2015年6月3日水曜日

売り方を工夫する

参考資料 テキストVol.5

仕掛け売りの目覚め

90年代に仕掛け売りをして3ヵ月で600冊程度販売した『気のきいた言葉の辞典』は配本5冊で入荷した新刊だった。
通常5冊では新刊コーナーに並べることはないのだが、表紙を見て、面白そうに感じたので、目玉商品がいっぱい並ぶ新刊コーナーに、あんこを使って上げ底にして、敢えて一緒に並べて置いてみた。
翌日出社してびっくり。14冊売れている。
タイトルも装丁もとても気に入ったし、もしかしたら化けるかもしれない。そこで、売り方をイメージしてみた。ⅠFのエスカレータ前のスペースに特設コーナーを作って、ボリューム陳列したらどうなるか。
200冊程度のボリューム陳列をしたら、週売40が取れると思えた。週に40冊売れれば文庫ベストの1位が取れるし、ベストテンコーナーに置いたら、口コミでも広がるかもしれない。

誰も売れる商品だと気付かなければ、この商品はうちしか売ろうとする店がないかもしれない。そしたら、出版社としても重版は掛けにくいだろうし、重版したとしても日程的に遅くなると踏んだ。
だから、ある程度在庫を抱えた方がいいのかなとも思った。
相手の状況も推測できないようだと的確な仕入れなんかできない。まあ、そんなことで200冊仕入れることにした。5冊入荷で4冊売れて200冊注文というと、人から見ると飛躍していると思うかもしれない。だけどこういう場所で、こういう売り方をしたら、こういう風に売れる。だからこの数を注文するという道筋が見えていたから、自分的には全然飛躍じゃないし、論理的だと思っている。

売りたい商品の注文数を決めるときは、入荷数に影響されずに、どんな場所でどういう売り方をするか、そうしたらどう売れるのかを予測して決めてほしい。
類推的判断というやつだ。予測が当たらないと失敗してしまうけれど、失敗を恐れると何もできなくなってしまう。

こんな風に考えて、わかるように説明して部数を相談すると、大きな部数でも納得性が高くなるし、出版社の担当者も出庫してくれるようになる。
その後も順調に売れ続けて、10週以上連続して40冊台の売上が作れ、文庫ベストの上位ランクインの常連となり、約3ヶ月で600冊を超える実績を作った。
他の店ではほとんど仕掛け売りをしていなかったので、ほぼこの店のオリジナル商品として3カ月間販売する事ができた。



年間通して仕掛ける

『気のきいた言葉の辞典』の販売実績が500冊を超えて気をよくしていたころ、別の出版社の担当者から声がかかり、次の仕掛け売りの作品が決まった。『英会話・やっぱり・単語』という文庫本だった。

新刊案内の時点で出版社の担当からおすすめがあた、文庫本で、英語の本で、単語に注目した作品というユニークな感じもよかった。タイトルがとてもシンプルで良さげだし、妙に納得できるようにも思えた。
この作品なら勉強熱心な高校生から大人まで、女性を中心にした広い客層を取り込めるような気がした。また、大手出版社の作品ということもあって、先に仕掛けた作品よりさらなる売上アップが期待できるようにも思えた。

当時、法人特約という新しい取り組みが始まっていた。出版社の販売実績が前年を上回ることができれば、全販売金額の0.5%の報奨金を支払うというスタイルだった。何とか目標を達成させたいという思いもこの作品を取り上げた背景にあった。

新刊の事前注文で200冊の申し込みをして、入荷と同時に一階の入り口近くで展開した『気のきいた言葉の辞典』特設コーナーを引き継ぐ形で仕掛け売りが始まった。
3列横5列の陳列で15面、1面当たりは約15冊、程よいボリューム感が作れた。特設コーナーのほかに、文庫の新刊コーナーと講談社文庫の棚前に置き、語学書の売り場にも6面積みのコーナーを作って3か所展開だった。

お客さまの反応は上々。予想通りに女性客を中心にお買い上げがあり、週売40を超える売上実績が作れた。新聞広告が出た2週目は週売70を超えていき、驚異的な販売実績が日々更新されていった。
出版社の重点商品であったため新聞広告を数多く打ったことも後押しになって、売上はその後も順調に推移して月200冊をクリアしていった。

『英会話・やっぱり・単語』の仕掛け売りは法人特約対策の商品でもあったため、年間を通して仕掛け売りを継続させた。
いつも同じ場所に同じ商品が並んでいると新鮮さがなくなってくる。3ヶ月を過ぎるころには、お客さまもジャンル担当者も飽きてしまう。飽きさせないための対策ができるかどうかが販売実績の安定につながる。

