2015年7月22日水曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 5

うり坊会議
うり坊会議は毎月一回文庫ラインナップが入手できた次の水曜日に行われていました。
メンバーが揃ったら、最初に行うのが翌月新刊の注目銘柄選びです。

ラインナップは出版社のアイウエオ順に翌月の刊行予定の作品が並んでいますので、1社ごとにメンバーが交代しながら、注目すべき銘柄とその理由を語り、質疑応答を繰り返していきます。
メンバーの説明が終了した段階で、他のメンバーやベテラン連中がチェック漏れの作品を読み上げ、その理由を語っていく。

単行本の発売時の売上状況や同著者の前作の販売状況など、新人にもわかりやすく説明されると自店での対応がしやすくなります。こうした流れで注目銘柄が選び出されていきます。

およそ一時間かけて文庫ラインナップのチェックを終わると、仕入部のバイヤーから本部一括で事前指定の注文をしている作品のデータが読み上げられます。事前に出版社に交渉するときの注文のダブりを防ぐことが狙いでした。

経験の浅い新人や若手社員にとって、先輩社員の経験や過去の作品の販売実績を知ることはとても有効だったような気がします。
注目すべき作品を事前にチェックできることから、自店の一等地での陳列ローテーションも月単位で容易に組み上げることができますし、販売機会のロスを最小限度に抑えることができます。

それでも、主要店の新人担当者が大手出版社の新刊事前指定注文書を期日までに提出するのを忘れていたなどという、あってはならないこともたまにおこります。そういうことが判明した時には先輩社員からの叱責が待っていました。

注目銘柄選びが終わると、その他の議題に移っていくのですが、年に一回ぐらいはうり坊会議主催の勉強会を行っていましたので、その下打ち合わせもしていました。

出版社に訪問して編集者や営業担当者のお話を聞く機会を設けたり、自社に編集長を読んで出版のトレンドを話していただいたりする企画を検討していました。
この頃行った勉強会では、相次ぐ新書創刊ブームにどう対応したらいいのかと言う問題点がありましたので、ちくま新書の編集長に来ていただいて、お話しを聞く勉強会を実施しました。

大仕掛けの作品選び
2004年ころ、三島君はうり坊会議の始まる前に必ず仕入部のバイヤーのところに来て、文庫の販売データを見ていました。店では自店のデータしか見られないが、本部のパソコンだと全店分のデータが見られるからなのです。

「この店でこのぐらい売れていればまず外すことはない」
「全体でこの程度の実績があるなら、もしかしたらいけるかもしれない」
そんな彼のつぶやきの声をよく聞いていました。

彼は自分の店で仕掛けている作品だけでなく、チェーン店内の一番店や有力店の数字を見て、次に全店の合計売上をチェックして、全店で仕掛けた場合の販売数を予測していました。そうして見つけ出した作品を仕掛け売りの銘柄選びの候補作品にしていたのです。

年に3回か4回の大仕掛けの事前協議の際には、各人が候補作品を持ち寄ってきます。一人ずつ持ち寄った作品を皆に見せ、なぜおすすめするのか理由を述べ、どのくらい売れそうかの見通しを語ります。

そうした時に三島君の事前のデータチェックがものをいうようです。全員から候補作品の説明が終わると一作品ごとに細かく検討し、売れそうな作品、出版社が出品してくれそうな銘柄の中で、目標の3000冊をクリアできそうかが基準になって仕掛け商品を決めていきました。

最終的に全員の同意を得られた作品が大仕掛けの作品となるですが、出版社との交渉によっては希望通りの部数を調達できないと、次点の作品を拡販することもあったようです。

2004年10月に開始した大仕掛けは『ココロの本音がよくわかる魔法の心理テスト』という作品で、出版社は取次を通さない直接取引の永岡書店でした。前年の12月に発行された作品で、新刊発売から約10ヶ月過ぎていました。

目標は3000冊だったのですが、72日間で15%以上目標をオーバーする販売実績を上げています。
店別の販売実績を見てみると、第一位はチェーン内一番店が抑えていて、2位から4位まで有力店が順当にランキング上位を独占していました。それでも、沿線の急行が止まらない駅の駅前にある規模の小さい店が第5位に入っていました。文庫担当者が工夫した様子が窺え、販売実績を集計する際にこうした個人的な頑張りをデータからのぞき見ることもうり坊の楽しみでした。

2005年の大仕掛け
2005年2月開始の大仕掛けは『5分で人を見抜く』PHP文庫2004年6月発行を取り上げました。前年の魔法の心理テストに引き続き雑学系の文庫の中でも、ビジネスに寄った作品が選ばれ、人の心理に関わる作品になりました。

販売期間は2月10日から3月31日までの52日間で、期間中は3000冊に届きませんでしたが、4月の販売実績を加えると3000冊をクリアしています。
店別の実績は前回と同じような店が上位を占めていますが、都心から離れた郊外の駅前店が4位に入っているのが特徴的でした。

2005年5月スタートの大仕掛けは『頭を良くするちょっとした習慣』祥伝社文庫2004年1月発行が選ばれ、5月3日から6月28日の56日間が販売期間で、ほぼギリギリ3000冊をクリアできたようです。

店別の実績では1位から3位まではいつもの顔ぶれでしたが、沿線の小型駅の2店舗が4位と5位に入賞しています。

うり坊メンバーでなくても銘柄選びの段階から関わって、自分の推薦した作品が選ばれて売る気になったり、売り方の工夫が上手くできたメンバーが現れたりして、店ごと個人ごとに頑張る競争が見えてきたように感じました。

入賞して表彰されることが励みになって、文庫担当者の努力や工夫で販売実績を大きくする流れが生まれたのではないかと考えていました。

2005年9月スタートの大仕掛けは『いい言葉はいい人生をつくる』成美堂出版2005年1月発行が選ばれました。

夏の文庫ファエアの終了とともに9月3日から開始され、同時進行で仕掛け売りが始まった『99%の誘拐』講談社文庫の販売期間延長とともに12月末まで販売され、4000冊を超える実績となった。

店別の実績では今までにないパターンが生まれています。ターミナル駅にあるデパートの中の店が2位になったり、郊外のベッドタウンの駅にある店が3位と5位に入ったりしていました。
著者が高齢者に人気が高いという特性がそんな実績に反映しているのだろうと判断しました。


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