2015年7月10日金曜日

ストーリーで学ぶ10万部三連発 2

個人授業
N氏の出版社は立ち上げてからそれほど年数がたっていないので、業界内での知名度はあまり高くなかった。まだ際立ったベストセラーは作れていないが、敏腕の編集者が立ち上げた出版社として、ビジネス系では知る人ぞ知る出版社と言われていた。

社長が編集長で、数名の編集者と共に本を編集しているが、編集者が営業も兼務していた。N氏だけが専任の営業マンとして首都圏の有力店を中心に営業活動をしていて、地区担当として店に来て知り合った。

営業中の会話の合い間に、丸山塾の10万部計画の存在を伝えると、是非詳しく話を聞きたいと言ってきた。
そこで、11月の中旬に個人授業をすることにした。居酒屋での講義だったのだが、律儀なことに、講義が終わるまで頼んだビールも料理にも手をつけようとしなかった。二人が食べ始めるころには料理は冷めきっていた。

個人授業のテキストは「売り伸ばしの技術」だった。

テキストの長い朗読が終わるとN氏の質問が待っていた。

「10万部計画のストーリーはわかりやすくて納得がいったのですが、実際に拠点づくりで活躍した売りたがり書店員たちは、どういう売り方をして強い売上を作っているのでしょうか?」
「なかなか鋭い質問だ」
と言って丸山が説明モードに入った。

小売業で強い売上をつくろうとした場合、共通して行っている販売方法がボリューム陳列だ。書店業界も基本的には同じ。店頭の一等地でボリュームたっぷりの商品展開をすると、売上が跳ね上がっていくことが多い。
テキストでは4店舗に初回100冊配本をしてスタートしているが、自己啓発等の単行本は8~12面にして、1面あたり10~15冊程度積み上げる。文庫や新書は150~200冊で12面~15面作って1面あたり15から20冊程度積み上げる。これが仕掛け売りの基本パターンだ。

「あれ何? なんで、この商品がこんなにたくさん置いてあるんだろう?」
と、来店したお客さまに不思議に思ってもらえれば第一段階は成功だ。

どこでも見たこともないようなステージを作って、陳列で感動させるやり方も一つの方法だと思うし、POPの魅力的なコピーやコメントで感動させることができると、それはまさに販売員冥利に尽きることだと思う。
知りたがっている知識や情報を提供して、お客さまに納得してもらうと購買行動に移行してくれる。
「ああ、そうか、そういうことなんだ。だったら買ってみよう」
そう思わせることができれば、店頭の一等地で行うボリューム陳列は大成功となる。

丸山の説明が終わると、N氏は普段から疑問に思っていた点を質問した。
「書店員って、どうしたら売る気になってくれるのでしょうか」
「うーん、どうだろう。自分が仕掛け売りをしてみようと思うのは、たいてい『これって面白そうじゃん』とか『これって売れそうだね』と感じた場合だし、ストーリー性を感じさせてくれるとその気になることもある」
「ストーリー性ですか」

「発売されても全く売れなくて、重版もされずに倉庫にくすぶっていた作品が、断裁されてほぼ絶版扱いになっていた。それをある店の担当者が読んで気に入って、その店だけで残っていた在庫をすべて販売してしまった。その担当者から重版しろと強くせがまれて、その出版社は重版をした。重版すればそれを売らなくてはいけないし、他の店にも営業してくるようになる。でもそんな話を聞くと自分も売ってみたいと思うじゃないですか。絶版の危機に立たされた作品が、ある書店員のおかげでもう一度日の目を見るなんて、結構ストーリー性が高いと思うんだけどね」

「ありがとうございました。もう一つ質問していいですか?ストーリーの第二段階で、仕掛け売りの拠点を増やすという話がありましたが、営業サイドとしてはどんなスタイルが考えられるのでしょうか?」

