えもよくなります。

多面展示をすると
「わースゴイ。こんなにたくさん並んでいる」
という驚きを与えます。そして
「何でこんなに並んでいるの?」
という疑問がわいてきます。
その疑問がパネルやPOPのコピーで解けた時に、
「なんだそうなのか」
とお客さまは思わず手に取ってしまうのです。

商品のボリュームとパネルやPOPのコピーはそれほど重要なものなのですが,4面積みされたうちの真ん中の作品『自分を変える習慣力』のパネルのコピーは、本の帯のコピーと全く同じものが使われていました。

この本を読んで
毎朝5時起きを始めた。
すると、食生活や働き方、体型、お金の使い方
すべてが変わった

帯のコピーで強調しているフレーズをそのままパネルのコピーにするのは意味のないことだと自分では思っています。パネルのコピーは本の帯とは違う視点でこの本の良さを伝えたい。すると
「へー、そういうことなのか」
と理解してくれることが多いのです。

ホームページの作品紹介文には
1つの習慣を変えたら、食生活や働き方、体型、お金の使い方、すべてが変わった」
というコピーが使われていました。どちらかというと
「一つの習慣を変えたらすべてが変わった」
という方がまだマシだと思います。

使われているパネルのコピーを読むとこの本は毎朝5時起きをすることをおすすめしているように思われてしまうかもしれません。


ルーチン=習慣力
正しいルーチンを確立すると成果は全く変わってくる

ルーチンという言葉を習慣力に置き換えるとすべてのイメージが変わってきて、この本の本質を示すように感じました。そこからイ・ボ・ミやイチローの試合前のルーチンの確立が成功をもたらした話をPOPにしたら、自分の行った仕掛け売りでは爆発的に売れました。

そんな話を元塾生にしたら、
「パネルのコピーをください」
ということになって、店に帰って作業をすることになりました。まあ自分で蒔いた種なのだから、当然と言えば当然ですね。

こうした気の利いたパネルやPOPのコピーがついた商品がボリューム満点で並んでいると、スタッフの思いはお客さまに確実に伝わります。

1つの販売ステージに充分な陳列量を持ち、パネルとPOPがつけられた作品が並ぶと、「この場所はスタッフのおすすめの作品が並んでいる場所なのだ」
とステージ自身が主張してくれます。

ステージ自身があちらこちらで自己主張を始めると、そのジャンル全体の商品展開が明解性を持つような印象に変わっていきます。するとそこにまた来ようというお客さまが現れたり、ファンが増えたりしていくのです。

書店発ベストセラーの第一歩は影響力の強い売上をつくる拠点づくりです。それは自分の行った仕掛け売りで1か月で三桁の実績が出て成功しました。次のステップは仕掛け売りの輪を広げることです。

今回の元塾生の店訪問をきっかけに仕掛け売りが成功したパネルのコピーを渡すことができました。そのことにより、その店でも影響力のある強い売上がつくれると思っています。そうすれば書店発ベストセラーのセカンドステップが成功します。

出版社の営業担当者も同じような考え方で営業してくれるとよいのですが、帯のコピーをそのままパネルのコピーにしているようでは心配です。何はともあれ、元塾生の店の今後の動きを期待を持って見届けたいです。


2015年12月27日日曜日

斉藤塾2015あれこれ

忘年会を行いました

斉藤塾2015年の活動の報告を兼ねて忘年会を行いました。参加していただいたのは出版社からの15社16名と、書店員3名、自分を加えて20名でした。塾生でなくとも普段からかかわりの深い方々にも出席いただいています。

2015年は書店員向け、営業マン向け、編集者向けに塾を行いましたが、塾生の活動から大きな部数が動いたのはほとんどありませんでした。その中で書店員斉藤塾の3名が健闘していましたので、彼らの活動を文章にしてお渡ししました。

また、参加していただいた方々から今年の収穫をお話しいただくように会を運営しました。皆さんのお話を伺うと、塾生OBや個人的に支援していた出版社からベストセラーが生まれていることが分かりました。

最初にお話ししていただいたのはPHP研究所のH氏でした。彼は三期生としての活動では失敗していましたが、売り伸ばし塾で見事リベンジを果たした実績を持つ塾生OBです。

営業から編集に移動して三年が過ぎ、最近関わったニューメディア事業関連の作品が『修造日めくり』であり、この作品は大ベストセラーになっています。直近では、そのスピンオフ企画として刊行した『修造かるた』がよく売れています。

プレスリーリースが成功してメディアに取り上げられたことも含め、ベストセラーづくりのストーリーにようやく手応えを感じることができました。

続いての発言者は実業之日本社のH氏でした。
七期生として活動した時にはベストセラーにできると思える作品に出合うことができず、やむなく途中離脱してしまいましたが、今回ようやく10万部突破作品をつくることができました。

