2015年7月29日水曜日

物語 うり坊とうり坊な人々 12

うり坊的夏の文庫フェア
2006年6月、小田急線沿線のローカルチェーンの山村書店のうり坊メンバーは、新潮社に招待されて勉強会に参加させていただきました。前年の『99%の誘拐』のブレイクスルーがいい影響を与えたのだとうり坊は考えていました。

夏の文庫フェアをどのように展開するか事前協議をした際に、
「例年通りに100冊すべての作品を普通に販売するのはあまり面白くない」
「山村書店らしい企画をプラスしましょう」
「どれか一点を決めて山村書店の夏のおすすめの一冊として集中的に販売したい」
というような意見が出ていました。

そして、どのように作品を選ぶのか検討した際に、書店員のおすすめと、出版社のおすすめをお互いに持ち寄って合同で検討する会を開こうということになったのです。
山村書店からはうり坊メンバーと仕入部のバイヤー、合計15名が参加し、新潮社からは沿線担当の営業担当だけでなく、文庫販売部の担当を含め7~8名が出席していただきました。

「あらかじめ何をおすすめしたいのか事前に決めておくように」
と言われていたうり坊メンバーからは20冊程度の候補作品が上がり、新潮社からも思い入れたっぷりの一冊が何人かの担当者から出していただきました。そして、一人ひとりがおすすめの作品とおすすめの理由を発表しました。

「『砂の女』はどうでしょうか」
「若い人にはSFとしておすすめしたら面白いかもしれない」
「中・高生は安倍公房なんて知っているのだろうか」
「昔は純文学の大家だった」

新潮文庫は昔から定評がある名作もあるし、最近流行の作家の新作もある。コンテンツが豊富なので、誰がおすすめ本として推薦してもそれなりの説明ができるし、なんとなくイメージとして売れそうな気にもなってきます。
だから、ちょっと考えただけでの何冊かおすすめの作品が出てきます。だからと言って安易には決められないものでもあります。

全員が作品の現物を持って説明しましたので26冊の作品がテーブルに並べられました。言葉の説明では決め手に乏しかったので、最終的に投票で決めようということになりました。

うり坊的夏のおすすめの一冊
うり坊と新潮社の方々が全員で投票して選ばれた作品は『ナイフ』重松清でした。
家族の問題やいじめがテーマになっていますし、夏の100冊のメインターゲットの若い世代向けにピッタリだとみんなが考えて選ばれたようです。

初めての取り組みでしたので、目標冊数は過去の大仕掛けの部数を参考に3000冊としました。その場に新潮社の営業部長や文庫販売部の担当者も同席していましたので、すぐに了解は取れ、夏の100冊のセットと同時搬入していただくことが決まりました。

夏の文庫フェアは6月末にセットが入荷して7月8月の夏休みの期間に販売して、一部9月に入っても販売することもありました。山村書店の各店では基本的に夏の文庫フェアを展開するコーナーの内部で『ナイフ』を多面陳列することにしました。

一部の店ではそれだけでなく大仕掛けと同様にフェア台や一等地のワゴンで販売する店も出てきて、うり坊メンバーを中心に目立つ商品展開がされていた模様です。期間中の販売実績は2700冊を超え、翌月の販売実績を加えて3000冊をオーバーしました。

『ナイフ』の店別の実績
第一位 うり坊遠藤さん 
第二位 うり坊森山君 
第三位 うり坊山森さん
第四位 うり坊多田野君 
第五位 新規出店した大型店

チェーン内一番店のうり坊遠藤さんは全店大仕掛け並みの販売実績を記録していました。夏の文庫フェアのコーナーだけでなく、店内の一等地での仕掛け売りスペースでも大量多面陳列をしていていました。

第一位から第四位までうり坊メンバーの店が入っています。新潮社の勉強会に積極的に参加したうり坊のモチベーションの高さが上位を独占する背景にはあったようです。

2006年の夏の文庫フェアでは各社とも勢いのある新刊を投入していましたので販売実績のブレイクスルーができていました、軒並に対前比を大きく上回る実績を出しています。
そんな中でも既刊本に敢えてフォーカスを当てて、強烈にアピールしたうり坊の気合がこの記録につながったのかもしれません。

反響
チェーン全体の新潮文庫夏の100冊のベスト5
第一位『号泣する準備はできていた』江国香織
第二位『ナイフ』重松清
第三位『博士の愛した数式』小川洋子
第四位『重力ピエロ』井坂幸太郎
第五位『ちいさきものへ』重松清

ベスト5入りした作品の中には6月刊行の強力な新刊が4点含まれていました。その中で6年前に刊行された唯一の既刊本が『ナイフ』です。うり坊メンバーを筆頭に各店の文庫担当者が強烈に自己主張をして『ナイフ』を拡販していることがわかります。
春先に映画化されミリオンセラーになった『博士の愛した数式』を上回り、同じ著者の新刊『ちいさきものへ』と比較しても二倍以上の販売実績となっていました。

勉強会を開催して「山村書店の夏の一冊」を選定して、チェーン全体で「この夏のおすすめの一冊POP」を使用して作品のアピールに取り組んだ、「新潮文庫の夏の100冊フェア」は大成功でした。

2006年の夏の文庫フェアは三社とも大きく対前年比を超えていましたが、既刊本の『ナイフ』を取り上げて3000冊突破させた実績は、夏の文庫フェアで競合する出版社に驚きを与えたようでした。

「普通に売っていたら数百冊にしかならない既刊本なのだろうが、それが3000冊を超えるなんて信じられない」
「既刊本の発掘ってすごく大事ですよね」
「でもなかなか難しい面もありますよね」
「どうしてうちにも声をかけてくれなかったんですか」
「次の機会はうちにも声をかけてくださいよ」
こうした声を多く聞きました。

角川書店や集英社の営業担当者からのアプローチがとても強くなりましたので、2007年の夏には3社から1点ずつおすすめ作品を選んで拡販することになりました。
2006年は各社とも新刊として投入された目玉商品が強く、強力な販売実績が出ていました。来年も同じような強力な目玉商品が出てくるとは限りません。そんな中でも対前年比をクリアしたいといううり坊的な考えもあったのです。


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