2015年8月2日日曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 16

夏の出版社訪問
2007年夏、5日間をかけて文庫出版社13社を訪問しました。昨年参加したメンバーが多くいましたので、出版社の割り振りにメンバーの希望を受け付け、訪問していない出版社に行けるようにしました。

「前回新潮社だったので今度は文藝春秋に行ってみたい」
「今年は講談社に行ってみたい」

「アポイント取りも自分たちでするように」
調子に乗ってそう言ってしまったおかげで、後で難しい展開になってしまいました。
各自が自分の時間と相手のスケジュールに合わせて、それぞれが勝手にアポを入れてしまうと
「さあ、大変」
「こんなにすきま時間が空いてしまう」
「これではろくに回れないぞ」
ということになってしまいます。

一日に何社も訪問するとなると設定してはいけない時間というのがあります。午後一時は基本的に食事を終えて移動を開始する時間です。そこにアポが設定されてしまうと、午前中の訪問と、食事の時間が取りにくくなってしまいます。

一社だけ訪問するのならば問題はないのですが、4~5人のグループで回るうり坊の出版社訪問では全体を見ながらスケジュールを調整しなければなりません。慣れないメンバーに任せてしまったのが失敗でした。

訪問スケジュールは出版社の所在地、移動ルート、移動時間を考慮した上で、相手のスケジュールを押さえる。話しの流れで時間が超過することもありますので、余裕を持たせながら最短ルートで効率的に回り、一日でより多くの出版社を回る必要があります。

今回はスケジュールの調整が効かない出版社もありましたので、一日で回る出版社数が少なくなり、訪問日数が多くなってしまいました。反省。

うり坊出版社訪問スケジュール
17日 中央公論新社、PHP研究所 担当森山 本社丸山
21日 講談社、祥伝社、小学館、集英社 担当村山、金沢、山森、三田、本社丸山
22日 文藝春秋、幻冬舎、河出書房、担当川田、森嶋、金沢、本社山本
23日 新潮社、角川書店、光文社 担当鈴木、森山、本社丸山
24日 筑摩書房 担当多田野。後藤

企画説明
企画書の説明は出版社の担当を割り振られたうり坊メンバーが行いました。納涼会に参加した方々には面識がありますが、出版社によってはかなりの人数が集まってくることがあります。たどたどしさを残しながらなんとか説明ができたようです。

パワポで作った企画書は配布資料を1枚に2ページずつ印刷したものを用意して、皆さんに渡します。説明者用にはノートの部分に解説を書き込み一枚ずつ印刷して、読みながら説明できる資料にしました。これがあれば初心者でも説明が容易になります。

真剣に説明すれば、気持ちは相手に伝わります。
「お客様参加型の企画が素晴らしい」
嬉しいことに、企画説明後に数社の方々からこうした声をかけていただきました。
とはいえ、これからが本番です。

文庫販売部の方々から候補作品が提案されます。その一つ一つの作品に書店員としての反応を返さなければなりません。
「企画の趣旨にあっているか」
「売れそうな作品か?」
見極めて判断をして返さなければなりません。
ただ、相手の言うことを聞いているだけではあまり意味はありません。言葉や表情の応酬で作品の評価をしていくのです。何点もの作品を出していただく中で、より響く作品を選ぶことも必要だとうり坊は考えています。
お互いの主張で議論ができれば、厳選された候補作品を集めることができます。企画への自信とやる気を引き出す話術があれば、相手もヒートアップしてきます。

一社で5作品も説明してくれた出版社もありました。彼らの説明を聞いて、
「何を一番押しているのか」
「何を売りたがっているのか」
感じ取っていきます。熱い言葉で語る方もいれば、冷静に淡々とお話しされる方もいます。

アポイントを取る際に、何をお願いするのかは説明してありますが、その場では出版社としての意向が固まりきらずに、充分吟味して、後程ご連絡させていただきますという方もいらっしゃいました。