『仮面病棟』を取り上げ、チェーン内の有力2店舗で仕掛け売りを提案し、初速をつくり出すことに成功し、成果が出たところで文庫ダービーにノミネートしました。

ダービー期間中に交通広告や新聞広告を掲載して、出来ることは全てやり尽くして、1か月間にチェーン全体で1800冊以上の実績をつくることができました。結果として文庫ダービーの第一位に輝くことができました。

今回はベストセラーづくりのストーリーを構築して、そのステップの一段階として文庫ダービーで第一位を獲ることを目指しました。

その後の重版のロットの拡大、他の書店への拡販の広がりをつくる活動もスムースに進めることができ、20万部を突破する勢いをつくり出しました。

続いて発言をお願いしたのは自由国民社のY氏です。
以前にこの出版社の方々に「書店発ベストセラーのつくり方」についてのお話をさせていただいきました。その話を契機にベストセラーづくりにチャレンジした作品がありました。

その時点ではベストセラーづくりをねらう営業のスタイルも確立しておらず、ベストセラーストーリーのファーストステップの拠点づくりさへ難しく10万部計画は失敗してしまいました。

そして、二度目のチャレンジの『あなたの人生を変える睡眠の法則』で10万部越えに成功して以降は、数多くのベストセラーをつくり出せるようになりました。

今年のヒット作は『身近な人がなくなった後の手続のすべて』です。初版3千冊、棚で地道に売ることを目的に作った作品が35万部を超える作品となりました。

きっかけは棚回転の良い作品に光を当てて平積み展開をおすすめしたところ、どの店からも追加注文が入ったことです。その後、だんだんと展開を大きくしてくれる書店が現れて加速度的に売上が上昇していきました。

「親が亡くなったときにこの本を買いました。たしかにこの1冊ですべての手続きを済ますことができました」

会場の参加者の中からこのような発言がありました。類似作品が数多く刊行されましたがどの作品もほとんど売れていません。内容が他社の作品を凌駕していることがこの発言で証明されたようです。

その他に『平常心のコツ』『目は1分でよくなる』が30万部以上の作品となり、『耳は1分でよくなる』も10万部を超えました。なんとこの1年間で130万部を超えたスゴイ年になりました。

「ベストセラー連発の秘訣は何ですか」
と聞いたことがあります。その時は
「成功体験が効いています。一本の作品がベストセラーになったことで、あらゆる場面で自信をもって活動ができるようになりました。来年も『髪は増やせる』で10万部越えをねらいます」
と言っていました。

その後、日本経済新聞出版社のI氏が『男と女のワイン術』で新書ダービーの第一位を獲得し、直近に刊行された『男と女のワイン術2杯め』を含め10万部越えをねらっている話をしていただきました。

クロスメディアパブリッシングからはO氏とT氏の2名が参加していました。彼らは刊行1か月で3万5千部を超えた『自分を変える習慣術』で久々の10万部越えの手応えを得ていると強気の発言をしていました。

業界全体では右肩下がりで景気の悪い話ばかりを耳にします。それでも、1本の10万部越え作品で流れは変わることがあります。
この1年で4本のベストセラーで130万部を刷った法律実務書出版社や、2年半で10万部超えの作品を5本出した事例もあります。

皆さんも元気を出してベストセラーづくりにチャレンジして欲しいと思います。


2015年12月21日月曜日

『自分を磨く働き方』

自分を磨く働き方
媚びない!群れない!属さない!
著者安田 佳生 価格: 1,400円(税抜)フォレスト出版

12月新刊に『自分を磨く働き方』という作品があります。発売より少しだけ前に15冊到着、新刊コーナーに1面陳列されました。

この作品は出版社の方から事前にタイトルや装丁について相談を受けていました。複数案の中から自分が推薦したタイトルと装丁が採用されました。新刊コーナーに並べると黄色の装丁がよく目立ちます。

自分の提案が採用されて出来上がった作品が店頭に並ぶと愛着心がわいてきます。ただ商品として並ぶだけではかわいそうにも感じます。そこで手書きPOPをつけることにしました。

表紙を見て、中身をチラ見して、売れ行きを確認して、出版社ホームページの書籍紹介の文章をチェックしました。

内容紹介文
会社を潰した著者だからこそ見つけた
斬新な人材コンサルティング事業で一世を風靡するも、2011年に倒産、そして自己破産に至った元ワイキューブ社長の著者。
本書は、その後の葛藤や奮闘の中で追い求めた「理想の働き方」、「仕事をつまらなくしているものの正体」を明らかにします。
ビジネスマンがやりがいを持ち、楽しく仕事をするにはどうすればいいのか?
著者自らが人生を賭して実践、答えを解き明かした、実験報告とも呼べる書です。
「仕事がつまらない」
「将来が不安だ」
「給料が少ない」
「自分の能力では無理だ」……
本書はそんな悩みを持つあなたの働き方、人生に一石を投じます。
あるいは、激変させるかもしれません。ちょうど落伍者の屍寸前だったにもかかわらず、
「働く意味が理解できたいま、私の人生はとても軽やかです」と語る著者のように。


さらに、本文を読んで心に残るフレーズを探し出し、サブタイトルについている「媚びない!群れない!属さない!」を自分なりに解釈してコピーを考えました。
それまでに1冊売れていましたがPOPをつけてから3冊売れています。POPのコピーは下記にようになりました。


人生を楽しむために
仕事はあるのだ

好きでたまらないことを
仕事にできる時代が来た!!


