2015年8月17日月曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 30

ちくわ会第二回拡販
会議が始まるころには文庫販売部の担当者たちもやってきて、会議室は大人数で埋まりました。人の輪がどんどん広がっていきます。
会議が始まるとまずは前回の結果報告がありました。

筑摩書房の梅野さんから最初に報告がありました。
「もう少し多くの店で仕掛け売りに協力していただけるといいのではないかと思います。前回は有志だけで行ったようなので、今一歩盛り上がりに欠けたように感じています」
うり坊からも発言がありました。
「確かにそんな感じは否めません。三島が中心になって各店の文庫担当者に声を掛けたようですが、乗ってくれるメンバーが少なかったようです」
「今回は今日いるだけでも9店舗のメンバーがいますので、前回よりは多い店で拡販ができると思います」
「うちの方でも担当が変わりましたので、心機一転頑張りたいと思います。では次回の作品についての検討会を始めましょうか」

うり坊全員が持参した作品を見せて、おすすめの理由を述べていきます。筑摩書房の方からもおすすめの作品が紹介されました。
しかし、どれをとっても
「よし、それにしよう」
というには今一つ決め手を欠いていました。

時間の経過とともに熱意と押しの強さが特徴の多田野が押し切り始めましたので、
「よし、お前が仕切れ」との丸山のひと言で多田野が推薦する
『牛乳の作法』宮沢章夫 ちくま文庫
に決まりました。

多田野は各店の文庫担当者に拡販への参加を呼びかけ、投入部数を決めていきました。POPも自作して参加店に配りました。
ついには牛乳瓶と牛乳飴を買ってきて一緒に陳列をしました。牛乳飴はお客さまにも差し上げていました。売るための工夫に燃えて頑張りましたので、前回よりも大きな部数を販売していました。

店別に販売実績を算出して、遠藤、村山、多田野が表彰されることになり、梅野さんが引率する蔵前B級グルメツアーにご招待いただきました。

第三回拡販
第三回の拡販商品は後藤がおすすめした
『解剖学教室へようこそ』養老孟司 ちくま文庫
に決まりました。

「夏休み期間に置いてみたらよく売れました」
後藤はそう推薦の理由をそう説明していました。そこで、言い出しっぺの後藤とちくわ会責任者を自称する多田野が二人で仕切ることになり、拡販の準備を始めました。

さすがに養老先生の本です。二人の拡販企画の参加募集に多くの店の文庫担当者が応じました。販売実績も一店舗で100冊以上売る店が続出し、過去最高の販売実績を上げることができました。

販売数ではうり坊遠藤の店がトップでしたが、梅野さんの判断で、僅差二位のうり坊金沢、三位のうり坊中田、四位のうり坊山森の三名を表彰していただき、蔵前B級グルメツアーにご招待いただきました。

蔵前B級グルメツアーはウナギコース、寿司コース、焼き肉コースがあって、この回は寿司コースが選ばれました。中田は文庫担当になって初めての参加で、上位に入賞し、表彰までしていただいて、とても感激していました。

勉強会がきっかけで始まったちくわ会がだんだんと存在感を主張してきました。全店大仕掛けとは比較にならない売上規模ですが、やりたい人この指とまれ方式でもお付き合いが続くうちになじんできます。これはこれで意味のあることではないでしょうか。

筑摩書房でまたしても人事異動がありまして、担当が変わることになりました。ちくわ会設立時から、七沢さん、梅野さん、山田さんが今では担当が変わっています。うり坊でも三島、岡本、村山、遠藤がいなくなっています。それでもちくわ会は継続しています。

2007年のおすすめ文庫全店フェアでも、2008年の雑学文庫ダービーでもちくま文庫が選ばれて戦いに参加しています。文庫売り上げの規模からすると不思議なことなのですが、うり坊の誰かがそのたびに強く推す作品を出しているからなのでしょう。

