2015年9月20日日曜日

ミニうり坊 2年目の新人、10万部突破に貢献

実用書をビジネス書の棚で売る
「海・川・プール 出かける前にちょっとスロトレ」
このコピーをパネルにして、ビジネス書のおすすめ本を展開しているスペースの一番上の棚一段を使用して、実用書担当を支援したフェアを実施したことがあります。

期間は2009年6月20日から8月31日までの73日間でした。当初は夏休みに入るまでと考えていたのですが、売上好調につき延長しました。

…もうすぐ夏だ。小さい子がいるサラリーマンは子どもを海に連れていく。山にも川にも行くかもしれない。当然、父親は子どもの前で裸になる機会が多くなるだろう。
おなかが出ているとちょっとかっこ悪い。今のうちにおなかをへこませておきたい。
でもハードな減量作戦はできそうにない。スロトレだったらいいかもしれない。
そう考える人たちはこの店にいっぱい来店しているのではないだろうか。

どの場所で展開したらいいのだろうか。
ターゲットは小さい子供のいるお父さんだよね。彼らがこの店で一番行きそうな場所ってどこだろう。一階の入り口のビジネス書のおすすめ本が並んでいる棚だよね。
だったらそこがいいか。その場所の真ん中の棚の上の段一段使っていいよ。

こんなふうに連想ゲーム的に考えてこの企画は始まりました。

企画のコンセプトは「スロトレでビジネスマンの腹をへこまそう」です。
商品は3点選び、『ストレッチメソッド』を3面、『30秒ドローイング』2面 、隙間に『一日6分痩せる体をつくる』を1面 にして棚一段を埋めました。

ジャンルが配置された場所によって、日の当たらないままに忘れ去られたような売上で推移してしまう商品が多くあります。その店の実用書は恵まれていない場所に置かれていました。

最上階のフロアの商品を一階で販売すると何倍もの売上が取れることはお分かりいただけると思います。あるいは全フロアに商品を置くとどのくらい売れるものなのか想像してみてください。
ましてやメインの客層の客導線上に配置したらどうなるでしょうか。置き場所によって売上は大きく変わっていくものなのです。

棚一段だけ使用したこの企画で、約4ヶ月間かけて300冊以上の販売実績を上げています。
<「企画を成功させる技術」から加筆して引用>

法律系実務書出版社の変身
2012年に「睡眠」をテーマにした実用書がビジネス系出版社から刊行されて、その店のビジネス書の話題の本のコーナーに置いて200冊以上販売しました。

その出版社は法律系の年度版の書籍を多く発行していた出版社でした。
経営状態が苦しく、資格書を出している出版社の発売元になって一息ついたようでしたが、利益を稼ぐのはもっぱら資格系の本ばかりで、庇を貸して母屋を乗っ取られたような状態になっていました。

縁があって「書店発ベストセラーのつくり方」についてのお話をさせていただきました。その場では事例を挙げて「営業の力でベストセラーは作れる」と力説しました。
同席したメンバーからは旧態依然としたスタイルから脱却できない営業部への批判が多く出ていました。

その後、話しを聞いてくれた編集者が新刊を出すことになって、発売元の出版社の営業マンと一緒に店を訪ねてきました。彼は自分の作った作品で書店発ベストセラーを狙いたいと意気込んでいたのですが、二人のやり取りがかみ合わずに苦戦しているということでした。

10万部突破を目指す営業では拠店をつくるためにまとまった数での受注が必要なのですが、その営業マンは自分の要望をはっきり伝えず、相手の言いなりの受注数で満足しているようでした。

店のどの場所で商品を展開したいのか。そこで展開してどれくらい位の売上を取りたいのか。その店の客層と商品がいかにマッチしているか等々、店担当者にアピールすべきなのに積極性が欠けているように感じました。

どの店で強い売上を作りたいのかが明確に意識されていないと、10万部を目指す拠点づくりはできません。再度、書店発ベストセラーづくりのストーリーを説明し、営業のスタイルを変えるように提案しました。

たまたまその作品ではベストセラーをつくることはできませんでしたが、一念発起した営業マンはその後に発売された実用書系の作品で、「ベストセラーを狙って作る営業スタイル」をマスターしたようです。
『あなたの人生を変える睡眠の法則』『目は1分で良くなる!』という作品で、両方とも10万部を超えるベストセラーを作りました。

