2015年7月31日金曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 14

三年連続新記録は可能か
夏の文庫フェアが終わると、二年連続で新記録を作った秋がやってきます。2005年は『99%の誘拐』、2006年は『月の扉』、それぞれとても考えられないような販売実績を作ることができました。今クリアすべきは3ヶ月で10000冊の前年実績です。
普通に考えるとその実績を超えるのは並大抵のことではありません。何をどう工夫すればいいのか想像がつきません。

この年の春、累計実績14000冊を超えた時点で丸山は『月の扉』の全店大仕掛けの総括をしてみました。改善点や工夫すべき点はその記録の中からは生まれてきませんでしたが、ここ数年のうちに累計10000冊をクリアしている作品に共通項があることに気付いていました。
『99%に誘拐』『行きずりの街』『葉桜の季節に君を思うということ』の三作品はいずれも第一位帯を巻いていました。『月の扉』は装丁の良さを生かすために、敢えて帯なしで拡販をして累計10000冊を超えました。

本屋大賞が『東京タワー』に決まりました。次の年には『一瞬の風になれ』が選ばれています。
「これが本屋大賞なの?」
「なんでこの作品なの?」
「もうずいぶん売ったじゃない」
「なぜ敢えて今この作品を売らなくてはいけないの?」
「売れている作品を敢えて売り伸ばすのが本屋大賞の存在理由なの?」
そんな疑問がたくさん出てきて、本屋大賞を売ることがつまらなくなってきました。

「私の売りたい本とは違う」
「売れている作品を売り伸ばすための本屋大賞なら別になくてもいいだろう」
「ただ、本屋大賞第一位の帯をつけると何でも売れてしまうのは確かだ」

全店大仕掛けでもう一度ブレイクスルーを起こすなら、ヒントはこのあたりに潜んでいるのだろうと丸山は考えました。

山村書店版本屋大賞をつくるとしたらどうする?
お客様参加ができるスタイルがいいな。

前回は出版社訪問をして、厳選された候補作品をノミネートしていただき、絞り込んだ作品を回し読みして、気に入った作品を決選投票で選んだ。そして、累計販売実績が15000冊を超えた。
さて、次はどのようなかたちでブレイクスルーを引き起こそうか。丸山は考え続ける…

うり坊会議 2007.5.25
「それでは、これから次回の全店大仕掛けをどうするか議論をしたいと思います。誰かきっかけになる意見をお願いします」
「二年連続の新記録が達成できて、今年はどうなるのか気になっていました。ただ、今年はダメでしたというのは嫌なので、何とか今年も新記録を狙っていくべきなのではないかと思います」
丸山の発言に森山君が意見を返しました。

「三年連続の新記録なんて無理だと思います。3ヶ月で10000冊を超えてしまったのですから。でも、何もしないのは良くないと思いますので、何らかのチャレンジだけはした方がいいのかなと思います」
多田野は微妙な発言だった。

「ちょっと、考え方を整理したいんですけど、よろしいでしょうか」
今は担当が変わってうり坊を卒業したはずの遠藤が久しぶりにうり坊会議に参加してしていた。
「3ヶ月で10000冊が前年の実績なら、2か月で10000冊超えたらそれでいいのではないかと思います。そのためにどうしたらいいのか、アイデアをみんなで出し合えばいいのではないでしょうか、丸山さんいかがですか?」

「そうですね、アイデアならいくつかあります。具体化する方法をみんなで考えてほしいところではありますが…」
「どんなアイデアですか」
「本屋大賞って一位帯がついているから売れるのだろうと思います。『99%の誘拐』や『ゆきずりの街』も一位帯がついていました。だから第一位という帯付きで売ったら売れるのだろうなというイメージを持っています」
「でもなにか根拠が明確でないと第一位って難しいと思います」
「そこが工夫のしどころですね」

「もうひとつはお客様参加型の企画にしたいというのがあります。自分たちで読んで投票して第一位を決めるのって、どこでもやっているじゃないですか。お客さまの参加で第一位を決めるとなると権威付けは充分だと思います」
「お客さま参加っていいですね」

「出版社訪問をして候補作品を出版社の皆さんからノミネートしていただくのは継続しようと思います。店の文庫担当者からもノミネート作品は大募集するつもりです。そして拡大うり坊会議で絞り込むところまでは前回と同じでいいのだろうと思います」

「あの、ちょっといいですか」
丸山の意見に金沢君の手が上がった。
「お客さまが本を買う行為っていうのも、お客さま参加と言えるのではないでしょうか」
「確かにそうですよね。だったら、絞り込んだ候補作品で全店フェアをして、お買い上げで順位を決めましょうよ」
「私たちも作品の決定に参加したいな、スタッフ投票を続けたいんですけど」
「だったら、お客さまのお買い上げに、お客さま投票とスタッフ投票を加えて、ポイント換算して順位をきめたらどうでしょう」
金沢君の意見をきっかけに面白そうな意見がたくさん出てきました。

うり坊の意見を聞いていて、山村書店第一位の帯付きでの拡販スタイルが丸山の頭の中でイメージが固まってきた。あとは出版社担当者のさらなる囲い込み、店文庫担当者の企画への参画意欲の高め方が需要な要素なのだろう。丸山はまだ考え続ける…

企画の推進母体の拡大が販売実績のブレイクスルーを引き寄せてくれる。そのためにはある種のお楽しみ企画が必要なのではないか。

「最初のブレイクスルーがあった『99%の誘拐』の時は居酒屋で企画の提案を受け、ディズニーチケットと酒の勢いで目標部数が決まった。だから結果もよかったんだよね。だから今年の企画では何らかの形でそのスタイルを取り入れたいと思う」
「居酒屋で企画提案するんですか」
「まだ各方面との折衝が残っているので正式には決まってはいないけど、飲み会を企画して、その場で企画説明をして、みんなで気勢を上げて一気に盛り上がって突っ走ろうと思っている」
「ふうーん、丸山さんってもしかして策士ですか」
「前年の実績はとてもハードルが高いから考えることはいっぱいあるし、やらなくてはならないことも山積みなんだよ」

「みんな、貴重な意見ありがとう。今までの企画ではすべて口頭で済ませてきました。たが、これからは企画書を正式文書の形に書いて、自分たちの会社にも、出版社の方々にも正式にご案内をしたいと思う」
「正式文書ですか?」
「この間、パワポの研修があると聞いたので、パワポで企画書を作って、プレゼンの資料にも使おうと思っている。正式文書でプレゼンができれば積極的に応援してくれる出版社が必ず出てくると思う」


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