おいしい食事をごちそうしていただいたり、飲みにつれていってくださったり、自分たちで飲みにいったり、うり坊は夏の暑さにめげることなく出版社訪問をしました。

人脈
書店員にとって出版社のキーマンを知ることはとても大切なことです。誰に頼めば商品を確保しやすいのか、キーになる人物につながりがつけば、欲しい商品を回してくれる可能性は高まります。

出版社にとって書店のキーマンは必要なものを必要なタイミングで販売してくれる書店員でしょうし、全店に影響を及ぼせる人材が一番重要だと感じていると思います。

お互いにメリットを与えられるような存在になれば、自然に人脈は築けるようになります。長いこと書店員をしている丸山は出版社に何人もの知り合いがいます。仕入に関して困ることはほとんどありません。

役員になったり、部長になったりしている方も大勢知っています。ただ、丸山だけが人脈と持っていても、本人がいなくなればそれで終わりです。

成長する会社の人脈は世代ごとに受け継がれていかなければなりません。若い人は若い人同士でつながりを築き、お互いに成長して会社の中で中核の地位を築くことができれば、人脈は続いていきます。

先輩が見本を示し、後輩が背中を見て覚える。そういう場面をセッティングしてあげることはとても大切なことだと丸山は考えています。

うり坊の出版社訪問は集団で出かけていきますので、中に新人が混じっていてもたいていは歓迎されます。歓迎されて最初のきっかけができます。

先ずは、自分を知っていただくことが重要ですから、自分の存在感を何とかアピールしなければなりません。出版社のおすすめ本に対する評価がきちんとできると能力を認めてもらいやすくなります。認めていただければ、次のステップに移っていけます。

出版社の方は自社の商品については詳しいのが基本です。また、特定のジャンルで出版社同士の横のつながりで活動している方もいらっしゃいます。そうした方の知識はたくさん吸収すべきです。勉強の機会になることは請け合います。

うり坊では新人にチャンスを与えるためにも、人数も回数もなるべく多く引き連れて出版社に訪問する機会をつくるようにしていました。

継承
出版社の方々にきちんと相手をしていただくためにどうすればいいのか、出版社訪問の移動中の車内や、ちょっとした空き時間に新人に向けて語り聞かせることもありました。

「これを売る、と決めて仕入れたものは必ず売り切りなさい」
「売るための工夫には限りはありません」
「なんとしても売り切るんだという決意を行動で示しなさい」
「売り切ることで信用が生れます」
「信用されると出版社からの提案を多く受けることになります」
「信頼される書店員には自然と情報が集まってきます」
「情報を活かすことで他の書店員の一歩先を歩くことができます」
「売り切ることを繰り返せば、信用が信頼に変わります」

「陳列場所の位置、スペース、ボリューム、POP、キャッチコピー、売るタイミングなど、売るための技術を磨きなさい」
「売れた場合、売れなかった場合、両方とも『なぜ』を3回以上繰り返して振り返りをしなさい」
「明確になった売れた理由、売れなかった理由を必ず記録しておきなさい」

うり坊の出版社訪問は丸山にとって人脈の継承をするための一つの過程であり、メンバーには視野を広げ知識を吸収する絶好のチャンスだと考えています。

出版社訪問で企画説明をして、厳選された候補作品を1社3点前後ノミネートしていただきました。前回と同様、活きのいい提案が多かったような気がしました。

訪問できず、電話連絡しかできなかった方々の推薦を合わせ、出版社からは55作品がノミネートされました。
店の文庫担当者からは35作品が登録されました。出版社と書店員で重複している作品もありましたので、延べ90作品が第一次候補作品となりました。

前回が60作品でしたので1.5倍のノミネート作品が集まっています。この時点で、前年の全店大仕掛けに対する反響と、今回の全店フェアへの反響を単純に数値化して比較することができました。

販売実績もこれと同様な数字が出るのではないかと、この時点で丸山は考え始めていました。

0 件のコメント:

コメントを投稿