2015年9月8日火曜日

装丁の色で売上は変わる

異色な作品を売り伸ばす
ビジネス書の入荷便の片づけをしている時に、異様に黄色が目立つ装丁の本が目につきました。

毎日入荷する注文品は新刊の配本とは異なり様々な経緯があって、誰かが注文したものなのです。入荷品を見ると注文したジャンル担当者の思い入れが強く感じられる場合もあるし、出版社の担当者とのお付き合いとしか考えられないような場合もあります。

理由はともあれ、入荷した商品が売れると、出版社も書店も両方ともに喜ぶことができます。だから、その商品に最も適した場所を探し出して、売れるように陳列をするのが書店の現場で働く人間の仕事なのです。

『価格と儲けのカラクリ』という作品が2014116日に30冊入荷しました。A5版のソフトカバーの並製で、業界紹介本の実務書風なつくりなのですが、何と装丁の色がとてもはっきりした黄色なのです。

この頃のビジネス書の売れ筋商品で流行っていたのは白の装丁です。話題の本のコーナーを見ると一面白で占拠されたような売場になっています。
そんな中でこのようなきわめて特徴的な色の表紙を見ると、なぜこんな商品を30冊も注文したのか、誰でも疑問に感じてしまうのだろうと思います。

入荷した商品に疑問が感じられた時には作品のデータをチェックしてみることにしています。ちょっと事務所に入ってデータをたたいてみました。

この作品は927日発売され、5冊入荷してすぐに2冊売れています。陳列場所はビジネスの流通・サービスのジャンルの棚前の平台でした。この位置で初日に2冊売れるということはファンがいるか、作品に魅力を感じた人が複数いたということです。

また、5冊入荷で2冊売れて、30冊注文というパターンで考えられるケースは2つあります。ひとつはジャンル担当者が何らかの理由でこの作品を気に入って売れると判断して追加注文をした場合で、もうひとつは営業マンに頼まれ、それに応じて注文したケース。そのどちらかだろうと思います。
新刊配本後まるまる1ヶ月以上経過している段階で注文していることから考えると、後者のような気がしてきました。

最適な場所に置く
商品を売れるように陳列するには最適な場所を選ぶ必要がありますが、入荷量にふさわしい陳列の仕方というものもあります。

追加注文が50冊以上だとすると一等地の目立つ場所で、その作品だけでコーナーづくりができます。最も売上が稼げるパターンと考えていいともいます。ただ、30冊というのは中途半端な数なので、1点でのコーナーづくりは量的に難しいものがあります。

30冊入荷は配本前のテスト販売の入荷冊数に多いパターンです。それなりに売れ行きが期待されている作品なので、通常は新刊コーナーや話題の本のコーナーで2面積みすることが多いのです。

ただ、話題の本のコーナーも目立つ場所と目立たない場所があるし、一列目に置くか三列目にするかで売上が変わってきます。
さてどうするかと考えて話題の本のコーナーを眺めてみると、白の装丁の本ばかりが目立って、色彩の変化に乏しい印象を受けました。

「ダイヤモンド社の売れている作品を真似した出版社が、皆白系の装丁で本を作るからこうなってしまうのだ」とついぼやいてしまいます。何はともあれ、この商品を売りたがる気配が自身の中に生まれてきました。

他の作品と全く違う色彩を持った装丁の作品を売れようにするのも酔狂だろうし、自分らしい感覚なのだと考えて、話題の本コーナーの中でも最も目立つ場所の最前列に2面積みで陳列をしてみました。

すると思いがけないことに、すぐに複数冊の売上が記録されました。装丁の色が良いのか、作品の中身が良いのかは判断がつきませんでした。
売れ始めてから3日後に出版社の担当者が店にやって来ましたので、売れ行きの状況を話し、50冊の追加注文をしました。担当者もその気になって直送で手配してくれると言っています。
お互いの気持ちが通じ合ってこうした雰囲気になると売る意欲がとても高まっていきます。

次の休み明けに出勤してみると30冊入荷した商品の在庫が少なくなっていました。おまけにビジネスのベストテンコーナーの3位にランクインしていました。酔狂で良い場所での展開を始めた判断は間違っていなかったようです。