POPをつけて15冊入荷4冊売れの実績がつくれたところで、もう少し大きく展開してみたいと思うようになりました。ビジネス書担当に相談したら、新刊コーナー横の多面展示用テーブルの左側の角の6面分を空けてくれることになりました。

ビジネス書担当が出版社に電話注文をすると、出版社の営業担当も喜んでくれて、直送の手配をしていただけました。入荷した日に早速商品を並べました。

マンガの絵の表紙が2点、文字だけの表紙が1点、そこにイラストと文字の派手な黄色の表紙が並びました。多面展示商品ブロックの中で黄色の表紙がやけに目立っています。

多面展示の展開にはPOPパネルが必需品です。出版社に依頼してパネルを送っていただくにも日数がかかります。そこで手書きでパネルをつくることにしました。

パネルづくりには出版社の書籍紹介の文章を参考にさせていただきました。紹介文をそのまま引用して部分的に文章をいじってコピーをつくりました。


会社を潰した著者だからこそ
見つけた究極の働き方


2011年に倒産、そして自己破産に至った元ワイキューブ社長
自らが人生を賭して解き明かした実践報告


出来上がった手書きのパネルを付けると、手書き尽くしの商品展開になりました。手書きは書く人の思いが伝わると言われていますので、売れてくれることを期待しています。

2015年12月18日金曜日

仕掛け売りのスペースは全体最適がいい!

『あなたの影響力が武器となる101の心理テクニック』
この作品は『価格と儲けのカラクリ』の著者が違うペンネームで刊行しているものです。『価格と儲けのカラクリ』では真っ黄色な表紙で驚かされ、「装丁の色で売上が変わること」を認識させられました。

 10万部メーカーに依頼されて、都心の店で仕掛け売りをして10万部突破に貢献した『思い通りに人をあやつる101の心理テクニック』のシリーズ第3弾でもありますから、この作品には自分なりに思い入れがありました。今回の作品のテーマは「影響力」です。

チェーン店本部でバイヤーの仕事をしているときに、自社の販売冊数を3年で2倍にした営業マンがいました。彼は沿線の主要駅にある店の担当者と懇意になり、その店で積極的な拡販をしていました。

「あの人が仕掛ける作品はよく売れる」
「あの店で売れたものはうちの店でも売れる」
そのように考える店担当者はたくさんいます。

彼にとってはその店の担当者がキーパーソンなのです。チェーン店に限らず影響力のある店担当者はあちこちにいるはずです。営業マンにとってキーパーソンをつかむことはとても重要なことです。それが店を回ると売上が上がる魔術につながっています。

沿線の中核駅にある店の影響力の強い担当者と協力して仕掛け売りが成功すると、他の店も追随してくれてチェーン店内に拡販を広げていくことが容易にできました。
そうして3年間で43,000冊から83,000冊にまで売り伸ばしてくれたのです。これも影響力を使った売上を上げる魔術なのでしょう。

『あなたの影響力が武器となる101の心理テクニック』は新刊配本時に100冊入荷して入口のテーブルで9面展開がスタートしました。出版社の営業担当と店の新書書担当が協議をして、事前に部数と拡販スペースを決めていたようです。

めちゃくちゃブレイクしているわけではありませんが、着実に安定して売れているようです。2週目、3週目にはビジネス週刊ベストにランクインをしました。その後も売れ行きは好調に推移しています。

追加注文はしないの?と新書担当に聞いたところ、12月の新書は大量入荷品が続くため、新刊コーナーでの4面展開に移行せざるを得ないので、追加注文は迷っていると返事でした。

この答えからは彼が販売ステージを固定して考えている様子がうかがえます。今使えているスペースの中でしかものごとを考えていないということです。ジャンル担当者にありがちな考え方だとは思いますが、いかがなものでしょうか。

仕掛け売りは店全体を使って商品の展開場所を決めることが大切です。そのために担当者間の意見調整が必要ですし、その結果、全体最適の条件が満たされるとみんながハッピーになるはずです。

そう言いながらも新書担当は販売データを見て、その後に101シリーズの新刊の追加注文決めました。どのスペースを使うかはまだ決めていないけど、どこかで仕掛け売りは継続したいという思いなのでしょう。

「ベストテンコーナーの横のテーブルに賞味期限切れのような作品が並んでいるけど、その場所を確保したらどうなの?」

「店にとって一番いいこと、作品にとって一番いいことが、担当者間でうまく調整できると店としての売上が稼げるんだよね」

その時点で3台のテーブルには実用書系、文芸書系、コンピュータ系の作品が並んでいましたが、最近入れ替えたばかりの文芸書を除くと、長く拡販を続けている作品ばかりで今の動きはそれほどいいとは思えません。