ビジネスマンの生活シーンを切り取る作品
なぜ実用書をビジネス書の棚で売ったのかと問われれば、気まぐれと答えるしかないのですが、商品の対象客層としてビジネスマンが想定されるとしたら、ビジネスマンが最も集まりやすい場所で売るのが理にかなっていると考えたからに他なりません。

男性ビジネスマンが女性客の多い実用書のゾーンに入っていくのは気が引けるように思うし、ダイエット系の本は女性向けに書かれている作品が多い。その中に男性向けの商品を入れ込んでも男性客は目にすることはできにくいだろうと思います。

ダイエット本は基本的に女性向けの作品が多く、女性向けの実用書の中でも中核をなすジャンルですので、それなりに棚本数も使われています。健康に関する本にしても主に女性客がメインになっています。

メタボ対策本は年配男性が多く必要としています。メタボでなくても、夏になると腹の出具合を気にするビジネスマンが多く出てきます。そんな時に女性客が多い棚にわざわざ出向くのを嫌がる男性客は多いと思います。

男性客の寄り付きが多いビジネス書の中にこうした商品が置いてあると、男性客でも抵抗なくお買い上げできるでしょうし、衝動買いも期待できると思います。そんなふうに考えていたのです。

2014年になると、ビジネス系出版社がビジネスマン向けにタイトルや装丁を工夫して、実用書をビジネス書として販売する傾向が顕著になりました。

かんき出版の『なぜ一流の男の腹は出ていないのか』2014年の3月に出版されて、売れ行きがよく重版を重ねていきました。それに続いたのが『なぜ、一流の人は疲れを翌日に持ち越さないのか』でした。

両方とも内容は健康に関する本であることに変わりはありません。それまでは実用書系の出版社から実用書として出版されたものです。
次いで、『一流の人はなぜそこまで、コンディションにこだわるのか?』という本も刊行されて、初速が良かったようです。

こうした作品の売れ行きの良さを認めた出版社が、ビジネス系、実用書系を問わず、「一流の人シリーズ」と言えるような作品を相次いで刊行するようになりました。
一つ一つの生活シーンから自身を変えることで、ビジネスマンとしての成功法則を見つける。そうした考え方を持つと企画はいくつも作れるようです。

ビジネスマンの生活シーンを切り取る作品は、ビジネス書の棚の必需品になったと思えるほど出版点数が増えています。

新人も2年目に突入
新入社員研修で店頭実習を受けていた1年目女子も半年過ぎると正式に配属が決まります。どの店に配属になるのか、本人も気がもめたようですが、正式発表の一週間前にマネージャーから内示があり、そのままその店に配属になりました。

夏の文庫フェア、秋の読書週間などに合わせて自分なりのお客さまにおすすめする作品を選び、テーブル1台使って仕掛け売りに挑戦してきましたが、ヒット作と言えるような実績を作ることはできませんでした。

正月やバレンタインなど、季節に合わせた商品にもチャレンジしましたが、与えられたテーブルの設置場所が階段の踊り場ということもあって、かんばしい実績を作れないまま2年目を迎えてしまいました。

この年は新入社員の採用がありませんでしたので、2年目に突入と言っても後輩はできませんでした。相変わらず店の中では新人扱いをされています。

入社2年目男子は新書ダービーで第一位を取り、10万部を超える作品にすることに貢献しました。また、3年目女子は4年目に入りましたが、文庫ダービーで2度ほど第一位を獲得し、それぞれの作品で単店で1000冊越えを経験しています。

1年目女子はこのまま実績を作れなければ、自分の存在感を認めてもらえませんので、起死回生の一発を当てたいとひそかに考えていました。それでも売れる作品に出合えなければ話になりません。

2年目に突入する頃、ビジネス書売場の中に本来実用書に分類される作品が潜り込んで、ベストテンにランクインするケースをよく目にしました。
ビジネス系の出版社が、これまで実用書を出していた著者を使って、ビジネスマン向けに刊行した作品群です。こうした作品はビジネス書に分類されていますので、実用書担当者としては手が出せません。

ミニうり坊でもテキストによる講義と売り伸ばしの実践が両輪になっています。5月の初めに行われたミニうり坊の講義は「企画を成功させる技術」でした。その中に「海・川・プール 出かける前にちょっとスロトレ」の話しが登場していました。
その日に提出するために用意してきた計画書と販売スタイルがとてもよく似ていました。傍にいた3年目に突入した新書担当も事前に企画の概要を聞いていたのか、思わず笑みがこぼれた表情を見せていました。

