2015年8月9日日曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 22

表彰
事前準備の段階から出版社の方々に声をかけて販促用のサービス品を提供してくださるようにお願いしていたところ、たくさんの出版社の方々から様々な賞品をいただきました。

『月の扉』の光文社からは雑誌の創刊記念ように作った図書カードをいただき、お客さま投票の景品使用させていただきました。

企画を始める前に取次のチェーン担当部署にも企画説明に伺いました。過去の全店大仕掛けの実績も考慮し、今回の企画に対する自信もありましたので、何かインセンティブが欲しいとお願いをしました。

「企画の商品はおすすめ文庫全店フェアだけで11000冊注文します。第一位が決まれば拡販キャンペーンがありますので、少なくとも18000冊から20000冊が動くはずです。特別正味にしていただけませんか」
企画説明の後でそんなふうに切り出しました。
「それはできません」

「店の努力で何の苦労もなしに右から左に商品を動かすだけで、お宅は儲かるのでしょう」
こんな汚いセリフも口にして食い下がりましたが、答えは変わりませんでした。
「何か方法はありませんか」
「売上の向上に著しく貢献する良い企画で実績を上げた場合には、表彰のお手伝いだったらできるかもしれません」
「それは素晴らしい。それをお願いします」
こんな経緯で取次さまには大いに助けていただくようになりました。おかげで様々な部門の表彰ができました。

拡販キャンペーン売上第一位 うり坊高木君
12月1月の2か月間に全店で11000冊以上販売した『床下仙人』のほぼ1割の占有率で第一位に輝きました。彼は人事異動で移ったばかりでしたが、これまでの全店大仕掛けでもこれほど輝いたことはありませんでした。

「店内の一等地での展開スペースを確保できた」
「パネル、POPを含めた陳列技術が向上した」
「年末以降は売るぞ!という気迫が強く感じられた」
こんなところが拡販実績第一位に輝いた理由のようです。

担当が変わると売り方が変わり、今までになかった大きな実績を作ってしまうことは良くあります。ましてや、うり坊の賞金稼ぎと言われた高木君が異動して行っているのですから、当然のことでしょう。

販売効率第一位 うり坊河崎君
『床下仙人』売上占有率÷文庫新書売上占有率で算出しました。
「11月28日に入荷したその日からすぐに売り始めて、勢いがついてそのまま突っ走った結果です」
新担当の河崎君が言っていました。

陳列コンテスト第一位 12月オープンの新規店
拡販キャンペーンの始まった翌日にオープンしたできたてほやほやの新店です。入口近くのステージで大きく展開をしていました。
当初予定していた季節商品の展開を取りやめて、拡販キャンペーンの商品を展開していました。100冊スタートでしたが、景浦さんにすぐに頼んで200冊直送していただいてボリュームを増やしました。
開店の勢いを強くするための重点商品としての位置づけに変更したのです。
展開場所の近くで見ていると、
「おすすめ文庫全店フェア第一位って何?」
そう仰っている方がいて、POPを確かめたり、裏表紙の説明書きを読んでいたりしていました。
新規オープンに合わせてご来店いただいた地域のお客さまに、山村書店の名前を強く印象付ける役割を果たしていました。

拡販キャンペーン売上身長率第一位 デパート内書籍売場
『月の扉』との比較で200%以上の対前年伸び率を出していました。今までは下位に低迷していることが多かったのですが、今回は上位に進出してきました。

おすすめ文庫全店フェア売上第一位 うり坊鈴木君
初回投入冊数770冊、販売実績618冊でした。第2位は初回投入冊数550冊、販売実績581冊でうり坊森山君が続いていました。

企画実施期間中販売実績第一位 うり坊鈴木君
おすすめ文庫全店フェアから4か月間の販売実績で第Ⅰ位でした。4か月間頑張り続けたことに敬意を表しました。

大ブレイクの理由
うり坊会議の反省会を開いて、おすすめ文庫全店フェアと拡販キャンペーンの企画の総括をしました。その中では四つの決め手が成功の要因であると結論が出ています。

