2015年7月21日火曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 4

うり坊な人々⑦
都心のターミナル駅の店で文庫を担当して、大仕掛けでも頑張っていた森山君は、ちょっとした不運が重なりいつも賞品をゲットできませんでした。

12月開始の大仕掛けは1月までが基本的な拡販期間でした。スタートは順調で、これはいけそうだと本人がその気になっても、年末年始にはお客さまが減ってしまって極端に売上が下がる時期がやってきます。
その間に年末年始や休日に売上を稼げる店が逆転してしまいます。そうすると「ツキがないね」とみんなから言われてしまいます。

彼は東京駅の近くにある大型店で働いていたのですが、縁あって契約社員で入社してきました。店の特徴なのかもしれませんが、小説系の作品を長く売るのを得意としていました。

先輩社員から、
「棚の商品が充実していないとベースの売上が取れない。そっちの仕事が優先だ」
と言われて、棚の品揃えを一生懸命充実させようとしていました。
それでも、店の中央を走る客導線に接した仕掛け売り用の陳列台をいつも気にかけてメンテナンスをしています。仕掛け売りが大好きなのです。

ビジネス街の店の文庫新書担当の真似をして、「年間1000冊越えを3本つくる」を自身の目標にして頑張っています。

新規店の立ち上げに伴って異動してうり坊を卒業した遠藤さんはとても頑張り屋さんでした。沿線の中核駅にあった店では、リニューアルの際に店の入り口に文庫新書の仕掛け売りのスペースを確保して、売上の大幅アップを実現させました。

その時はすさまじい活躍でした。
「売れているものはどれも逃さない」
「どこかの店で誰かが売っていれば必ず追いかける」
ウワバミみたいな売り方も特徴的でした。出版社に一番頼りにされた書店員です。

契約社員から社員への昇格制度ができたときに最初に合格した社員の一人なのですが、
「遠藤さんに比べてどうなの?」
その後の受験者の合格基準にされてしまって、新規受験者には迷惑がられていました。

うり坊な人々⑧
来たり来なかったりしていたのが沿線の小型店で働く井川君です。都心のターミナル駅近くの小型店にいたときに、近所に作家の西村健さんがお住まいでした。その縁で西村さんの作品を大きく仕掛けて、小さな店には似合わない大きな売上を作りだしてしまいました。

そんなことから西村さんを交えた忘年会が毎年開催されるようになったと聞いています。その恩を感じていたのか、南武線の駅近くの店に異動した際にも、その店で西村さんの作品を仕掛けて売っていました。

売れる快感を一度味わうと忘れられないのでしょうが、店が何度か変わってもそこでまた売り伸ばしてしまう根性はうり坊から注目されていたようです。
映画に強く、映画化作品が話題にのぼると、映画の出来や話題性の高さ、注目度など、彼の意見をとても参考にして聞いていました。

もう一人来たり来なかったりしていたメンバーが高井君です。メンバーの中ではベテランになってしまって、注目銘柄選びの際には経験の長さから親本の情報などで頼りにされています。

森嶋さんは文庫を担当したいのですが、店長がどうしても文庫担当を手離さないので、喧嘩寸前の状態になったこともあったようです。店長が異動してようやく文庫担当になれてメンバーに加わってきました。

文庫担当でないときでもうり坊の飲み会にはよく顔を出していて、メンバーのような顔をして飲んでいました。

遠藤さんが異動して後の担当を引き継いだのが鈴木君です。長く頑張っていた遠藤さんの推薦でメンバー入りしました。遠藤さんの後任の文庫担当なので、彼女との落差をいつも指摘されていて、気の毒な立場にさらされています。只今修行中です。

「私も参加させてください」
と自分から言ってきたのが小さな駅の駅前店に勤務している池山君です。
大器晩成と入社時に言われて、言われてみればなんとなくそうだなと思ってしまうようなキャラクターでした。自分から参加したいと言う背景には、時が過ぎて一皮むける、何かが変わる時期に突入したのかと思って、今後に期待しようと思います。

うり坊な人々⑨
仕入部の文庫担当バイヤーの川口さんは丸山のせいでいつも苦労していました。本来、ビジネス書の担当なのにいつの間にか売りたがりの丸山が、文庫のおすすめ本を1000冊、1500冊単位で一括注文をしてしまうからです。

それでもお互いに年を取っていますので、喧嘩にもならずに何とか丸く収まっていますが、
実際、本人は嫌がっているのでしょうね。大仕掛けで候補作品としていつもノミネートされる北森鴻の大ファンで、『床下仙人』の拡販キャンペーンで強気の仕入が開花しました。

もともと、店長会議が設定されることの多い水曜日は、店では他の曜日よりも人を厚く手配しています。うり坊会議も水曜日に多く開催されました。水曜日を公休日にしているメンバーは休みの日なのに出てくることになってしまいます。

それでも悪いことばかりとは限らず、いいことも起こります。公休日に開くうり坊会議が縁で結ばれたカップルができました。
3月中旬、二人そろって本部にやってきました。
顔を見てびっくり、なぜに二人が…
「3月9日に入籍しまして、結婚式は9月に行う予定です」
こんな言葉を発しています。

普段の言動から、それぞれ付き合っている人はいるのだろうなと想像をしていましたが、それでも、全く別の人が相手だと私は勝手に思い込んでいました。
「まさか、こいつとあいつが…」

話しを聞くと、
「いつもそんな感じで話しを振られていましたので、てっきり知っているものだとばかり思っていました」
「公休日のうり坊会議に参加して共通の時間ができてお付き合いが始まりました」
「そういえば、会議室に一緒に入ってきたことがあったような…」
なんと迂闊なリーダーなのか…
朴念仁と言う言葉をつい思い起こしてしまった。

彼女は売れる店にいたからいつも賞品をゲットしていましたが、彼は大仕掛けではついに賞品稼ぎになれませんでした。だけど、かわりに素敵な伴侶を射止めることができてラッキー…
なんにしてもめでたい話であります。


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