2015年8月18日火曜日

物語 ビジネスダービー 1

ビジネス書対策
文庫の三度目のブレイクスルーを狙って新たな企画を考えているころ、丸山がバイヤーとして担当していたビジネス書は、売上が対前年を上回ったり下回ったりを繰り返していました。
うり坊への支援が上手く機能して文庫の伸び率は平均を大きく上回っているのに、本業がこの体たらくではどうしようもありません。何とか打開策を考えなくてはいけないと追い込まれていました。

そんな時、うり坊的ブレイクスルーの手法を参考に売上上昇の仕組みをつくることを考え付いたのです。文庫のブレイクスルーは出版社の力を借りて企画の推進母体を大きくすることで生まれていました。
ビジネス書も基本は同じだろうと思いましたが、ただ、1社だけを相手にしてもビジネス書のブレイクスルーは難しいのだろうと想います。そこで、もっと多くの出版社を同時に囲い込む方法はないかと模索するようになりました。

書店にとって商品確保と商品情報の収集は欠かせないものです。それは出版社がもたらしてくれます。その量と質が高まれば何とかなるかもしれない。
毎月バイヤーとして接している出版社のメンバーの顔を思い描き、不足している出版社をリストアップしていくと方向性が見えてくるような気がしました。

「ビジネス書をメインにしている複数の出版社と組んでビジネス書の会を立ち上げよう。定期的に会合を重ね、売り伸ばしの企画を実施していけば、ビジネス書のブレイクスルーができるかもしれない」

このアイデアが生まれたのは、うり坊納涼会の企画を思いついた時でした。飲み会を設定して人数を多く集め、その場で新企画を発表するスタイルが良いと思いました。
ただ、飲み会を設定しても名目がなければ参加者はいないだろう。人を集める名目は何が良いだろうと考えたとき、親善ボーリング大会のイメージが湧いてきました。

2007年は出版社との対抗ボーリング大会が何度か開かれていました。出版社の中核を担っているおじさまたちは若いころにボーリングブームを経験しています。マイボールをお持ちの方も多いと聞いています。
対抗ボーリング大会では皆さんの顔に笑顔が溢れていました。かつての愛好家や懐かしく思える人たちが嬉々としてボールを投げていました。これだったら人を集めることができるかもしれない。立ち上げはボーリング大会にしようと決めました。

組織化
新しくビジネス書の会を立ち上げようとするとき、何人かの協力者を得るとスムーズに進行させることができます。そこで、お付き合いの長い出版社の営業マンのMさんに声を掛けました。

「いいじゃないですか」
彼も乗り気になってくれました。

出版社のメンバーに乗り気になってもらうことはとても重要なことです。彼が企画の推進者になってくれるかもしれないし、出版社のメンバーを取りまとめてくれる可能性もあるからです。
ここで成功のイメージが膨らんできましたので、仕入部の部長に話しを持ち込み、ボーリング大会開催の許可を取りました。そして200776日に「山村書店ビジネス書の会親善ボーリング大会」を開催しました。

仕入部が発行する正式なご案内状を作成し、出版社に送り返信を待ちました。書店としての正式な案内状があれば、営業マンが参加しやすくなると判断してのことでした・
ご案内を送った出版社は、ダイヤモンド社、日経新聞出版社、東洋経済新報社、PHP研究所、日本実業出版社、三笠書房、かんき出版、明日香出版社、中経出版の9社でした。

ゲームを楽しくするために出版社間の競争意識を煽ることを考え、2名の合計得点で順位を争うチーム戦にしました。全員が得意なスポーツだとも言い切れないでしょうし、上位入賞を狙うならボーリングが得意なメンバーを連れてくることも可能です。

何時も会っているメンバー以外に参加されるであろう上司や同僚の方ともコミュニケーションが取れるようになって、人の輪をもう少し広げられるかもしれません。そんなことも考えていました。

案内状を送った出版社のうち翌日が結婚式だという三笠書房の担当営業マンが欠席の連絡をしてきましたが、残りの8社からは参加の連絡がありました。中経出版だけは1名しか参加できないということでしたので、山村書店のメンバーを貸し出すことにしました。

山村署店からの参加メンバーは主要店の6名、近日オープンの店、開催地の店長、仕入部及び営業部のメンバーを選出していきました。最終的に出版社からは815名、山村書店からは10名、合計25名が参加することになりました。