「いい質問だ。仕掛け売りが成功して拠点づくりができたら、次のステップでは仕掛け売りの広がりをつくる作業が待っている。営業の基本は足で稼ぐと言われるが、営業の良し悪しだけでなく、ツールとして使う注文書の出来が受注量を左右することを知っておくべきだと思う。受注が促進できる注文書は、売れていることがわかる注文書だと思うし、書店員に自分もこの商品を売ってみようと思わせる、動機づけができる内容が重要な要素だろう。だから、気のきいた営業マンは常に注文書を工夫して作っている」

「動機付けのできる内容ですか…」
「拠点での販売実績や、その店のどういう場所で、どのように商品を展開して売っているのかがわかると、自分の店のどこで、どのように売ったら、どう売れるのかは想像しやすくなると思う。そうした内容が注文書に掲載されていれば、書店員をその気にさせることができるだろうと思う」
「そうですね」

「書店員をその気にさせるためには、『そうなんだよな~』と共感させる内容も必要だ。過去の事例では似顔絵付きの注文書が功を奏して、仕掛け売りの広がりに寄与したケースがあったり、『こんなお店に私はおすすめします』というお手紙付きの注文書が効いたりしたこともあったと聞いているよ」

テキストの講義と質疑応答の長い時間が終わったところで、ようやく二人で乾杯をした。多少ぬるくなってしまったビールを一口飲み、ずいぶんと冷めてしまった料理を食べて、ようやく丸山はいつもの調子になってきた。

丸山が飲みながら機嫌よく話すミリオンセラーが連発した一期生の華々しい活躍を、N氏は目を輝かせて聞いていた。特にパブに登場してブレイクスルーをしていくくだりには驚いたり、感心したり、しきりに「すごい!」を繰り返していた。

ただ、N氏はそんなミリオンセラーの華々しさよりも、10万部計画の内容の方が共感する部分が大きいと言っていた。
 イメージ的に親近感のないミリオンセラー計画より、もしかしたら自分でもできるかのしれない10万部計画の方がより身近に感じたのかもしれない。

自分も10万部を超えるベストセラーを作りたい。
ぜひ塾に参加させてほしいとN氏は熱望して、二回目の会合から丸山塾二期生の活動に加わるようになった。


取り上げた作品
N氏が塾に参加して10万部計画に取り上げた作品は、『誰からも「気がきく」と言われる45の習慣』だった。

計画書を提出する前、2つあった候補作品のうちどちらを取り上げたらいいのかN氏は迷っていた。
「テーマとして『気くばり』を取り上げている作品が20数年前に大ヒットしたことがあるし、何年かに一度ブームになることがあるので、この作品もうまくいけば売れるかもしれない」
丸山に相談に行った時、と、言われたことがあった。

書店員としての丸山の経験では、売れる予感がして仕掛け売りをスタートさせると大概は成功できた。果たしてN氏は売り伸ばしに成功することができるのだろうか。
この作品は2010年10月に発売されて、初速の良い店が多く、すぐに重版が決まって、11月には2万部に到達していた。

作品のメインターゲットは20~30代の女性で、その年代の女性に合うように意識的に作られている。
横組み、2色刷り、イラスト入りで、1テーマごとのページ数も比較的少なくして、どこから読み始めてもいいようなスタイルだ。
メインターゲットの女性たちが読みやすいと思うように、本のつくりはきめ細かく工夫されていた。

この本のキーワードともいえる「気がきく」の部分を、字体のポイントを大きくすることで強調したカバーデザインになっていて、タイトルを見れば内容が一目でわかるようにしている。

装丁も若い女性が好みそうなすっきり感が演出されて、何とはなしに手に取りやすいように工夫されている。
表紙の色遣いも白地に帯の黄色が効いて、さわやかな印象を与えているようだ。

N氏が取り上げた作品は、本人いわく、
「ビジネス書であるが、女性客を取り込める一般書寄りで、ポテンシャルが高い。だから10万部計画に取り上げた」
ということだった。



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