担当者自身も、12月刊行の新書の新刊は注目作品が目白押しなので、注目作品に押し出されて、売れているのに拡販スペースから弾かれてしまうのはもったいないと感じていたのでしょう。
実用書の担当者と調整をして、スペースを空けてもらうことに成功しました。

担当者全員が店の拡販スペース全体をどう運用していくのかを真剣に考えているならば答えは容易に見つかるものです。
自分さえ良ければいいとか、既得権益として拡販スペースを渡さない、というような考えを持っていると全体の効率を悪くする要因となります。

商品の売れる時期は常に変動しています。その時点での最適を考えてスペース配分をするとより大きな売上を稼ぐことができます。

お互いに仕掛けている商品の鮮度を意識し、販売データもチェックしながら、商品ごとのスペースを入れ替えていくことが全体最適につながります。全体最適が最も効率よく店全体の売上を稼いでくれます。

『あなたの「影響力」が武器となる101の心理テクニック』は『男と女のワイン術2杯目』が入荷した段階で入口のテーブルから追い出され、新書担当の調整力のおかげで4~5日開けただけでベストテンコーナーの横のテーブルにボリューム陳列が復活しました。


入口のスペースから追い出された4~5日間は低迷していましたが、販売ステージが復活してからは売上がV字回復をしています。果たしてどこまで売り伸ばせるのか、今後が楽しみになってきました。

2015年12月17日木曜日

ミニうり坊 入社2年目男子の挑戦

入社2年目男子
入社2年目男子はもともと沿線の小型店でアルバイトをしていました。そして社員に登用されると同時にこの店に移動になってきました。社員としては雑誌と新書と語学書を担当しています。

元々社員に登用されたわけですのでそれなりに光るものがあったのだと思いますが、働いている姿を見ていると商品に対する目の付け所がいいと思えました。担当外の文庫の拡販についても若手社員仲間が担当している気安さもあって積極的に発言していました。

彼が文庫で光を放ったのが、1994年3月刊『旅のロゴス』新潮文庫 筒井康隆著の拡販でした。2014年の夏にテーブル1台のボリューム陳列を仕掛けて大ブレイクスルーを成し遂げています。

文庫は作品ごとにランク設定されていますので、多くの店がランクインしている作品を中心に品揃えをしています。その時点ではABCというランク設定されていないランク外商品でした。
この店ではランク外でも棚回転のいい作品は品揃えをしていましたので、通常の店では在庫しない作品でも棚でよく売れていました。

そこに目をつけたのが入社2年目男子でした。旅ものは毎年夏になると売れるテーマだし、著者も魅力的で作品自体の評価はとても高いと言っていました。
そんなことから入社3年目女子と相談してテーブル1台展開で仕掛け売りをすることになったのです。

7月5日に注文していた200冊が入荷して仕掛け売りが始まりました。ネットで検索して旅を連想させる写真を取り出して、それを下地にタイトルコピーを入れてA3サイズのPOPパネルを自作しました。

このパネルは仲間内でも評判がよかったようです。商品が展開されると同時に週売20冊以上の売上が取れていきました。気をよくして手書きPOPをつくりボリューム陳列に添えると売上は一段と大きくなっていきました。

夏休み時期に合わせた拡販のはずだったのですが、売れ行きが落ちなくて、継続してテーブルを使え、6ヶ月間拡販を続けました。仕入は600冊を超え、販売実績は500冊近くにまでなりました。

他の店にも仕掛け売りが伝播したようで、出版社の営業担当によると『旅のロゴス』は重版もできて、再度のブレイクを果たしたということでした。そして、何時の間にかランクなしのこの作品にもランクが設定されていました。
これでどの店での在庫するようになるはずだし、在庫されることによって売れ行きがますます高まることが確実になりました。

『なんでも英語で言ってみる』
この作品は2014年6月に店の入り口活性化対策で行ったボリューム陳列7連発の中の三番手として取り上げられた作品です。元々は語学書売場のエンド平台でテープを流しながら販売していました。

それなりに売れているのに売れ行きに合わせた商品量が確保できず、もっと在庫があれば売れるのにという印象を持っていました。入社2年目男子は商品確保がままならずボリューム感が維持できないことを嘆いていました。入社2年目男子としてはとてもフラストレーションがたまる売り方をしていました。

「商品をもっと手配できれば、もっと売れるのに」
出版社の入社2年目女子の営業担当も同じように考えてたようで、社内での部数確保ができなくてちょっとへこんでいました。

重版のロットを大きくしない傾向がある出版社では、売れている作品は営業マン達の在庫の奪い合いになることがあります。そうなると若手には部数確保が難しくなり、仕掛け売りをして強い実績が作れても持続できないことが間々あります。

『こころのふしぎなぜどうして』という作品で塾生が10万部計画を実施して、50万部以上の実績を作った際に、初期の拠点づくりからベストセラーづくりに至る過程で積極的に協力した縁がありました。