ボーリング大会
ゲームを始めてみるとかんき出版のKさん、PHP研究所のNさんたちはとても上手です。フォームが様になっていますし、ストライクを重ねカウントを稼いでいきます。日経のOさんもスローボールで確実にスペアを取っていきます。昔取った杵柄なのでしょうか。
日実のKさんは体の大きさに合わせた豪快なパワーボーリングでピンをなぎ倒していきます。丸山も負けじと頑張りましたがブランクの大きさに負けてなかなかうまくは行きませんでした。
山村書店からは店の店長が多く参加していました。それほどうまい選手はいませんでしたが、仕事中とは全く違う顔つきでとても和やかにゲームをしていました。
「あいつあんな顔だっけ?」
新しい発見をしたような気分にさせられました。

2ゲームはあっという間に終わり、次はレーンサイドにあるレストランで宴会が待っていました。これからが丸山の出番です。得点の集計は営業部から参加したメンバーに任せて、まずは乾杯です。
参加した皆さんの顔つきはとてもさわやかに見えました。仕事で付き合っている場面での顔つきとは微妙に違いがありました。汗をかいた所為かスッキリした顔つきの方がほとんどです。生ビールをおいしそうに飲んでいます。
どの席でも隣同士で楽しげに会話が弾んでいます。体を動かした後の宴会はひと味違った楽しさがあるようです。

得点の集計が終わったようなので、成績発表の前に今夜の趣旨と景品のお話をします。
「本日はお忙しい中を山村書店ビジネス書の会親善ボーリング大会にお集まりいただきましてありがとうございました」
皆さんのちょっと上気した面持ちとけだるそうな雰囲気はスポーツを楽しんだ後の状況そのものです。
「これから本日のボーリング大会の成績発表を行いますが、その前に少し話しをさせてください。ビジネス書の売上はなかなか厳しいものがありまして、現状は前年実績を上回るのに汲々としています」

話しの合間に、だんだんと真剣な表情に変わっていく参加者の姿に営業マンとしての真剣な表情を読み取ることができました。

「そこで、皆さんの力をお借りして、どうにか現状を打破したいと考え、ビジネス書の会の立ち上げました。本日のボーリング大会がその第一歩です。これから売り伸ばしのための企画をいろいろと考えますのでぜひご協力をお願いいたします」

成績発表
「本日のボーリング大会ではここに集まっている店長たちの店で一等地を使ったフェア開催あるいは仕掛け売りの権利を景品にしたいと考えています。第一位から順に発表いたしますので、お気に入りの店をご指名いただきたいと思います」

丸山の説明に会場からどよめきが上がった。ボーリング大会としては前代未聞の景品のようで、驚きの声と歓声がこだましていました。

「本日の第一位はKさん、Mさんのかんき出版です」
前に出てきた二人は誇らしげな顔つきをしていました。個人成績表を渡された二人は満面の笑みを浮かべています。
「さてどの店を選びますか?」
二人はちょっと間を置いて目を合わせて言いました。
「K店でお願いします」
会場からどっと歓声が上がりました。仕掛け売りが得意なA店あたりが一番人気かと思いきや以外にもK店が選ばれました。Kさんに何か腹案があるのでしょうか。

「続いて第2位はOさん、Hさんの明日香出版社です」
成績表を貰った後で、二人は顔を見合わせました。Oさんの目配せを受けてHさんが言いました。
「A店H店長よろしくお願いします」
HさんはA店のある地区を担当しています。他の出版社の作品が山と積まれて売れていくのを黙ってみているわけにもいきません。順当な選び方なのでしょう。

「次は中経出版です」
本日はメンバーの都合がつかずTさんおひとりの参加でした。ペアとなった総務のメンバーの活躍と女性対象のハンデを加えて入賞が果たせたようです。
「こんな成績でよろしいのでしょうか」
と言いながらTさんは
「F店K店長よろしくお願いします」
沿線の中核都市にある店を指名しました。彼女の担当エリアでは一番大きな店でしたので、彼女らしい選択だったと思いました。