1.    いい場所にボリューム感たっぷりの陳列を2ヶ月間維持し続けた
全店大仕掛けで培ったノウハウを駆使し、考え得る限り一番いい場所で商品を展開し、
『床下仙人』づくしのスペースが作れた。
必要なタイミングで大量の商品を投入し、飽きることなく、めげることなく手をかけてボリューム陳列を維持した。売り上げ増には最も効果があったという意見が多かった。

2.    第一位帯が効いた
 自社名入りの第一位帯が前面に出て、おすすめ文庫全店フェア第一位の根拠をわかりやすく説明した。第一位を大きく目立たせたことにより、お客さまの興味を引き、買いやすい雰囲気づくりに成功した。

3.    売れる魔法のPOPを使えた
「これを『おもしろくない』というならば、もう、おすすめする本はありません」
このコピーを使ったパネルを店頭の拡販スペースに展示すると、売上が跳ね上がっていきました。確かにくさいセリフですが、これが効いたのです。
町田の書店員さんの魔法のPOPが売上を呼び込んでくれました。

4.    「売れてる本」の記事のコピーが効いた
町田の書店員さんの絶版からの復活の記録、おすすめ文庫全店フェアで第一位に輝いたことが記事で紹介され、店頭でお客さまに読んでいただけるようにコピーを使ってsピールすることができた。

企画の面から考えると、
「自分たちだけでおすすめ本を決めて、勝手にお客さまにおすすめして、売れた、売れたと喜んでいたうり坊が、真剣にお付き合いをして巻き込んだ出版社の大きな助けを借りて、新記録をつくり、おすすめ文庫全店フェアを実施して、お客さま参加を実現させて、自社の名が記された冠まで作ってしまった」
ということになりました。

ステップバイステップの企画の進化がお客さまの心に届いたのでしょう。それがこのような売上新記録を打ち立てた大きな要因だと丸山は言っていました。

お客さまが決めた第一位
「文学賞はすでに実績がある作家が新人作家を仲間に入れてあげましょうという意思表示です。だから優秀な作品がなければ該当作品なしとします。書店にとっても出版社にとっても受賞作品がないと売上に直接響きますから、いつも受賞作があることを期待します。しかし、作家にとっては作品の質がすべてですから、自分たちの仲間に入れてあげるにはある程度のレベル以上でなければならないのです。だから該当作品無しはその賞の権威を高めることになります」
これは販売部から古巣の文芸編集部に移った景浦さんのお話しです。

本屋大賞は書店員の投票で決まる仕組みになっています。最初に候補作品を全国の書店員から募り、最終候補作品が決まってから2ヶ月間の間に読みこなします。そして書店員の最終投票で決まります。

これはあくまでも書店員のお気に入りです。一部のカリスマ書店員が操っていたり、出版社の意向がいつの間にか反映してしまったり、そんなうわさが絶えない中で、自分の意に沿わない作品が決まってしまうと売りたい気持ちは萎えていきます。

以前の大仕掛けも仲間内の話し合いで決めていましたので、基本的には同じスタイルだったと思います。

おすすめ文庫全店フェアはお客様参加が得られました。自分たちの売りたい気持ちだけで商品をおすすめすることなく、
「お買い上げや投票にお客さまのニーズを読み取り、第一位はお客さまが決めた」
と思えば
「よし、これは売れる」
「売らなくちゃ」
と考えるようになります。

書店が商品をお客さまにおすすめしてお買い上げしていただくためには、ただ単に
「書店員のお気に入り」
よりも、
「お客さまのお気に入り」の方が強かったのです。


これが『床下仙人』が『月の扉』を60%以上も上回る前代未聞の新記録を作ってしまった本当の理由なのではないでしょうか。

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