2015年7月12日日曜日

ストーリーで学ぶ10万部三連発 4

計画書
提出された計画書によると、今回の活動の目的は「会社の認知度向上と10万部を作りだす手法の確立」とされていた。
計画書は時系列で作成され、月ごとの実施項目と目標部数が書かれていた。

『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』10万部計画

11月 売れ行き好調につき計画書作成 2万部
12月 首都圏で仕掛け売りの拠点づくり
    新聞広告掲載、FAX一斉送信 2万部
1月  仕掛け売りの拠点でランキング入り、
    ランキング入り注文書FAX送信
    仕掛け売りの店の広がりを作る 1万部
2月  チェーン本部営業強化     3万部
3月                 2万部

女性客が多い店舗に期待をかけ、話題書、新刊書のコーナーでの展開を狙う。
基幹店舗で週間ベストセラーのランキング入りを果たし、ランキング入りのデータを明示して定期的に枠を取ってある新聞広告に掲載する。

欄外に仕掛け売りの拠点づくりの方向性と販売方法などが明記され、プレスリリースを計画とも記入されていた。3月の実施項目の空欄は気になったが、ほぼ10万部計画の流れに沿った計画書が提出された。

計画の進捗状況
約束通りにクリスマス明けのタイミングで、恵比寿の書店のレジ前のテーブルに、4面積みの展開をしてもらうことができた。
仕掛け売りが始まってすぐに効果が出て、ビジネスの週間ベストにランクインする販売実績が作れた。

どやされてスタートさせた最初の拠点づくりに成功したN氏は、恵比寿、渋谷、新宿と、それなりの影響力のある店で強い売上を作ることができた。
10万部計画の第一歩、仕掛け売りの拠点づくりは着々と成功している。

拠点づくりが成功すると、成功した勢いをそのままに営業活動を推進させて、その店つながりで仕掛け売りの広がりをつくる活動を重ねていった。
新宿では新刊発売の頃から仕掛け売りをお願いしていたのだが、年が明けて全体的な動きが強くなるとようやく仕掛け売り的な動きが強まり、特に1Fで良く売れて好成績が出ていた。IFの販売担当者を通じてチェーン内の他店への拡販の依頼をして、仕掛け売りの輪を広げてもらった。

恵比寿は女性に強い店だったので、この店の仕掛け売りの成功事例は同じような女性に強い客層の店への広がりにつなげていった。
成功したレジ前のテーブルでの商品展開は、同じようなロケーションで商品展開ができる店に逐次広げていった。

大宮での成功事例はチェーン店内の他店への拡販につなげた。
藤沢にある駅ナカ店での成功事例は地方の店や、同じような駅ナカ立地の店、衝動買いの多い駅系書店への仕掛け売りの広がりに利用させてもらった。

新宿西口の成功事例はチェーン店内他店への拡販だけでなく、関西を地盤とする取次を通して、京阪地方の店への仕掛け売りの広がりに利用させてもらった。
渋谷の店の事例ではチェーン本部への営業で、大きな部数で一括注文を受注することができた。

積極的な営業開始からほぼ1カ月経って、拠点での好調な売上が影響して、取次の売上ランキングが上昇していった。
そして、ビジネスジャンルのベストテンに入ることができるまでになっていった。取次の売上ベストテンにランクインすると、取次の発行する情報誌に掲載された。
すると、その情報を読んだ書店からの注文が集まってきた。取次を媒介とした仕掛け売りの広がりができるようになった。

テストマーケティングとしての仕掛け売りの拠点づくりができて、拠点の販売データを使った近似した店への営業が成功し、仕掛け売りの広がりを作ることができた。
10万部計画のストーリーに乗った順調な仕上がりに、N氏は満足そうに笑みを浮かべていた。

計画達成
10万部計画のストーリーでは、仕掛け売りの広がりができると、その次に仕掛け売りの全国的な展開をつくるステップに入っていく。

N氏が用いた作戦は新聞広告とFAX通信の連動がキイになっていた。
売れていることが分かる注文書と、売れていることが分かる新聞広告で、書店と読者に同時にアピールし、腰の重い書店に仕掛け売りのきっかけを与えることができたとN氏は報告している。
翌月の半5段の広告掲載情報と、売れている店の商品展開の事例を載せた注文書をFAX一斉送信して、書店員の認知度を上げ、ある程度まとまった数の注文をいただく。

その後で全国紙に広告を掲載して、読者の認知度を上げる。
これを繰り返して実施することで、書店での売上上昇を実現していく。
すると、書店員の信頼度が増していき、N氏の営業活動に対する信用を築くことができる。そうした流れをうまく機能させることができたとN氏は語っていた。

新聞広告には刷り部数とランキング入りした書店名を明記したし、注文書に実売数や商品展開の写真などを掲載したことが良かったと判断していた。
半五段の新聞広告は日経新聞が最も効果があった。
広告掲載後の取次店のPOSデータのチェックで、広告効果は計ることができた。
新聞広告とFAX案内は毎月実施した。その結果が10万部計画達成につながったのだろうとN氏は考えている。