2年目新人女子の計画
2年目に突入した新人の売り伸ばし企画に取り上げられた作品は、3月に主婦の友社から刊行された『できる男は超少食』でした。

彼女の取り上げた作品の内容紹介を主婦の友社のホームページから引用します。

オバマ大統領やマイクロソフト創業者ビル・ゲイツは超少食で知られる。日本でも星野リゾートの星野社長、ジャパネットたかたの高田社長、ビートたけし、タモリ、福山雅治などは1日1食。
スポーツ界でもサッカーの小野伸二は1日1食、横綱白鵬は少食、陸上の為末やジャイアンツ球団は定期的に断食するなど、各界で活躍する人に少食実践者が多く、活力の源=大食、という図式は成り立たないことがわかる。
飽食の現代、食ベ過ぎが健康によくないことは皆の知るところだが、さらに少食にすることで眠っている本来の能力が目覚め、「できる男」に!  
メタボ解消はもちろん、頭が冴え、体が軽くなり、集中力アップ、短眠でも疲れない。そして、若返って精力絶倫に。さらにボケない、病気にならない、寿命も伸びる。飲み会や接待、会食が多いビジネスマンでもラクラク実践できる「少食ライフ」のススメ。

最近はやりのビジネスマンの生活シーンを切り取る作品の中で、コンディショニングを整える内容のようです。タイトルを見ると「一流の人」の代わりに「できる男の」というフレーズが使われています。このあたりも彼女を売る気にさせた要因のようです。

この作品は健康・医学に分類されています。実用書系の出版社から発行されると、取次の分類は実用書になることが多いようです。この店でも実用書に分類されて、彼女の活躍できる条件が整いました。

「ビジネス書の柱周りに設置されているおすすめ本用のテーブルを一台使用して、ボリューム陳列をする」と計画書には明記されていました。

「ビジネス書担当の了解は取れているの?」
「これからです」
「時流に乗っているし、この店の特徴もつかんで計画書ができている。何はともあれ、ビジネス書のテーブルが使えるかどうかにかかっているね」
こんな会話の後で計画書は承認されました。

客導線上にボリューム陳列
気持の優しいビジネス書担当の了解が取れて、商品が入荷次第テーブルを1台あけてもらうことになりました。

彼女の注文した商品が6月3日に入荷し、その時点で手元にあった在庫と合わせて100冊弱の仕掛け売りがスタートしました。テーブルには8面積みで展開されて、パネルはA3サイズが使用されました。手書きPOPのコピーは「腹が減っても戦はできる」でした。

周りのメンバーも注目して成り行きを見守っていましたが、入荷日から10日間で10冊超えの売上が記録されると、「微妙だな」という発言が周囲から漏れてきました。ビジネスの仕掛け売りでは週売20以上が目安となります。

「出足としてはいいのではないでしょうか」
ビジネス書の担当者はそんなコメントをしていました。テーブルを返せとは言われずに、仕掛け売りを継続させることができ、彼女は安心した表情を見せました。

次の10日間はほぼ倍の売上となりました。週売ではないし、ビジネス書として考えるとまだ微妙な売上なのですが、周りの皆さんには大目に見てもらって、2年目新人女子の仕掛け売りはさらに継続していきました。

その後も特別に跳ねる売上は作れていない状況は続きましたが、客導線上にボリューム陳列する売り方が効果を発揮して、仕掛け開始後2か月目に累計売上が100冊をクリアしました。

100冊を越えると、出版社の方々の反応が強くなります。販促物として大型のポスターを作成していただきましたし、多くの書店で店の一等地での陳列が始まったようです。店内でも存在感を主張し始め、ビジネス担当もテーブルについては何も言わなくなりました。

3ヶ月目も同じようなペースが続き、4か月目に200冊越えを実現しました。嬉しいことに、交通広告に合わせて入荷した注文品の帯には「10万部突破」という文字が明記されていました。この時点でこの店の売上は出版社の刷り部数の0.2%となりました。

過去のうり坊メンバーは出版社の担当者と協力して10万部突破をめざしていました。「自分もベストセラーづくりに貢献できたらいいな」と考えていた2年目新人女子は、「うり坊の先輩たちと肩を並べることができてとてもうれしい」と言っています。

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