その後も成績発表が続き、5位の日本実業出版社のKさんが新規店を指名して、仕掛け売りをする権利を巡る争奪戦は終了しました。

ビジネスダービー
仕掛け売りの権利をボーリング大会の入賞者の景品にした理由は、営業マンによっては本部担当と地域担当が違う場合もあり、本部担当だからといっても、店長と十分な意思の疎通が図れていないこともあると考えたからでした。

仕掛け売りというのは傍目で思うほど簡単なものではありません。必ず成功するという訳ではありませんし、店によって売れる商品の傾向は違います。何を仕掛けるか商品を決めるためには入念な歌わせが必要です。

成功してお互いが満足できる結果が得られれば、双方に感謝の気持ちが生生まれるはずです。本当のコミュニケーションというのはそうした成功体験から生まれることが多いと考えています。丸山はそこを狙っていたのです。

ビジネス書の出版社が好む仕掛け売りのチャンスを餌に、双方のコミュニケーションがより深まるようにしたいと考えていました。出版社と書店の双方が納得して始めた仕掛け売りは絶対成功すると信じています。

「次にビジネスダービーについて少しお話しさせてください。ビジネス書の会が主催するフェアを開催します。時期は夏の文庫フェアが終わる9月を予定しています。細かな企画内容については別途説明会を開催したいと思います」
丸山にとって長い伏線を経て、ようやく本題に入ってきました。

「今考えている企画内容としては、皆さんからおすすめの一冊を推薦していただいて、その作品で販売コンクールをしたい。作品別の販売実績で出版社ごとの、フェアの売上実績で店ごとの表彰をしたいと思います。皆さんの商品を見る目を信頼しておりますし、表彰があると店のメンバーもやる気が出てくるのではないでしょうか。そのように考えましたので、どうかご協力をよろしくお願いします」
丸山の発言に「おおっ」とどよめきの声が上がりました。

「また、今日ここに集まっていただいた方々の出版社を中心と考えてチェーンオペレーションとしてのビジネス書の常勝戦略を考えていく予定です。皆さまのご協力をよろしくお願いします」
挨拶を終えてこれならいけるという手ごたえを丸山は感じていました。

ビールを飲み続ける方、ワインにする方、ウーロンハイに変える方、飲み放題メニューですので、どの種類の飲み物も何本もあけてしまいました。和やかに楽しく過ごして会は終了しました。
PHPのお二方と日経のOさんと丸山が帰りの電車で一緒になって、ボーリングの話しや、最近の売れ筋商品の話しなどをしながら帰りました。

説明会開催
企画書を作成してビジネスダービー説明会を開催しようとしましたが、全員が一堂に集まる機会が取れなくて、三回に分けて行うことになりました。
同じことを3回に分けて説明ことは面倒なことですが、参加していただける人たちに喜んでいただくためにも、皆さんの意見をできるだけ多く聞いて納得性の高い企画にしたいと心がけていました。

今回の企画書は決定事項として提示すのではなく、最初はゆるめに作成して、皆さんの意見を聞いて修正を加えながら企画としての完成度を高める方法を取りました。重要視したところは、出版社ごとの争いと店ごとの争いを楽しめる状況をつくることに置いていました。

企画のタイトルは皆さんの意見を取り入れて
「今こそこれを読め!」
として
「ビジネス書出版社営業マンのイチオシ」
というサブタイトルがつくことになりまし。

企画の実施時期は91日から930日の1か月間となりました。
各出版社からのおすすめの一冊は815日までにノミネートしていただくようにして、事務局の承認を得て正式な参加となり、併せて同日までにおすすめの理由を200字以内の文章にして提出していただきました。
提出された文章を基に、表紙画像とおすすめ文を掲載した商品紹介用のPOPパネルを仕入部で作成し、統一看板はダイヤモンド社のHさんの好意で店数分用意していただくことも決まりました。

提出されたノミネート作品はテーマがあぶるかぶることはありませんでしたので、すべて承認されました。
また、出版社の方々には、「今こそこれを読め!」というタイトルにふさわしい熱いメッセージを込めたPOPを作成していただき、POPコンテストをすることも決まりました。
POPは827日までに仕入部バイヤー宛に直送していただき、各店に配送することにしました。


商品は827日までに337冊取次に搬入していただきましたが、取次の皆さんのご協力で店ごとにセット組みしていただいて納品していただきました。

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