「ちくわ会は文庫ばかりに目がいって、新書の話題は全然出てこないな」
このセリフをどの場面で彼らに語るか、丸山はタイミングを計っています。

なると会
うり坊の夏の出版社訪問では、ナツイチの集英社を欠かさず訪問しています。そしてアポイントを取るとたいていは一日の最後に来るように言われます。そして、飲み会に誘われます。
「筑摩書房との間でちくわ会を作って、タイトルを決めて拡販しています」
そんな席でちょっとだけ話したら、
「よし、筑摩がちくわならうちはナルトだ」
高田さんのひと言でそう決まりました。そうです、ジャンプコミックスには超売れ筋のナルトがありました。こうして
NARUTO会が立ち上げられました。

山村書店では夏の文庫は新潮が一番強くて、次が角川。この構図はなかなか変えられません。どうしても集英社文庫は三番手で、隅に追いやられたり、スペースが取れないときは棚前で展開されたりしています。

しかし、2007年は文庫出版30周年の節目の年ですから、集英社は気合いが入っていました。
「今年だけは大きく展開してくれ」
「新潮と角川を押しのけても今年は頑張るぞ」
そういう担当者の心の叫びが聞こえてきました。

集英社サービスの蓮沼さんにセッティングしていただき、ナツイチが始まる前に勉強会が開催されました。高田さんを始めいつものメンバーが全員参加しています。
集英社文庫担当の円城寺さんが今年の目玉について説明をしました。

1.     コミック作家とのコラボレーションで生まれ変わった太宰治作品
2.     新鮮イメージガールの表紙
3.     蜂のストラップ

「今年のナツイチは違うぞ」
と実感しました。ほとんどの店が注文してセット数も大きくなり、ナツイチにカウントされる6月新刊も強力です。30%を超える伸び率を目標としました。

前年の新潮文庫は『ナイフ』を山村書店の夏の一冊と決めて3000冊を目標に拡販をしました。その話に集英社のメンバーは強く反応してこの検討会が開催されました。

うり坊メンバーからおすすめの作品が持ち込まれ、集英社のメンバーからもおすすめの作品が出てきました。お互いに説明をし合い、質疑応答をして絞り込んでいきました。

最終的に山村書店のナツイチは
『笑う招き猫』集英社文庫 山本幸久
に決まりました。
酒飲み書店員のおすすめで、千葉方面で売れていた作品だったようです。『笑う招き猫』は2000冊を投入して拡販をスタートさせることに決めました。

新潮文庫の夏の一冊は『太陽の塔』森見登見彦で、角川文庫は『ツイラク』姫野カオルコが決まっていました。果たしてこの作品で勝てるのでしょうか。

会議が終わって飲み会が始まると小出さんがおもむろにネクタイを皆に見せました。何と集英社文庫のオリジナルネクタイです。森山が向かい側の席でおなじようにみせています。
「集英社文庫30周年の説明会の時に頂きました」
高木がすかさず
「ください」
と言って、本当に貰ってしまいました。テーブルの片隅には薄切りにした、なるとの皿が置かれていました。
ちなみに、次のNARUTO会の時にはオリジナルネクタイをつけたメンバーは三人になりました。もちろん森山と高木と小出さんです。小出さんは何本ネクタイを持っているのでしょうか。金沢が
「私にもください」
と叫んでいます。集英社の皆さんはサービス精神が旺盛ですから、楽しくワイワイ過ごすことができました。

『笑う招き猫』は搬入が遅れたこともあって、ナツイチでは今一つ波に乗れない状態で、1000冊前後の販売実績で終わってしまいました。
2007年の集英社文庫はナツイチだけでなく一年を通して30%以上伸ばしています。『水滸伝』もずいぶん売りましたし、太宰治作品もよく売りました。
ただ、どちらかというと「売った」というより「売れた」作品の方が多かったような気がします。

「楽しくワイワイ過ごす飲み会で力を使い果たして、売り伸ばしに力が入っていない」
そんな声が聞こえてくるような気がします。何とかせねば…

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