2015年7月24日金曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 7

表彰
はじめての景品付きの大仕掛けは大成功を収めました。表彰対象期間は9月、10月の2カ月間でしたので、その販売実績に応じて一位から5位までの店の文庫担当者を表彰しました。

店ごとの順位ではちょっとした異変が現れていました。これまでの大仕掛けでは全く入賞したことのなかった都心のターミナル駅にある店が、2ヶ月間で550冊を超える驚異的な実績で一気に第二位に浮上しました。

雑学系の文庫の大仕掛けではどうしようもない実績しか作れなくて、何度もうり坊のリーダーから文句を言われていた店が、ミステリー系の文庫作品になった途端に跳ね上がった実績を作ってしまいました。

丸山の担当エリアの店も大健闘をしていて、3位、5位、6位、7位を占め、ベスト7に4店舗が入っていました。その中で5位に入った店もそれまでの雑学系の文庫の仕掛では一度も上位に入ったことのない店でした。

大手出版社のミステリー系作品を手がけたことによって、新たな気付きを多く感じ取ることができました。店の立地条件や客層の違いによって、雑学系の強い店と小説系の強い店に分かれることに気付いたのです。

全体的に好調に売上が推移していましたので、拡販そのものをすぐに収束させるのはもったいないと考え、他のメンバーと協議して大仕掛けを2か月間延長して12月末まで実施しました。

その2か月間で店別の販売実績では二位だった店が300冊以上売り伸ばして、チェーン内一番店を追い越して第一位に輝ました。5位だった店は240冊以上売り伸ばし3位に入り、6位だった店が240冊以上売り伸ばして4位になっていました。
その中にうり坊メンバーの高木君のいる店がありました。彼の頑張りで作り上げた実績で全店での表彰と、エリア担当表彰の両方を受賞しました。

期間を延長して拡販したことを出版社の販売促進部長に報告にいき、売り伸ばした3000冊余りの実績に対してもディズニーのチケットを貰えるように交渉をしました。
うり坊リーダーの三島君は店別の順位では表彰されませんでしたので、追加でいただくチケットで娘さんを連れていけるようにしたかったのです。

理由
久々に取り上げたミステリー小説作品『99%の誘拐』がブレイクスルーして新記録を樹立できたのはなぜだったのでしょうか。うり坊メンバーで検討会を開いて協議しました。

その席でみんなが確認した新記録の理由は4つ挙がりました。
1.     景品付きでメンバーのやる気が半端なく上がった
2.     第一位帯がついていた
3.     装丁がシンプルで色遣いもよく、多面陳列した時の見栄えが良かった
4.     陳列技術のレベルアップがった

ブレイクスルーの一番大きな要因は、景品付きでメンバーが積極的に売る気になったことが第一番として挙げられました。メンバーの売る気が仕掛け売りのスペース取りに効果を発揮したし、陳列技術のレベルアップにも影響しています。

元々この作品は他社から刊行されていて、大手出版社が著者著者対策の一環として再刊した焼き直し文庫でした。それが本の雑誌の読者アンケートに反応して、本の雑誌第一位に輝きました。

第一位帯がついていると、お客様の興味を引くアイキャッチャーの役目を果たしたし、本の雑誌というブランドが第一位を公認したことによって、内容に対する信頼感を植え付けることにもつながっているような気がしました。

この作品の装丁の色は鮮やかな紺色が基調となっていました。一冊だけでみる時より、同じ装丁がずらりと並んだ多面陳列の時の方が鮮やかに目に飛び込んできた印象がありますし、シンプルで濃い原色系がとてもインパクトが強く感じられました。

何よりも、装丁の色と帯の色、第一位の真っ赤な文字の色遣いがはっきりしていて、とても目立っていました。

「何これ、なんでこんなにたくさん並べているんだろう」
「へえ、第一位なんだ」
「売れているんだね」
店頭の一等地でボリューム陳列されたこの作品を見て、こんな会話をしているお客さまが多くいらっしゃったとメンバーから報告がありました。