仕掛け売りの全国的な展開の手段として、ナショナルチェーンの法人単位での取り組みと、取次にお願いして行った拡販施策が、仕掛け売りの全国的な展開に貢献したとN氏は指摘している。
ナショナルチェーンでの一括受注が成功して、数千冊単位で投入されたB書店グループの展開の強化や、T屋グループ、M屋グループ等の売上アップでは、系列の取次のランキングが上昇して、ビジネスベストのトップテンにランクインした。

その間の刷り部数の推移は、11月、2.3万部、12月、1.7万部、1月、3万部、2月、2万部、3月、2万部となって、10万部計画は達成した。

波及効果
3月に11万部を突破した後も売上は落ちることなく順調に推移して、4月2万部、5月1万部、6月1万部、7月1万部と、刷り部数を増やしていくことができ、8月の段階で累計刷り部数は16万部となった。

苦労して行ったプレスリリースも成功して、日テレのZIPに著者を登場させることができた。

この段階になって、書店や取次担当者のN氏の出版社に対する認知度が確実に高くなったようだ。2011年4月新刊の受注数が異常に多くなったことでN氏は実感できたと言っている。
新刊見本での取次の反応も確実に良くなった。注目度が今までとは全く違って、話をよく聞いてくれるようになったし、今までにない部数で申し込んでもらえる書店も増えていった。その結果、注目された4月の新刊は発売即重版ということになった。

営業のスキルが高まった実感もあった。やみくもに一律に営業するのではなく、客層に合わせて、書店ごとへの強弱をつけた営業ができるようになった。
話しこみのタイミングをうまく掴んで、仕掛け売りのスペース取りも容易にできるようになった。

10万部計画の達成の過程で身に付けた、書店の担当者をその気にさせる注文書づくりや新聞広告も、成功事例が後押しして、スタッフのやる気が高まり、さらにスキルに磨きがかかった。
書店員をその気にさせる注文書を見せると、仕掛け売りの拠点づくりや、仕掛け売りの広がりを作ることが随分と容易になり、売り伸ばしが上手くできるようになっていった。
書店担当者やチェーン本部の担当者とのお付き合いが深まり、アポイントを取れば何時でも相手をしていただけるようになったし、定期的に訪問ができることで月例の営業活動がスムーズにできるようになった。

N氏は10万部計画の達成の過程で行った様々の仕掛けが、個人のスキルアップだけではなく、会社としての営業力の向上に結びついたことを実感した。

食事会
恵比寿の店のレジ前の小テーブルでの仕掛けは、ピッタリはまって順調に売上が取れていった。しかも、いきなり最初の週からビジネスベストの第三位にランクインした。予想通りに店の客層にジャストフィットしていたようだ。
年末年始の休暇中に読む本としてちょうど手ごろなボリュームだし、価格も安めで、25歳から30歳前後の女性客の多くが購入者となった。

N氏は正月が明けてからも何度も店にやってきて、売れ行き調査と在庫の確認をして、Sさんからそのたびにまとまった数の追加注文を受注していた。
渋谷ではベストテンの第一位になったと言い、新宿の店でも本格的な仕掛けが始まっていた。N氏は順調に売れていると言っていたが、そんな状況の中でも恵比寿の店の仕掛けは本人にとって別格の思いがあるようだった。

あきらめかけていた年末商品の大展開の中で、クリスマス明けの商品入れ替えのタイミングをつかんで場所を予約できた。そうしてまでスタートさせた仕掛け売りの成功をN氏はとても喜んでいた。N氏はお礼の気持ちを込めてSさんを食事に誘った。

通常は恵比寿の店の近くでレストランを探すのだが、今回はSさんの地元の横浜で店を選ぶことにした。二人とも横浜在住だし、多少遅くなっても対応できることが安心材料だった。
N氏は横浜西口の一番高いビルの上階にあるレストランを予約して、夕方6時に店の入り口近くで待ち合わせした。
N氏はスーツにネクタイといういつもとあまり変り映えのしないスタイルだったが、時間通りに現れたSさんは、すらりとした立ち姿に、シンプルなワンピースとポイントをつくる大振りのネックレスがとても良く似合っていた。

店に入ると東側の窓の近くの席に案内された。この場所から外を見ると西口から東口界隈の商業施設やビル群がずいぶんと下に見えて、港のあたりまで一望することができた。まだ明るさの残るこの時間では港の灯りはまだ目立つことがなかった。
料理がテーブルに運ばれ、それに合わせたワインと一緒においしくいただいていると、だんだんと外が暗くなり、港の灯りがはっきりとしてきて、そのコントラストがとてもロマンチックになっていった。

そんな雰囲気の中で、何とも無粋に仕掛け売りの成功を喜ぶN氏は少し場違いなようにも思えた。それでも、ワインを飲んでだんだんと落ち着いていくと、会話の中身も仕事の話しからプライベートなものに移っていき、とてもいい雰囲気に変わっていった。
仕事をしている時のSさんの笑顔を好んでいたN氏だったが、プライベートな笑顔がそれ以上に素敵で少しドギマギとしてしまった。


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