装丁の色で売上は変わる
本は置く場所によって売上は違ってくるものですし、目立たない場所で商品を展開していたら、これほどの売上は取れなかったような気がします。思いつきで良い場所に陳列したのは何故だったのだろうか。頭の中を整理してみました。

『価格と儲けのカラクリ』の表紙は黄色地に黒のゴシックでタイトルが書かれています。だが、装丁がいいとも思えないしタイトルのコピーがいいとも思えません。黄色の装丁の作品は話題の本のコーナーにはその時点では他に一つもありませんでした。

白の装丁が目立って多かったし、黒と紺系統の装丁が数種類あっただけでした。白の装丁で黄色帯の2~3点ありました。話題の本のコーナーに他の商品と一緒に並べてみると、派手な黄色は特別に目立って、目に飛び込んでくるように感じました。

目次をみると60業種以上の原価の構造が解説されていて、新規にビジネスを始める人や、就職のための業界選びの参考になる本だと思いました。
業界解説本はいろいろありますが、ここまで原価の構造を解説している作品はないので、これがこの本の売りなのだろうと思いました。

新商品開発や新規業態への進出を考える方には便利な本なのかもしれなません。起業が盛んな山手線の南側のエリアでは売れる作品の部類に入るのではないかと考えました。その気にさせる本は売りたくなってしまうものです。

こうして様々なことが意識の中で交錯して、現場にいる人間は陳列場所を決めるものなのですが、やはり、この作品の場合の決め手は”黄色”というカバーの色だったのだろうと今では思います。

派手な黄色の装丁でなければいい場所に置こうという気にもならなかったでしょう。だから、この本が売れればカバーの色で売上は変わるということが言えるだろうと思います。よい場所に2面積みをしたから成功したと考えるなら、初速をつくる陳列の仕方の良い事例にもなるだろうと思います。

この作品の販売はまだ始まったばかりです。これから追加注文をした50冊が入荷してきます。その時点では4面か6面に面数を増やすことになるでしょう。

そこで売上がもう一段弾ければ、改めてこの作品1点でコーナーを作って本格的な仕掛け売りに移行することができるはずです。


テーブル1台展開に昇格?
出版社の担当者に依頼した追加注文の50冊が宅配便で入荷しました。その時点で『価格と儲けのカラクリ』は今まで置いていた話題の本の一番目立つ位置に4面積みに陳列量を増やしまた。

ところが売れ行きがよくてすぐに在庫量が少なくなってしまいましたので、短期間のうちにまた2面積みの陳列に戻ってしまいました。

30冊入荷の時点で、装丁の色が気になって話題の本のコーナーの一番いい位置に2面積みをしていました。よく目立つ装丁の色が効いた所為かよく売れていって、30冊の商品を展開した段階でビジネス週間ベストの第3位にランクインしていました。

50冊入荷して在庫量が増えた週には第1位になりました。次の週も売れ行きの良さは継続して、ビジネス週間ベストの第1位を2週連続で確保するまでに実売が大きくなっていきました。

こうなると色気が出てきますので、商品展開をさらに大きくしようと考えました。出版社の担当者に追加注文をお願いすると彼も喜んで手配をしてくれました。

酔狂でいい位置に置いた時にはこんなに売れるとは思いもしなかったのですが、在庫が100冊規模になって、いよいよレジ前の柱を背負って置かれたテーブルに、11100冊展開の仲間に入りました。

100冊展開がスタートしてしばらく経った時、ある出版社の営業マンがやってきて教えてくれたことがあります。

「この著者は経済系の作品は神樹兵輔の著者名で刊行していますが、心理系の作品は神岡真司の名前で出しています」

データ検索してみたら、『思い通りに人をあやつる101の心理テクニック』という思い出深いタイトルが出てきました。
23年ぐらい前にいた店に『10万部メーカー』がやってきて、「10万部を作りたいから協力して売ってくれ」と言われて売り伸ばしたことがありました。