陳列技術のレベルアップ
これまで各店の大仕掛けの陳列方法はワゴンを使った大量多面陳列が主流をなしていました。それがこの作品の大仕掛けから店ごと、メンバーごとに様々なパターンが登場するようになりました。

基本の多面陳列+POPのスタイルは同じなのですが、うり坊メンバーひとりひとりの工夫があちらこちらに見えるようになりました。それが新鮮に映った大仕掛けだったように思います。

「棚一本『99%の誘拐』づくし」
うり坊高木君は店の文庫ゾーンの最初にお客さまの目線に入る棚を使って、「棚一本『99%の誘拐』づくし」のスタイルを考案し、棚一本に一つの作品で50面以上の面陳を作っていました、

お客さまの手が届かない一番上の棚にはPOPパネルを貼り、要所に手書きPOPを配して見栄えをよくしていました。高級住宅街が背後に控えている立地条件の店にそのスタイルがフィットしたようで、月平均200冊以上の販売実績を作ることに成功しました。

「フェア台、エンド台『99%の誘拐』づくし」
第Ⅰ位と第2位を分かち合った、チェーン内一番店と都心のターミナル店では2か所での大量多面陳列をしていました。入口近くの一等地と文庫の棚が始まる位置のエンド平台の2か所でのボリューム陳列です。

フェア台でボリュームたっぷりの『99%の誘拐』を見た後で、お客さまの目的地の文庫売場に来て、その導入部でまた同じような多面陳列を見る。この2度見でその気にさせる作戦はとても効果的だったとメンバーの報告にありました。

「おすすめ本コーナー+文庫棚導入部2か所大量多面陳列」
4月入社の入社1年目女子澤口さんと、ローカル駅前店の文庫担当村山君が丸山の担当エリア内で、あたかも情報交換したかのような感じで同じように2か所展開を始めていました。

「ベストテンコーナーを作って第一位の位置に10面積み」
澤口さんは3か所目の展開場所としてベストテンコーナーを利用することを思いつきました。ベストテンコーナーはただ情報提供するだけでなく、その場で売れるように工夫するように、という丸山の指導があったのでそうした工夫を編み出したと報告しています。


波及効果
『99%の誘拐』の累計販売実績が10000冊を超えたとき、出版社の累計刷り部数は約30万冊だったと聞いています。この出版社の売上占有率が11.3%程度だと教えられていましたが、この作品だけを見ると3%を超えていました。

こうした実績を出版社から教えられて、うり坊メンバーはようやく自分たちの大仕掛けに自信を深めていきました。そして、『99%の誘拐』の累計1万冊の販売実績を見て、大仕掛けという拡販スタイルの名称を全店大仕掛けと呼ぶようになりました。

3か月で8000冊という数字は出版社にとって無視できない数字だと思いますし、累計1万冊越えは業界でも影響力を持つ数字だとうり坊メンバーは考えました。そのためにこの実績をあちらこちらの出版社に宣伝しました。

自慢げに聞こえたり、嫌味に感じたりする人たちもいるのかもしれませんが、大手出版社の作品でこうした実績を上げたことは相対的に地位の低いローカルチェーンにとっては格好の宣伝材料になると考えていました。

この作品の拡販は法人特約の目標達成に大きな影響を与えました。年間10000冊の販売実績が加わることによって、設定されたこの年の目標を大きく達成させることができました。

ちなみにこの年は全ジャンル達成という快挙でしたから、出版社から招待されて達成記念パーティが行われました。

すると、何とその場に京極夏彦氏が顔を出してくださいました。たまたま用事で来社されていたところに話しを持っていくと快諾して参加してくれたそうです。社内にもファンは大勢いましたので、会話ができたり、サインをしていただいたり大いに盛り上がりました。

景品付きの仕掛け売りで最後にはパーティまで開催されました。こうしたある種のお楽しみがある企画は大概成功するものだと経験的に思っています。

「苦労して活動して成果を出したら報奨を与える。すると次の活動のエネルギーがさらに強く生まれる」

これは人間の行動にかかわる大きな原則だとうり坊は考えています。メンバーも景品の獲得を目指して、工夫を重ね、頑張ったのは言うまでもないことなのです。


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