2015年8月11日火曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 24

『月の扉』の影響力
2006年秋から翌年にかけてブレイクスルーした『月の扉』の著者石持浅海さんは2007年に7作品が出版されました。2か月に1作のペースです。

月の扉の累計15000冊突破があってから、新刊発行のたびに山村書店では注目銘柄となっていました。『アイルランドの薔薇』光文社文庫は2004年9月刊行の既刊本でしたが、『月の扉』の横に置いておくだけで累計1300冊の販売実績となりました。

新刊については『月の扉』の販売実績が出版社に相当強い影響力を与えたようで、発売前から仕入部のバイヤーにアプローチがあって、事前の指定配本をしていただきました。

2007年5月刊行の『水の迷宮』光文社文庫は事前指定で3000冊確保して積極的に拡販をしました。累計売上5400冊まで売り伸ばしています。

2007年9月発行の『心臓と左手』カッパノベルスは『月の扉』の登場人物で事件を解決に導いた座間見君が活躍する作品でした。いわばスピンオフ企画だろうと期待したのですが、短編だったためか期待ほど売れず、800冊程度の実売でした。

2008年2月発行の『扉は閉ざされたまま』祥伝社文庫は発売から20日間で1000冊を超える初速をだしています。1日50冊ペースです。『水の迷宮』レベルの累計販売実績は作れるでしょう。

今後も続々と新刊が出てくることが予想されます。2008年5月時点で石持浅海作品は、山村書店では超売れ筋作家の実績に匹敵しています。石持さんはまだ勤務先の会社は辞めていないようですが、いずれは専業作家になるかもしれません。

元々新宿地区の店で川島君が仕掛け売りをしていたのを、全店大仕掛けの候補作品としてノミネートしたことが、大ブレイクスルーを引き起こしたそもそもの原因でした。その結果作家そのものに注目が集まり執筆の依頼がたくさん来るようになったのです。

うり坊では装丁の美しさに注目が集まり、そこに着目して売り伸ばしてきました。たから装丁家にも良い仕事が回ってくるのではないかと考えています。

ベストセラーが生れることによってこんなところまで影響が及んでくることを、うり坊メンバーは初めて知ることになりました。

『床下仙人』の影響力
売れた作品によって原稿依頼が集中する作家が生まれる陰に、作品がどうしても売れなかった作家がいます。彼にはもう原稿依頼が来ません。
志を抱いて東京にやってきても、もう出版されることはないだろうと思います。

原稿を出版社に持ち込んでも体よく断られるだけです。作家になる夢が破れて田舎に帰る人が毎年たくさんいると聞いています。

『床下仙人』の著者原宏一さんは2003年までに10作品を出版していました。しかし、2004年からは新刊は発売されず、『床下仙人』が断裁された時点で、作家生活は修了せざるを得ない状況だったようです。

Y書店グループの町田店の文庫担当者が発掘した作品が大ブレイクして、
「これを『おもしろくない』というならば、もう、おすすめする本はありません」
のコピーとともに売りまくってしまう現象が各地で起こりました。

2007年に『天下り酒場』祥伝社文庫が文庫化されたのを始め、続々と新刊が出始めました。2008年3月には
『ダイナマイト・ツアー』祥伝社文庫
『穴』実業之日本社ジョイノベルス
『姥捨てバス』角川文庫
が立て続けに刊行されました。

どれもが山村書店銘柄と見做されて、仕入部のバイヤーにアプローチがありました。新刊の事前指定配本の声がかかったのです。担当者は申し込み部数を何冊にするか悩みながらも盛り上がっています。

ひとつの書店チェーンで、3か月で15000冊以上の販売実績を作ってしまい、累計15万部のベストセラーが生れ、今は原先生の元に原稿依頼が来ていることでしょう。
おすすめ本を一生懸命売ったことが、書店にとってはドル箱作家を持つことに繋がり、作家にとっては忙しい毎日が始まるようになりました。

2003年に10作品が刊行された際には、重版がかかった作品はありませんでした。ところが今は、刊行された新刊に重版がかかっています。15万部突破のベストセラーがもたらした影響だろうと、うり坊は考えています。

課題
「おすすめ文庫全店フェアは、お客さまと取引先に、強いインパクトを与えることができました。次年度も、おすすめ文庫全店フェア2008として企画を継続していきたいと考えています」
こんな発言を新年会の企画説明の中で行いましたが、出版社の皆さんにはすでに今から来年の企画に関心が集まっているようです。

「来年はどの作品が勝ち抜くのか」
「来年は負けません」
「今から楽しみです」
こうした会話もあちらこちらで聞いてきました。

うり坊は次回の企画で『床下仙人』以上の売上が取れるものなのか、多少の不安も感じています。それでもうり坊の企画に停滞はありません。
さらにステップアップするための課題を理解して、それをクリアしていくことが求められているのだと理解しています。

「候補作品の質を上げることが重要なことではないでしょうか」
「打つ手はやはり出版社の協力をいただくことですね」
「うり坊自身の絞り込みの技術のレベルアップも必要かもしれません」
店の文庫担当者からこんな意見もいただきました。

「お客さま投票が少なかった」
仕入部長からの指摘が最大の課題なのかもしれません。

「もっとお客さまに関心を持っていただく」
「そのために何をするのか」

お客さまにうり坊とおすすめ文庫全店フェアをもっと理解していただけるようにしなければならない。企画そのものの宣伝も重要だし、刷り物を用意して読んでいただけるようにするのも必要かもしれない。

さらにレベルアップして沿線の文化と言えるような位置づけにしていければ、自然とお客さまの理解と関心が集まって、4さらなるブレイクスルーの可能性が出てくると思います。



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