2015年7月23日木曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 6

作品選びの傾向
2004年の秋から1年間で4本の大仕掛けのデータが残っています。うり坊の大仕掛けは基本的に既刊本の掘り起こしを狙っていましたので、新刊は取り上げていません。この期間に取り上げられた作品は半年から1年前に刊行された作品ばかりです。

そのまま手を付けずに放置すれば3ケタの範囲でしか売れなかった作品を、大仕掛けで光を当てて掘り起こすことで、4ケタの販売にこぎつけています。そこにうり坊メンバーは面白みを見出していました。

自分たちで掘り起こした作品を売り伸ばして喜んでいたうり坊が、仲間とともにリーダー的存在になって全店で取り組む販売方法を作り出しました。

一人で売り伸ばしても所詮は数百冊の範囲でしかないのですが、仲間とともに売り伸ばして3000冊を常時超える実績を作るようになりました。これは中小出版社の一回の重版のロットに匹敵する数字です。

重版のロットと同じ部数がこなせれば出版社に対する交渉力が強くなり、在庫がなければ重版をしてでも搬入してもらえるようになりました。販売実績が大きくなると発言力も強くなって、パワーが変わってきます。

個人ではできないことを集団で可能にする面白さにうり坊メンバーは気付きました。しかし彼らが取り上げた作品の中に大手出版社の作品はまだありません。大手出版社の壁はローカルチェーンにとっては厚いものだったのでしょうか。

この時期の大仕掛けの作品選びでは雑学系文庫の銘柄しか取り上げていません。改札前や駅前の店が多いことから、店を利用していただくお客さまは通勤通学客が主流を占めています。

空港ショップや主要駅の駅ナカの書店と同じく、電車で気楽に読める内容で、ほどほどの文章量の作品がよく売れる傾向がありました。

うり坊メンバーの大仕掛けでは売れている作品を選ぶことが主力になっていました。そして、ローカルチェーンでも相手にしてくれて、商品の調達がし易い出版社にフォーカスを当てた気配もありました。
だから中堅規模の雑学系の文庫を取り上げる傾向が強かったようです。

転機
うり坊の大仕掛けの転機が訪れたのは2005年秋でした。
この時期は既存店の売上が安定していて、新規店をカバーすることができるベースができていました。新規出店も沿線中心に頻繁に行われていました。

年を経るごとにチェーン全体の販売実績の規模もだんだんと大きくなり、ジャンルに関わらず、売れ行き良好品のシェアが1%を超える状態にもって行くことができていました。
そんな時期に大手出版社から声をかけていただいて、文庫担当者の勉強会が設定されたのです。

勉強会の後で大手出版社の近くの居酒屋で懇親会が行われました。三島君を始め、うり坊の主だったメンバーがその会に参加していました。だから、飲んだ席でも大仕掛けの作品提案が営業担当からされたのだと思います。

「都内の主要店で売れ始めています。御社でもどうですか」
紹介された作品は99%の誘拐』講談社文庫 岡島二人でした。

「2000冊でどうでしょう?」
「いいですね。やりましょう」

丸山はすぐにでも始めたくてノリノリで返事をしましたが、三島君の反応からは乗り気を感じられませんでした。
すでに9月開始の大仕掛けの銘柄は『いい言葉はいい人生をつくる』に決まっていましたし、小説系の大仕掛けは久々のことなので躊躇したのかもしれません。

せっかく大手出版社に声をかけていただいたのに、ここで断るなんて丸山にはできません。何とか話の流れを変えたいと思い、窮余の一策をここで出すことにしました。

「お宅では営業用にディズニーのシーズンチケットを確保していますよね」
「はい、ディズニー関連の商品を多く出している関係で、お付き合いで購入したチケットを接待用に用意しています」
「今回の大仕掛けにそれを放出していただけませんか?」

厚顔無恥の丸山の提案に頓着することなく、その場で販売促進部長がOKを出してくれました。その途端三島君の反応が変わりました。

景品付きの大仕掛け
三島君は早くに結婚していて、すでに可愛い女の子が生まれていました。傍から見ると溺愛しているといった表現が似つかわしいほどの可愛がりようでした。ディズニーにはぜひ連れて行きたいし、彼にとってシーズンチケットは宝物だったに違いありません。

チケットの話しがまとまりそうになると彼の態度が変わり、とても積極的になって、
「3000冊やりましょう」
販売促進部長に逆提案をしてしまいました。

「1000冊で1枚、これで手を打ちませんか?」
「3000冊だと3枚か」
そんな話をしていると他のメンバーも寄ってきて、酒の勢いも加わってワイワイとにぎやかになり、みんなのやる気がだんだんと大きくなっていきました。

「4000冊でどうでしょう」
「4000冊ってちょっと中途半端でしょう」
「どうせなら切りのいいところで、5000冊で手を打ちましょう」
懇親会が終わるころには大仕掛けの目標が5000冊まで跳ね上がり、その盛り上がりの中で5000冊の搬入日まで決まってしまいました。

はじめての大手出版社のミステリー系作品は『いい言葉はいい人生をつくる』の大仕掛けに割り込む形でスタートしました。

ディズニーチケットという魅力的な景品を餌に、
「雑学系の作品と小説系の作品を同時に全店で仕掛けて売る」
という難しい選択をしてしまったうり坊ですが、その流れに積極的にかかわってしまった丸山としても何とか成功させたいと考えていました。

当時、丸山は本部のバイヤーからエリア担当マネージャーに移っていましたので、自分の担当エリアでも積極的な販売攻勢を仕掛けようと考えました。
そのために出版社からいただいた創刊記念の販促用図書カードを、営業部長にかけ合って使用許可を得て担当エリア独自の景品に加えました。


景品を次々とこれ見よがしに鼻先にぶら下げると、うり坊メンバー全員がその気になっていきました。結果は2ヶ月で5000冊を超え、3ヶ月で8000冊を超えるブレイクスルーとなりました。

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