2015年8月1日土曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 15

企画書
『月の扉』の3か月で10000冊が前年実績になる2007年秋、もう一段上を行くブレイクスルーが必要だという考えが丸山とうり坊の頭にこびりついていました。

60点のノミネート作品から10点に絞込み、本を経費で買って、皆で回し読みして投票した結果、ブレイクスルーができました。そこにまだ工夫の余地があるのではないか、お客さま参加型の企画はどうしたらできるのか。
5月頃から色々とみんなの意見を聞き、考えをまとめ始めました。そうして出来上がった企画が「おすすめ文庫全店フェア」です。

候補作品を集め、絞込みをするところまではそれまでと同じです。絞り込んだ作品で全店フェアを行い、お客さまのお買い上げに、お客さま投票とスタッフ投票を加えて順位を決めることが変更点となりました。

1か月の準備期間を設け、次に第一位を獲得した作品に「おすすめ文庫全店フェア第一位」の帯をつけて拡販キャンペーンをする。これは今回の企画の目玉となる部分だし、売り方に勢いをつけるという意味で工夫を加えた点でした。

うり坊の大仕掛けから始まって、全店大仕掛けで大ブレイクをさせてきた企画を一度解体し、再度組み直すことになりました。
おすすめ本を出し合って、みんなで話し合って売るべき作品を決めて、一括仕入れをして全店で売り伸ばすという単純な企画は役割を終えたのです。

企画書を作り、納涼会で企画を説明し、出版社訪問を契機に熱意のこもった候補作品を推薦していただき、店担当者の売りたい作品も含めノミネート作品を綿密に検討し、絞り込んだ作品で全店フェアをする。
お客さまのお買い上げ、お客さま投票、スタッフ投票をポイント換算して順位を決める。
第一位の作品には第一位帯を巻いて、全店で拡販キャンペーンを実施する。
新しい企画はこんなかたちになりました。

企画書づくりと候補作品のノミネートに2か月、全店フェアに1か月、1か月間を置いて、2ヶ月間の拡販キャンペーンを実施。事前準備を含め約半年かけて進行していく壮大な企画が生れました。


丸山は7月開催予定の納涼会までに企画書をつくり、出版社の方々にもうり坊メンバーにも納得していただいてからスタートさせることにしました。

納涼会
三年連続のブレイクスルーを目指すために、もう一度出版社を強く巻き込もう、全店の文庫担当者の企画に対する参画意識を高めようと、うり坊納涼会を企画しました。
全ての文庫出版社の営業担当者と店の文庫担当者全員を一堂に集めて、納涼会を開催して、その場で企画説明もしてしまおうと考えました。

元々山村書店では年に一回、出版社の皆さんをご招待して懇親会を開いていました。ただ、そこに参加できるのは本部スタッフ、店長、新入社員と決まっています。出版社と取次会社から150社ぐらいが集まり250人から300人ぐらいの規模で行っています。

ただ、うり坊や店の文庫担当者は参加できません。うり坊は出版社訪問や勉強会などで出版社との交流は続けています。普段訪問されることもない店の文庫担当者にもさまざまな出版社の方々と出会う機会を作ってあげたいと思っていました。

出版社の方々に山村書店で働くメンバーを知っていただくことは、とても重要なことだとうり坊は考えていました。
うがった言い方を許していただけるとすれば、出版社が特約店を作って書店を組織化するように、うり坊も納涼会を開催して出版社を組織化しようと考えたわけです。前年度の出版社別販売実績の上位から順にピックアップして、正式な招待状を送りました。

参加していただいた出版社は、

新潮社、講談社、角川書店、文藝春秋、集英社、光文社、PHP研究所、小学館、祥伝社、筑摩書房、早川書房、三笠書房、中央公論社、徳間書店、東京創元社、大和書房、角川春樹事務所、宝島社、二見書房、扶桑社、日経新聞出版社、河出書房新社