パネルを取り換え、手書きPOPのコピーを書き換え、お客さまへの訴えかけのフレーズを変えることで何とか新鮮さを維持し、年間2500冊の販売実績を作った。


重点出版社の取り組み

取次はPOSレジで系列化を図り、出版社は法人特約で書店の囲い込みを図る。
大手書店は大型化多店舗化でシェアの確保に走っている。
「出版業界は大競争の時代なのだ」という認識の中で、書店として生き残っていくためには仕入力、販売力が決め手となると考えた。
自分的には再販制度が外れても対応できる条件としても仕入力、販売力を重要視していた。
仕入力、販売力をつけるために何が必要か模索して、次の6項目を実践していこうという結論に達した。
1.     組織的に売る力をつけること
2.     販売方法の工夫が必要である
3.     店全体を舞台にして売ろう
4.     出版社と協力体制を組もう
5.     出版社との新刊会議を開催しよう
6.     会議で拡販商品を決めて販売しよう
その店は出版社の営業マンが店を訪問する頻度が低いという地域的な問題もあったので、「重点出版社」を決めて、その出版社の商品を徹底的に売り伸ばしていく作戦を取ることにした。
社員を集めて会議を開き、8人のジャンル担当者に一人1社担当させ、自分も含めて、9社を第一次重点出版社に決めた。趣旨説明書をつくって出版社の担当者に説明をして、月一回の店訪問と新刊会議の開催をお願いした。

新刊会議では重点拡販商品を決めて、あらかじめ決めておいた4つのパターンの中から、商品に合わせたスタイルを選択して拡販するようにした。
1.     全フロア展開
2.     書籍フロア展開
3.     2フロア展開
4.     1フロア展開
最重要視した商品は店全体を舞台にして全フロア展開で拡販する。

講談社、岩波書店、日経新聞社、学研、角川書店、小学館、マガジンハウス、草思社の9社がリストアップされた。出版社ごと、月ごとに商品を決めて拡販したが、記憶に残る拡販商品は岩波書店の元文部官僚の寺脇さん話題の作品で、200冊仕入れて、文房具のフロアも含めて全フロア展開で拡販した。


書店発ベストセラーをつくる

様々な出版社の作品を拡販した重点出版社の拡販商品の中で一番印象に残っているのは『つい誰かに話したくなる雑学の本』だ。
講談社の話に乗って仕掛け売りを始めたのだが、総合ランキングで100位前後の店で、この作品単品の売上がベスト5に入った。
「やるときは徹底的にやる」のがこの時の成功の条件だったように思う。
500冊の仕入れでスタートし、地下売場から四階売場まで文房具のフロアを含め全フロアでの商品展開を行った。一階入り口で24面、地下のビジネス書売場で8面積み、その他のフロアにも各20冊配本をしてレジ近くに陳列した。
大量陳列が功を奏して結果は大成功で、チェーン店内第一位を何週間かキープするほどよく売れた。「英会話・やっぱり・単語」とともに年間2500冊以上の店新記録となった。

2年後のこと、異動した店の文庫倉庫で『つい誰かに話したくなる雑学の本』を200冊発見した。何であんなに売れる本がこんなところに眠っているのか不思議に思ったが、早速、文庫売場のエンド台に8面積みのコーナーを作り、POPをつけて拡販を開始した。
POPのコピーはPOPコンテストでコピー大賞を取った
「これであなたも知ったかぶり・・・」
2ヶ月前後で全て完売してしまい、その店の文庫担当者がびっくりしていた。その後、その文庫担当者は仕掛け売りに積極的になった。
それにしても、発売から2年もたっているのに、場所が変わってもまだまだ売れるとは…
雑学系の本の息の長さと、客層の広さを改めて実感した。

異動先の店で出会った『子供が育つ魔法の言葉』は店の客層とどんぴしゃの作品で、飛ぶように売れていった。入荷便の片づけをしている時に、追加注文で入荷している作品を30冊発見。表紙を見て、インスピレーションが湧いて、店の入り口のおすすめ本コーナーに6面積みで目立つように並べ、POPもつけて拡販開始。
教育熱心な方の多い高級住宅街にジャストフィット。タイトルが心に直接響き、奥様族が私も、私もと買っていく…

3ヶ月で350冊、10ヶ月で1000冊越えして、単店で初めて0.1%のシェアを実現した。
チェーン店内ダントツの一位を何週間か続けた。この店だけで異常に売れていることに気付いた店が追随して売り始めた。

週間ベストに入る店がどんどん増えていき、著者来日もあり、皇室がらみの記事も配信されて全国的に売れる商材となった。「子供が育つ魔法の言葉」はメディアへの露出が頻繁になり、パブに乗りまくって、ミリオンセラーになった。

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