元塾生やその上司に自分の名前を言えば、必ず商品は確保できると二人に伝え、同時に、店頭の一等地でボリューム陳列すること、テープを必ず流すこと、ふたつの条件を申し入れて交渉してもらいました。

注文した商品は6月11日に減数なしの150冊が入荷しました。入社2年目女子営業担当が頑張ったのだろうし、入社2年目男子も入口での大きな展開ができることを喜んでいました。入荷した朝のうちに商品を並べ、パネルやPOPをつけて陳列しました。

用意できたのは比較的大きなテーブルでした。その1台を使ってボリューム陳列をしましたが、縦3列6列並びましたので、18面積みの大きな展開ができました。本の厚さもけっこうありましたので、高さも確保できボリューム感満点でした。

パネルや手書きPOPをつけて訴求力を高め、レコーダーを置いてテープを流し始めたら、週売20超えが作れました。売上は好調に推移して、150冊の仕入では足りなくなるほど売れました。

『脳には妙なクセがある』と出会う
入社2年目営業女子が店に営業に来た時、ビジネス書の拡販ステージでは『覚悟の磨き方』が大きな展開をしていました。27面展開ができるスペースで片方にタワー陳列をつくり、もう一方で9面のボリューム陳列がされていました。

「どうしたらこんなふうに陳列してもらえるのでしょうか」
そんな素朴な質問をしてきましたので、この店での仕掛け売りの基本的な考え方、どの程度の売上を目標としているのかを説明しました。

その時の彼女のおすすめ作品は『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』という長いタイトルの作品でした。それなりに売れていましたし、何回か注文を繰り返していましたので、いい場所にちょっと強めに商品を展開したら、トントンと売れていきました。

売れ行きが良くなると「これくらい売れるんなら、タワー組んであげるよ」と言って実際にビジネス書の販売ステージを使って、大きな展開で仕掛け売りをしました。売れ行きが好調なせいか、この著者の作品が次々と刊行されるようになりました。

そんな出来事があって以来彼女は定期的に営業にやってきて、積極的な姿勢とやる気が伝わって若手社員たちとも仲良くなっていきました。
新書ダービーで候補作品をノミネートしたいと言い出した時も、入社年目男子が気持ちよく反応して、二人で作品を押す重複推薦になりました。

彼らが推した『脳には妙なクセがある』は2013年12月刊で、初回配本は3冊、すぐに追加注文して新書エンド台で売り伸ばしていた作品でした。彼らに「仕組みを使って売り伸ばす方法」を伝授すると、二人ともその気になっていきました。
二人は「200冊展開で一気に売上を作り全店一位に押し上げたい」と言いだし、「店の入り口のテーブルを使わせてください」とも言ってきました。

注文した200冊は6月9日に入荷しました。新書ダービー開始から1週間以上経過していました。入口では小さめのテーブルを2台つなげて変則的な陳列をし、新書ダービーに隣接したステージでも大きな展開をして、2か所でのおすすめ本の展開が始まりました。

その週から週売40以上の実績が作れて、それが4週間続きました。1か月間の新書ダービーではこの店の売上が牽引して全店で第一位を獲得しました。

8月から開始された拡販キャンペーンでは第一位帯をまいた作品を入口と店内での2か所でボリューム陳列し、ダービーを戦ったラックでの40面展開などをしました。また、それぞれの場所でのPOPの使い方等々で工夫を重ねました。

その結果、800冊を超える販売実績をつくりましたし、拡販期間終了後各店の在庫をかき集めて販売するほどとなりました。作品の刷り部数は10万部を超え、自分のおすすめ作品が貢献ができて、努力した甲斐があったと喜んでいました。


2匹目の泥鰌をねらう
2015年の新書ダービーは事前に得た情報からは売りたくなるような作品が見たりませんでした。そこで、彼は自分なりに売れそうな作品を探し出してノミネートすることを考えました。白羽が立ったのは朝日新書の『数学的決断の技術』でした。

2013年12月刊のこの作品はそれほど目立った実績は上げていませんでしたが、彼にとっては魅力的なタイトルのようでしたし、売れそうな予感も持てたようです。店担当者推薦枠でノミネートし最終候補作品に選ばれました。

新書ダービーは2015年6月1日にスタートしました。前回はダービー期間の約3分の1程度経過してから200冊が入荷して拡販をしましたが、今回はダービーの開始時期に合わせてすぐに商品展開ができるように事前に手配をしました。

入荷した作品を見て、タイトルも帯のコピーもいい。これを担当者イチオシ作品としてお客さまにアピールすると必ず売れるような気がしてきました。
実際に商品展開をして販売を開始すると、圧倒的な販売実績が取れたし、1か月間の販売期間でもとても強い実績がつくれました。

ダービー期間中に競合作品『男と女のワイン術』の担当者がやってきて、積極的に営業アプローチをしてきました。懇意にしている担当者ですので無下にもできません。2番手押し程度の仕掛け売りを開始することになりました。そしてそれなりに売れていきました。

