2015年7月25日土曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 8

中仕掛けの活性化
うり坊の活動が積極的になり、出版社との打ち合わせを繰り返して行うと、うり坊メンバーと出版社担当者との付き合いも親密になっていきます。すると、売りたがり書店員独自の掘り起しだけでなく、出版社からの提案でも仕掛け売りができるようになりました。

各店から独自の仕掛け売りが生れると、その店だけで跳ね上がった販売実績が確認されるようになります。特に有力店で行う仕掛け売りは数字的にも仕入部のバイヤーが無視できないものとなっていきました。

バイヤーがデイリーの販売実績チェックで異常に強い販売実績を確認すると、店の文庫担当者へ問い合わせが入ります。
話しの内容からその作品がチェーン全体に波及できそうだと判断すると、バイヤーが出版社と交渉してまとまった冊数を仕入れ、全体で売りまくる中仕掛けという売り方が始まります。

『グーグル完全活用本』はコンピュータ系のニーズが高い都心のターミナル店で動き始めたもので、それを全店に波及させ、約4000冊強の販売実績を上げています。

『脳がぐんぐん若返る』は沿線の中核都市にある一番店から火がついた作品で、バイヤーが1500冊仕入れて中仕掛けとなり、この作品も全店で約4000冊近くの販売実績を上げた。

『怖いくらい当たる血液型の本』は郊外の店から動き始め、早めに都市開発がすすめられて高齢化が進んでいる地帯に広がっていった作品でした。
販売実績は約3500冊でした。若い人が集まる都心の店ではあまり動きがなかったために販売実績のブレイクスルーは起きなかったとバイヤーは判断していました。

『交渉人』『女神』は新宿地区の店の担当者が自分で発掘したり、出版社の営業担当者から提案されて売り始めたりした作品で、割りと万遍なく店を選ばず売れていたようで、全店で4000冊をオーバーしています。

ここに挙げた数々の商品のいずれもが、うり坊メンバーやうり坊に影響された文庫担当者が店独自で仕掛け売りを始め、本部のバイヤーが追随して全店に波及させた作品でした。うり坊の仕掛け売りが店の文庫担当者に大きな影響を与えていることが読み取れます。

本部のバイヤーが名づけた「中仕掛け」という売り方で、常時4000冊近辺の販売実績を作ることができると全店の文庫新書の売上も安定していくことになります。

本部一括仕入れの活性化
全店大仕掛けやバイヤー主導の中仕掛けが成功して、年間の販売実績が大きくなるにつれて、出版社との付き合いは深まり、お互いの協力体制が作れるようになりました。それを端的に現わしているのがチェーン一括の新刊指定配本でした。

『3日で運がよくなるそうじ力』王様文庫は単行本でベストセラーになった舛田光洋氏の文庫版の発売に合わせて、本部一括で指定配本された作品です。全店で8000冊以上の販売実績を作ってくれました。

『影踏み』祥伝社文庫 横山秀夫、『アヒルと鴨とコインロッカー』創元推理文庫 井坂幸太郎、『水の迷宮』光文社文庫 石持浅海の3作品共に1500冊から2000冊規模での新刊指定配本をしていただきました。累計では4000冊から5000冊の販売実績を作ることができました。

『行きずりの街』新潮文庫 志水辰夫は既刊本でしたが、第一位帯付きで拡販されて非常に売れ行きが良かったので、本部一括仕入れの交渉をしたものです。

初めは単店主義をチラつかされて難しい交渉になりましたが、全店大仕掛けのブレイクスルーの結果を理解していただいて、2000冊の一括注文を承認していただきました。

本部一括注文を一度理解が得られれば後は実績を作るだけです。売りさえすればその後に道をつけることは容易になります。結果として、累計10000冊を超すことができるまでに販売実績を伸ばすことができ、出版社担当者との信頼関係の構築ができたと考えています。

『葉桜の季節に君を思うということ』文春文庫 歌野省吾も既刊本でした。この作品も第一位帯をつけて拡販し始めてブレイクしていました。新潮社と並び文藝春秋も特約店中心の単店主義を守っていましたので、それまで本部一括の注文は受け付けていただけませんでした。

99%の誘拐』の販売実績を説明しながら、チェーン全体の販売力をアピールし、うり坊の活動と若手の文庫担当者の人間的な側面もアピールして、何とか本部一括注文を引き受けていただきました。

2000冊の注文からスタートして、販売実績を大きくすることで信用していただくことができました。その後何回か一括注文を繰り返し、累計10000冊を超すまで実績を積み上げることができました。

出版社の協力体制の確立
全店大仕掛けや中仕掛けの実績の積み重ねができたことで、本部一括注文のスタイルが確立し、仕入部のバイヤーの交渉力も経験とともにだんだんと強くなっていき、多くの出版社に実力を認められるようにすることができました。

一括注文をして単品ごとの販売実績を大きくする。次に出版社の総合的な販売実績を大きくし、法人としての出版社内のランキングを上げることができると、会社としての信頼関係を築くことに繋がりました。

文庫の売れ行き良好商品の販売実績では累計10000冊を容易に作ることができました。また、売れ行き良好品がジャンルに関わらずシェアが確実に1%を超える状態を保つこともできるようになりました。

こうしたことで、出版社の信頼関係が確実なものになり、法人対法人としての協力体制も整ってきました。法人特約制度の導入に伴い、大手の出版社のチェーン本部担当が常設されるようになりました。

法人特約は年度目標を設定して、目標達成ができると報奨金が支払われるスタイルが一般的です。目標達成するためには進捗度管理が必要になり、毎月一回の打ち合わせが必要になりました。

販売実績を大きくするには商品情報の重要性が高くなりますし、売るべき商品の検討も必要になります。大手出版社の方に来社いただき、月次の新刊会議が定例化されるようになりました。

全ての作品を一括注文する必要はありませんが、仕入部のバイヤーにとって事前情報を受けことができることは何物にも代えがたいものでした。情報を得ることがバイヤーとしての基礎力を高めてくれることが実感できたのではないかと思います。

仕掛け売りを意図しなくても大きな部数が店に配本され、それを粛々とこなしていく担当者が増えていきました。その結果、特別なことをしなくても全店大仕掛けと同じぐらいの販売実績を挙げる作品が次々と生まれるようになりました。

仕入部のバイヤーの中仕掛けはさらに進化していきましたし、店の担当者と出版社の営業担当者との関係性もとても強いものになっていきました。


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