の22社で、ほとんどの文庫出版社を網羅できたのではないかと考えています。複数メンバーが参加した出版社もありましたので、合計27人が参加しました。

店からの参加メンバーは19店舗21人と本社スタッフが5人で合計26人でした。出版社と書店の合計参加者は53人でした。
納涼会の前には文庫担当者会議が開催され、そこで秋の企画の発表が行われました。パワポを使ったプレゼンは丸山にとって初めてのことでしたが、無事に説明をすることができました。

企画説明
2007年夏の文庫フェアの勉強会は本社で行われ、終了後には近くの中華料理店で懇親会が開催されました。その席で自分たちだけで盛り上がって、紹興酒の一気飲み大会をしたグループがありました。
参加者のうちの一名が翌日体調を壊し勤務に影響が出てしまいました。メンバーたちにはしばらく飲み会を自粛するようにという通達が出ていました。

「私たちも納涼会に参加させていただけるのでしょうか」
という問い合わせがありました。どちらかというと
「出たいのですがダメでしょうか」
というニュアンスが勝っていました。
しばらく間をおいて、
「節度ある飲み方ができるなら参加を許します」
と返事をして、結局彼らを参加させることにしました。

納涼会の冒頭に乾杯のあいさつがあって、15分過ぎから企画説明をしました。
最新の文庫新書の販売データや半期ごとの出版社別販売実績、これまでの全店大仕掛けの実績などを資料としてお渡しし、秋のおすすめ文庫全店フェアの骨子部分の説明をさせていただきました。

候補作品のノミネート、絞り込み、最終候補作品での全店フェア、お客さま投票、スタッフ投票などを解説し、従来の全店大仕掛けとは異なる点は詳細に説明しました。
企画説明に対しての反応は概ね良好でしたが、お客さま投票に強い反応が返ってきたのがとても印象的でした。

「飲み会の席で企画説明をするなんて初めてだ。普通は企画説明会が先にあって、その後で懇親会があるのに、同時進行とは恐れ入った。これはこれで面白いかたちかもしれない」
ある出版社の方からこのような意見もいただきました。

納涼会を開始する前に若手文庫担当者に
「君たちにはめったにない機会なのだから、出版社の方々といっぱい話をしなさい」
「仲間うちだけでかたまるな」
「陽気に楽しく騒げ」
「名刺をいっぱい集めなさい」
と指示をして、会を盛り上げるようにしました。
若干の飲みすぎのメンバーもおりましたが、大盛会のうちに終了しました。

参加者の反応
うり坊には
「飲み会ではお友達をつくれ。それを仕事に活かせるように努力しろ」
と言っています。
コミュニケーションが取れて、お互いに理解しあって、お互いにメリットが生まれる関係づくりができることを願っています。
わざわざ沿線の主要駅まで来ていただいて、ただの顔合わせだけでは面白くありません。

ちなみに会場内は禁煙でしたが、ベランダ部分にテーブルといすが置いてあって、そこが喫煙所になっていました。たばこを吸う人たちは自然とそこに集まってしまいます。
そのうち、飲み物や料理も持ち寄って、夏の夜の月を見ながらの納涼会を楽しむようになりました。
その席ではベテランと若手が混在していましたが、何時の間にか
「ボーリング大会をしよう」
と盛り上がっていきました。

翌月8月20日にボーリング大会が開催されてました。この年は良くボーリング大会をしました。バイヤーとしての付き合いで合計5回も行っています。
まあ、こういうことでも出版社のメンバーとのつながりを深めることができますし、人脈作りにもなっています。

納涼会の次の日に
「楽しかった」
「ありがとう」
「みんな元気だねえ」
といったメールが届いて、
「よかった!」
と安堵しました。

会話が弾んで「これは面白いですよ」とすすめた本が他社本で、その本を店で仕入れて売り伸ばしたメンバーもいました。

こういう話しを聞くと納涼会を開催して心から良かったと思います。出版社も書店もお互いを尊重していこうとする姿勢が見えています。こうしたことから人と人のつながりが生まれてくるのでしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