その作品がダービー期間中に朝日新聞の「売れてる本」に登場してしまいました、これはルール違反だろうという人もいましたが、別段ルール違反ではありませんし、文庫ダービーでもこうしたケースがありました。

朝日新聞の「売れてる本」に掲載されると全店的にブレイクしていきました。単店では『数学的決断の技術』がリードしていましたが、『男と女のワイン術』全店で売れていきましたので太刀打ちできず敗北してしまいました。

入社2年目男子の店での販売実績は全店でもトップクラスの実績で全店をけん引していました。もし自分がこのかもしれない。そんなことを考えたこともあったようですが、売れる作品は売れるように売るのが書店員の姿ですから、これは致し方のないことでしょう。

『数学的決断の技術』は1か月で250冊程度の販売実績を記録しながら新書ダービーで第2位に終わってしまったため、彼の店でも継続的に販売はしていますが積極的な拡販は終息していきました。

『男と女のワイン術』は拡販キャンペーンでは2度見3度見でその気にさせる作戦を取り、3か所で展開を実施し、累計売上500冊程度の実績をつくっています。

2015年12月11日金曜日

書店発ベストセラー 久々の挑戦

『自分を変える習慣力』

11月刊行で配本は15冊。新刊コーナーに1面陳列されていた。表紙を見て、売れ行きを確認して、中身をチラ見して、ホームページの書籍紹介の文章をチェックしてみた。

1つの習慣を変えたら、食生活や働き方、体型、お金の使い方、すべてが変わった
資格の勉強が続けられない、ついつい怠惰 な生活をしてしまう。本書は、「自分を変えたい」という方に向け、まずはすべての習慣のキーとなる「スイッチとなる習慣」を身に付 け、生活を抜本的に変える秘訣をお教えします。
次に潜在意識の特性を理解し、セルフコーチングを応用することによって、苦労せず良い 習慣を身に付けていくスキルを習得していきましょう。仕事の成果を上げ、人生を充実させる習慣を多数ご紹介するとともに、最終章では、人生を大きく変化させる力をもっている「コミュニケーションの習慣」「心の習慣」の身に付け方も伝授します。 
習慣は才能を超える力を持っていることを、きっとあなたも実感するはずです。

 タイトルと紹介文から連想ゲーム風にこの本の売り方をイメージしてみた。

「1つの習慣を変えたらすべてが変わった」というフレーズからルーチンという言葉が連想できた。すると『よいルーチンの確立で成果は飛躍的に変わる』というキャッチコピーが浮かんできた。

健康診断でメタボと言われ、悶々とした日々の中で箱根駅伝をTVで見て、ランナーに太っている人はいないと当たり前のことに気が付いた。自分も走ろうと決めてジョギングを始めたのはいいのだが、100ḿも走ると息が上がって続けて走れない。

それでも走っては歩きを繰り返していくうちに、5㎞を走りきることができるようになった。ジョギングを始めて3か月過ぎたころには毎日出勤する前に5㎞走ることがルーチンにまでなった。するとメタボは自然と解消していた。

メタボ解消の後からベストセラーづくりにチャレンジする斉藤塾が始まった。多くの若手メンバーが参加して活気ある活動になり、塾生が頑張ってくれたお陰で多くのベストセラーが生まれている。

確かに、一つの習慣を変えたらすべてが変わったというフレーズは自分にも当てはまるものだった。

ラグビーワールドカップの五郎丸選手のキック前のポーズがルーチンとして定着して、確実にゴールを決める力になったことは今では誰でも知っていることだろう。

女子プロゴルファーのイ・ボ・ミ選手が2億円越えの賞金女王に輝いた。ヤフーニュースでは試合に臨む前のルーチンが確立できて、シルバーコレクターから脱却したという話しが紹介されていた。

メジャーリーグのイチロー選手は試合前のルーチンに絶対妥協しないし、それが数々の記録を打ち立てた原動力になっていることも有名な話だ。

こうした良いルーチンを確立して成果を上げた事例をPOPで紹介して、ボリューム陳列の展開とともにビジネスマンにアピールすれば、週売20以上は売れるというイメージが浮かんできた。

そこで、店のビジネス書担当者と話しをして、レジ横の柱前のテーブルを1台開けてもらい、出版社に100冊の追加注文をお願いした。15冊入荷、4冊売れでも、売れるイメージさえつかめれば100冊注文に違和感はない。

12月2日に店に行くと、注文した商品がようやく入荷して、ビジネス担当者がレジ横のテーブルに1台で1作品のボリューム陳列をしてくれていた。パネルには五郎丸選手のポーズの影絵的なイメージが使われていた。

このままでも売れるだろうとは思うのだが、ボリューム陳列とパネルだけではビジネスマンへの訴求力がちょっと足りないようにも感じられた。

イチロー選手の試合前の妥協しないルーチンと、イ・ボ・ミ選手のルーチンの確立が2億円越えの賞金女王につながったことを書いた2枚のPOPをつけてみた。100冊展開のボリューム陳列には2枚のPOPがよく似合う。

