2015年8月12日水曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 25

新企画
『床下仙人』が新記録ペースで売れている頃、候補作品のノミネートができなかった出版社の営業マンが丸山に不満を漏らしました。

「うちにもチャンスをくださいよ」
「おすすめ文庫全店フェアでは小説系の作品ばかりが選ばれているじゃないですか」
「雑学系にはもうチャンスはないんですか。以前は雑学系の作品で全店大仕掛けを何度もやっていたじゃないですか」
確かにそれなりに売れるはずだし、言っていることは間違っていない。チャンスがないと言われるのはちょっと辛いなあ、何とか考えてみるよ」
そう答えて、うり坊メンバーにリサーチすることにしました。

「もっともな話です。何とか工夫しましょうよ」
「確かに、雑学系の文庫でもベストセラーは出ていますよね」
こんな話を聞くと、だんだんとやることが既定路線のような雰囲気になっていきます。
「じゃあ、やるか」

企画書作りのための下打ち合わせが始まりました。
「おすすめ文庫全店フェアの良かった点は何?」
「絞り込んだ作品の全店フェアでしょう」
「雑学系の文庫でお客さま投票ができるかな?」
「ちょっと難しいかな」
「良かった点と継続実施できる点はそのままやろう」
「できない点は無理にしようとしないで別の方法を考えよう」
こんな意見交換が行われて、丸山が企画書を書き始めました。

「3月に雑学ダービーと銘うって全店フェアを実施しよう。そして1ヶ月おいて。5月、6月に第一位作品の拡販キャンペーンだ。最初にそこだけ決めて、後はスケジュールに落とし込めばいい」
「企画をステップアップさせるために何か一つ付加するとしたらなんでしょう」
「店文庫担当者の地力の発揮だろうな」
「最初の投入冊数を絞って、店に自由に追加注文をさせて、それぞれの店で押す作品を仕掛けて売ってもらう」
「出版社にもお知らせして、出版社の営業力を活かして売り伸ばしてもらいましょう」
「文庫担当者の目利き力と出版社の営業力が試せすということですね」
「その線で企画書を書き上げよう」

うり坊新年会
7月に行われたうり坊納涼会はずいぶんと楽しく開催できましたし、その後、出版社との関係性は大変親密になりました。日常の仕事に良い効果を与えていることもわかっています。『床下仙人』の新記録が現実味を帯びてきたころに新年会の企画を考えました。

うり坊は元気でなくてはなりません。そのためには栄養と酒の補給が欠かせません。拡販キャンペーンを頑張ったご褒美も必要でしょう。そんなことから新年会を実施しようと考えました。
1月21日に文庫担当者会議を開き、その後で新年会を開催することにしました。

納涼会では文庫担当者には会費を半分負担させて、残りを会社が補助するスタイルで開催しました。そこにメンバーから不満の声が上がっていました。
「何せ、若くて給料が安いのに、食べて飲んでが大好きですからいつもお金がないのです」
丸山にもそうした時期がありましたので、気持ちはよく分かりました。

12月の後半に会ったうり坊メンバーに
「『床下仙人』が10000冊を超えたら新年会は無料にしてやる」
と言ってしまいました。
拡販キャンペーンに勢いをつけたい思いもあったからなのですが…

1月に入ると10000冊突破が確実視されるようになりました。
仕方がありませんので、本当の気持ちを部長にお話しして、会社の経費を使う許可を得ました。

当日、うり坊メンバーの森山と金沢を呼んで
「お前たちが司会だ」
と突然告げました。
「えっ、ええー」
尻込みのかたちを見せる金沢に対し、森山はちょっと間を置いて、
「この間丸山さんがやったやり方でいいんですよね」
そう言ってきました。この辺が両者の違いです。だからと言ってやらないわけではありません。
「それでいい。何かあったらフォローするから、まずはやってみなはれ」
ということで二人が司会をすることになりました。
突然の振りはうり坊の基本です。
どんな時にも対応できるような人材にするには、常に振り続けることも必要なのです。

参加メンバー
うり坊新年会に集まった出版社
新潮社、講談社、角川書店、文藝春秋、集英社、幻冬舎、PHP研究所、小学館、祥伝社、
筑摩書房、三笠書房、中央公論新社、徳間書店、東京創元社、大和書房、角川春樹事務所、
二見書房、扶桑社、日経新聞出版社、河出書房新社、朝日新聞社、中経出版、ランダムハウス講談社、ベストセラーズの25社です。
複数参加の出版社がありましたので、参加者は36人となりました。

店からの参加者は27店舗29人が参加しました。仕入部から4名、取次が1名、合計34名でした。出版社も合わせると70名が参加しています。
納涼会が53名でしたので、60名ぐらいかなと考えていましたので、これほどの人数になるとは思いませんでした。

多くの人数が集まるということ山村書店に対する興味が少しずつ高まっていると考えられます。予定した会場では狭くなってしまって、中2階のスペースを使わせていただきようやく人数分の席が確保できました。

うり坊の司会はマイクを使いません。思いが伝わる肉声が基本です。こういうシチュエーションでは司会の声は大きくならざるを得ません。

今回は中2階が喫煙席になっていました。そこで最初のご挨拶は喫煙席に座ったベテランの営業担当を呼びだし、乾杯のご発声は文藝春秋の販売促進部長さんに突然のご指名でお願いしました。
出版社の方々にも振りまくるのがうり坊スタイルです。

おいしい料理とお酒の合間に動き回る参加メンバー。立食パーティではなかったのですが、時間を置いてみてみると、ほとんどのメンバーが席を立って移動しながら名刺交換をしています。

中2階の席にはあまり動かないメンバーもおりましたが、どこが誰の席なのかわからなくなってしまいました。

丸山を始めうり坊メンバーは雑学ダービーの企画説明がありましたので、それが終わるまでは酔っぱらう訳にはいきませんでした。
無事に企画説明を終えてようやく飲み始めることができました。



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