当時のその店でも100冊以上売ったし、10万部超えに成功した作品だと聞いています。

装丁の色を意識した並べ替え
神岡真司の著者名でデータを見ると他の作品もそれなりに売れているものが多いようなので、元々売れる著者だったのかもしれません。

白い装丁が多い話題の本のコーナーに、派手な黄色でアクセントをつけたから売れたなどといわれると心外に思うのかもしれません。
だとしたら他の店でももっと売れていいのではないかとも思う。チェーン内他店ではこの時点でこの作品を売っている店は他にはありませんでした。

あちこちの店を回っている出版社の営業マンに聞いても
「この作品をこんなふうに展開して売っている店は見たことがない」
と言っていました。

そんなことを考えながら売れ行きの動向を注目していると、『価格と儲けのカラクリ』は販売のペースは変わりなく続いていきました。
在庫が100冊規模になってからは、レジ前の柱周りの一番売れるスペースに陣取って、テーブル1台展開が上手くハマっています。

柱周りには4台のテーブルが置かれていて、全て1アイテムで1台の展開をしていました。『価格と儲けのカラクリ』を並べる時に、他の作品の表紙の色を考慮して色のバランスを配慮した配置に並べ直しました。

白地に白帯の『エッセンシャル思考』を一番右側に、黄色に黄色帯の『価格と儲けのカラクリ』をその隣に置き、白地に白帯の『出世する人は人事評価を気にしない』が3番目、黒地に白帯の『一流の人はなぜそこまで、コンディションにこだわるのか?』がそのとなりに並ぶようにしました。

色の配列によって他の作品との相乗効果を取れるようにと画策したつもりなのですが、どういう結果が出るのか楽しみにしています。データ量が増えれば表紙の色の組み合わせによる売上傾向が見て取れるのではないかと考えています。

どう見ても白と白の間の黄色や、白の隣の黒は目立ちます。白は白なりに強さを主張しているようにも受け止められますが、とにかく鮮やかな黄色はいちばん目立っています。
このまま売れていけば装丁の色で売上が変わる事例として語り継がれるようになるのかもしれません。


並ぶ作品には負けない
『エッセンシャル思考』はテスト販売のころから初速がよくて、出版社も重版のロットを大きくして一気に5万部まで伸ばした作品でした。

本当に重要なことを見極め、それを現実に実行するためのシステマチックな方法論であり、99%の無駄を捨て1%に集中する方法というキャッチコピーに惹かれ、担当者がその気になって100冊注文をして仕掛け売りが始まりました。

『出世する人は人事評価を気にしない』は入荷2冊から売れ始めて、タイトルに妙に納得してしまって売る気になっていった作品です。
出版社の担当者に著者のプロモーションDVDを流さないかと言われて、それならと応じて展開を大きくしてテーブル1台展開が始まりました。

ビジネス書出版社がビジネスマン向けにタイトルや装丁を作って、実用書をビジネス書として販売する傾向が顕著になっています。同じような系統の作品が何冊か出版されてよく売れているのですが、内容は健康に関する本であることに変わりはありません。

そんな流れの中で刊行されたのが『一流の人はなぜそこまで、コンディションにこだわるのか?』でした。この作品も初速がよくて100冊の追加注文をして、テーブル1台を占拠して並ぶようになった作品です。

「ボリュームを上げると売上は倍加しますよ」という伝説の営業マンの格言は今も生きていて、『価格と儲けのカラクリ』を始め『エッセンシャル思考』『一流の人はなぜそこまで、コンディションにこだわるのか?』の3作品が100冊規模の展開になってから、それぞれの作品の売上が倍加しています。

そんな中で『価格と儲けのカラクリ』は5週連続ビジネス週間ベスト第1位を続けることができたのです。5週連続ベストテン第1位は10万部突破の一つのバロメーターとして使っています。

この作品も出版社が力を入れて拡販をすれば、当然10万部以上が狙えるはずです。過去の経験から判断すると十分可能だと思います。

他の作品にない装丁の色に着目して始まった気まぐれの仕掛け売りから、ベストセラーと呼べるような作品が生まれました。


0 件のコメント:

コメントを投稿