これで売れる商品展開のイメージが出来上がった。すると11月29日から12月5日の期間のビジネス週刊ベストの3位にランクインした。実働4日間の売上であったにもかかわらずだ。

週明けの売上も順調に推移して、入荷後1週間の販売データでは週売20を超えて、その時点で4分の1以上の消化率になっている。

イメージ通りの販売実績が出ると、次の商品手配をしなければいけないと感じ始めた。何しろ年末なので、躊躇していると年内に入荷しない最悪のパターンも考えられる。年末年始の流通が止まる期間を想定しながら100冊の追加注文をお願いした。

ここまで来ると売れるイメージがさらに更新して、単店で300冊越えが狙える位置に来ているように感じられる。単店で300冊以上の実売が取れると、10万部以上が確実にねらえる状況になる。

書店発ベストセラーづくりのスタートは快調。続報にご期待ください。








2015年12月8日火曜日

客導線線上にボリューム陳列 2

反応は良好
10月25日、特設ステージは店の都合で入口近くのレジ前に移設された。レジに立ち寄る人、レジから帰る人の導線に良好な位置関係を確保できて、ここはここなりに良い場所のようだ。

今回進めている拡販のコンセプトでメインターゲットの客導線上の位置は外せない。そこで、特設コーナーの隣の新刊コーナーに1面当たり25冊の高さで、2面並べて50冊のボリュームで積み直した。

これで女性誌を目指して入店してくる女性客の導線上の位置を確保できる。
ドタバタした特設ステージのつくり方ではあったが、結果としてレジ前も含めて店の入口近くに2か所のスペースを確保して、当初想定していた以上の商品展開ができあがった。

お客様の反応は良好で、拡販開始の10月23日から29日までの7日間で売上は35冊となった。1日平均5冊だ。

10月29日には150冊の追加注文が入荷。すぐに品出しをして250冊レベルでのボリューム陳列が完了した。レジ前の特設ステージでは1面当たり20冊以上積み上げられ、誰の目にも自然と入ってくるボリューム感が作れた。

入口から女性誌に向かう導線上の場所では、対象客層が類似している『子どもが変わる怒らない子育て』もよく売れていた。ターゲットが同様な作品が並ぶと相乗効果を発揮しているようだ。

10月29日~11月5日の7日間では週売40冊を超えていった。2週で80冊以上となり、予定の数字をクリアできた。

その後も順調に「推移して、4週間で160冊超えの販売実績をつくることができた。これは他店へ影響力の持てる強い売上だ。
ここまで来て二人は拠点づくりの第一段階は成功したと判断した。

Tさんと同じように個人授業を受けたSさんも、独自に10万部計画を進めていた『子どもが変わる怒らない子育て』もよく売れていた。

「その作品を売るならジャストフィットするのは二子玉川だろうと言われました。駅の近くの書店に積極的な営業を仕掛けると、おかげさまで書店担当者の協力をいただくことができた。すると、田園都市沿線の教育熱心な母親たちに受け入れられて、驚異的な数字をたたき出すことができました」
たまたま店で一緒になった時彼はそんな風に言っていた。

「その店でも『こころのふしぎなぜ?どうして?』を展開してもらえないかな」
とTさんが独り言を言った。その店は彼女の担当ではなかった。

その後、田園都市線の担当から「二子玉川の店から50冊の注文をもらった」とメールが届いた。教育に関心の高い私鉄沿線の主要駅ではこの二つの作品は共通して売れていく。この時から二つの作品のコラボ営業が始まり、受注がますます促進されるようになった。

「『子どもが変わる怒らない子育て』が売れているなら『こころのふしぎなぜ?どうして?』も売れますよ」

仕掛け売りの広がりをつくる
店頭の一等地で大きなボリュームで商品を展開するには、ワゴン一台、あるいはテーブル一台程度のスペースを用意しなくてはならない。そして、作品のメインターゲットの客導線上に展開場所を設定できると大きな売上を期待することができる。

「あれ、なんでこの商品がこんなにたくさん置いてあるんだろう?」
とお客さまに不思議に思っていただければ第一段階は成功だ。

お客さまの注意を喚起するには感動させることも大切な要素だ。そのキーワードの一つは意外性だ。人は思ってもみないことに出合うと、心が揺れたり、感動したりするはず。商品そのもので感動させることができるとお客さまは納得する。

また、どこでも見たことがないようなステージを作って、陳列で感動させるやり方も一つの方法だと思うし、POPの魅力的なコピーやコメントで感動させることができると、それはまさに販売員冥利に尽きることだと思う。

知りたがっている知識や情報を提供して納得していただけると、お客さまはスムーズに購買行動に移行してくれる。
「ああ、そうか、そういうことなんだ。だったら買ってみよう」
そう思わせることができれば、店頭の一等地で行うボリューム陳列は大成功となる。

仕掛け売りの広がりをつくるには他の営業マンとの連携が必要になる。自分一人ではとてもすべての店を回ることはできないものだし、販売実績のスケールを大きくしたいなら、まわりの人間にいかに協力してもらうかが重要な要素となってくる。

10万部計画の次のステップは仕掛け売りの広がりをつくる作業だ。Tさんにとってありがたいことに、「この店で成功した拠点づくりのデータを使って営業すればいい」と塾長が言ってくれたし、何でも協力してあげるとも言われた。

店頭の一等地で仕掛け売りする方法とそ意味、他店への影響力のある販売実績をつくる拠点づくりの方法などがわかるペーパーをつくり、仕掛売り開始から4週分のデータを整理した表を一緒に添付して、メールで送ってくれた。

「データは売れていることがわかる注文書の材料として使用し、ペーパーは営業部の他のメンバー向けの教材となるような使い方をしてほしい」と添え書きがしてあった。

2回目の講義のテキスト「囲い込みの技術」にその辺の事情が書き込まれていた。
Tさんは週売40を超える販売実績と、仕掛け売りの商品展開の写真をセットして、売れていることがわかる注文書を作成した。

売れていることがわかる注文書は誰が営業しても受注を促進してくれる。

仕掛け売りの全国的な展開が始まった
「あの店でこういう売り方をしているのなら、うちの店でも売れるかもしれない。あの店に負けてはいられない」
という声が書店員の間から聞こえてくるような注文書が、最もいい注文書なのだろうと塾長は言っていた。

そして、完成した注文書と拠点づくりの方法が書かれたペーパーをセットして、同僚の営業マンに渡し、それぞれの担当エリアで書店への営業提案をするよう促した。

受注がしやすい注文書はみんなが使ってくれる。それで受注が促進できると、仕掛け売りの広がりをつくる営業が活発に機能していく。これも「囲い込みの技術」に出てくるやり方だった。

それでもTさんはこれだけでは芸がないと考えていて、社内の営業担当者が一丸となって拡販する体制はどうしたらできるか模索していた。そこで『こころのふしぎなぜ?どうして?』の実売を競う社内コンペを企画した。

残念ながら社長の許可が得られなかったので、公的には認められなかった。それでも個人的に参加者を募って、12月には営業担当者62名中34名が参加する非公式のコンペとして始めることができた。

こうしたちょっとしたお楽しみを加えて参加者同士が盛り上がりを作ると、組織的な販売促進のスタイルが軌道に乗ると考えたものだった。

こうした活動により他の営業マンの活躍が目立つようになっていき、他の書店やナショナルチェーンでも強い売上を作りだす店が生まれてきた。方々の書店で強い販売実績ができると、取次のベストテンの上位にランクインする。

ベストテンの仲間入りをすると販売速度を早めていくことができる。そこで重要なのは重版のロットの拡大だ。クリスマス時期は児童書の最盛期になるので、また拡販のチャンスがやってくるはずだ。

残念ながら重版のロットは期待したほど大きくすることができず、12月の一時期、在庫がない状況を作ってしまった。それでも売れ行きが良いから起こった出来事として、周囲では好意的に考える人もいたようだ。

「在庫さえあればもっと売れていたのに」
という声はあちらこちらから漏れてきたし、積極的に拡販をしている営業マンたちは、忸怩たる思いを抱いていたに違いない。

10万部計画は見事に達成
売れ行きがよくなると社内の認知が好転し広告予算も取れるようになって、新聞広告も多く掲載されるようになった。そのことが仕掛け売りの全国的な展開をさらに加速させていき、全国的に売れている状況を作ることができた。

売れていることが認知されるとパブリシティで紹介されることも多くなり、ベストセラーとしての地位がゆるぎないものになっていった。

1月以降話題性の高まりとともに、重版のロットが今までとは比べ物にならない大きさになってきた。書店からの注文のロットも拡大して、50冊から100冊でパネル付きで展開する店がどんどん増えていった。

10万部計画は順調に進んでいき、2014年1月の中間報告会を迎えた。

「おかげさまで、16万8千部を突破しました」
と Tさんは自信を持って報告することができた。
塾長は成功体験を積んだ営業マンがまた一人増えたことを喜んだ。

売れていることが話題になり、作品を読んでくれる方々が増えることによって作品の良さが多くの方に認知され、口コミでも広がっていく。話題性の高まりとともに商品の売れ行きは増幅され、20万部、30万部と着々と版を重ねていった。

「45万部を突破しました。まだまだ売り伸ばして、会社史上初のミリオンセラーをねらっていきたい」

2014年の秋には嬉しそうにTさんは語っていたし、営業から開発部門に異動して、新しい仕事にチャレンジしていますと目を輝かせて言っていた。

Tさんはとても明るい顔つきになっていた。成功体験をすると自信を持つことができるし、それが顔に現れるのだと改めて思う。


作品のメインターゲットの客導線上にボリューム陳列をする拡販スタイルは大成功だった。Tさんが行った販売現場発ベストセラーを作り出す方法の成功であると同時に、10万部計画の拠点づくりの成功例として、経験知がまた一つ蓄積されたのだ。