2015年6月4日木曜日

だからこの本を売りたくなった

だからこの本を売りたくなった

5年分の売上を集計して、店で行った仕掛け売りの検証をしたことがあった。ベスト40までの作品に、仕掛け売りを始めた動機を書き込んでみた。集計すると6種類に分類された。
「類書の実績のデータがある作品」は前作で実績が出ていたり、関連書の実績が良かったりする作品なので、間違いなく売れるパターンだ。ベスト40の中に12点含まれていた。
「初速良好に付き追いかけて仕掛ける作品」では、追加注文してスタートさせてから販売実績が跳ね上がって、注文をさらに繰り返していった作品が8点あった。自分が仕掛け売りを始める動機づけはこのパターンが一番多いかもしれない。

「戦略的な意図をもって仕掛ける作品」は店の経営課題から要請されて売り伸ばす作品、地元が舞台になっている作品、客層がジャストフィットしてこの店で売らなきゃどこで売ると考えられる作品などで7点あった。なぜこんなに売れるのと思ってしまうほど、特徴的な売れ方をする。
「売らなくてはいけない本社企画で仕掛ける作品」も7点あり、出版社の「営業マンとのお付き合い」で仕掛ける作品が4点あった。
他店見学に行って面白そうと感じた作品や、営業マンに情報を頂いて売り伸ばす「他店の情報からマネして仕掛けるやり方」で売り伸ばした作品は2点だった。

パターンは色々あったとしても、販売員が仕掛け売りを始めてみようと決意した決め手は共通している。
「これって売れそうだよな」
「これを仕掛けたら面白そうじゃない?」
そうした気分を感じさせられる作品はどれも売り伸ばしが可能で、売り方の工夫が重なると劇的な販売数になる。
販売員に共通して求められるものは「目利き」能力だろう。目利きであれば、流行をつかむことができるし、売れる作品が何かがわかり、売れるものを売れるように売る方法を持つことができる。

毎日商品との出会いがあって、それが何年も累積すると膨大な量の商品を手にすることになる。それぞれに売る工夫を重ねて、成功も失敗もたくさん経験する。その経験の積み重ねの先で、ようやく「売れるもの、売れないもの」が見えてくる。
「誰も手を出していないのにその店だけで売れている商品がある」
「誰もが注目している商品は事前に動いて的確な数を仕入れ絶対に品切れを起こさない」そんな仕事を続けていると、「あの人は目利きだ」と言われるようになる。


初速が良好

20089月に発売された『ストロベリーナイト』は配本が70冊だった。最初の3日間で25冊の売上データを見て「これは売れる」と判断して150冊の注文をして、満数で入荷して仕掛売りが始まった。
売れ行き良好につき重版のたびに追加注文を繰り返して、ボリューム満点の展開ができるようになり、だんだんと売上が大きくなっていった。
10月から3ヶ月連続して月間300冊以上の実績が作れて、仕掛売り開始後4ヶ月目で1,000冊を超えた。1店舗で1,000冊を超えることは大型店以外ではまれなことだが、4ヶ月でクリアしてしまうほどすごい売れ行きだった。

この本のおすすめのポイントは5つあった。
1.ミステリーの中でも売れ筋の警察小説であること
2.美人の女性刑事が主人公でキャラクターが魅力的
3.対立するマル暴デカも悪役ぶりが際立って
4.犯人のキャラクターも非常に立っていた
5.犯人を追いつめていくストーリーは読み始めたら止まらない歯切れの良さがあった

初速の売れ行きの良さを見て、実際に読んでみて、商圏内にたくさん棲息する、オジサマ族にジャストフィットするだろうと感じて仕掛け売りを始めたら、ものの見事にはまってしまった感がある。
その後も売れ行きに合わせて強気の追加注文を繰り返し、大化けした作品となった。

12月に『ジウ』が発売されて、続けて1月から4月まで、毎月誉田哲也作品の新刊が発売され、その都度併売して売り伸ばしていった。
小説系文庫部門で初めての1,000冊超えを記録し、その後はTVドラマ化や映画化が重なって、累計売上2,500冊以上の実績となっている。
ちなみに、この作品を類書の実績として展開した誉田哲也の5作品を加えると、2009年末の時点での累計売上は6,400冊を超えている。
年間売上ランキングで100位にも入れないような店が、こんな実績が作ってしまうなんてとても不思議に思うほどの売れ行きだった。

初速良好につき追加注文をして売り伸ばしを図るのは売りたがり書店員の基本的なパターンのようだ。商品を見る目と思い切りの良さが成功の秘訣だろうと思う。


類書の実績がある

新刊会議で、誉田哲也の人気警察小説の姫川玲子シリーズ第二弾『ソウルケイジ』の文庫版が10月に刊行される情報を入手した。 本部一括で指定配本をお願いしたが、店側も部数確保のために手を尽くす必要性を感じていた。
前作『ストロベリーナイト』のチェーン店内第1位、年間1500冊の実績があるのでこの作品は当然売れるものと判断できる。だから出版社の担当者と指定配本の個別交渉をして、本部と店の複数メンバーから同時に何度も部数確保のお願いを繰り替えした。
最終的に初回300冊のスタートを約束して頂けたのだが、実際は配本が150冊、手持ち在庫から発売日の3日後に150冊が入荷する分割搬入のスタイルだった。
発売後は初日から日別のデータを出版社担当者に伝え、初回重版分から追加手配をお願いした。それが15、16日入荷の250冊に結実した。27日の300冊は本部一括分、28日の100冊は別途手配した分で、発売から21日間で950冊確保した。

今回の仕入は、最初から1000冊以上売る前提で、交渉したからできたことだと考えている。初速が出版社の想定を上回り、初回重版分は前作で実績のある書店からの注文を優先して出荷したため、各チェーン店ともに本部一括分が後回しにされた。
ほとんどのチェーン店が、一週間後の二度目の重版分でようやく商品を確保した形になってしまった。前作の販売実績と追加注文のアピールがものをいって、他店に先んじて商品確保が成功したケースだった。
追加が潤沢に取れた理由は四つあった。 
1 事前の情報収集と早めの希望数の提出が効いた
2 チェーン店内1位、累計販売数1500冊の前作実績のアピールが効いた
3 発売後も毎日の電話作戦が実った 
4 出版社担当者との信頼関係が出来上がっていた

売らなければいけないものや、どうしても売りたいと思う商品は、情報を入手した時点から出版社の営業担当者にプレッシャーをかける必要性がある。前作で実績がある作品はどんどんアピールすべきだし、本部一括がある場合でも店からもどんどん希望を伝えるべきだ。
出版社に店の陳列状況や売上実績もどんどん伝えるべきだろうし、どのような場所で、どのように陳列しているのか、出版社担当者にわかりやすい画像データも添えて、販売担当者としての気概を伝えるべきだ。
情報は頂くだけでなく与えることも必要だし、情報を交換してお互いに販売実績をあげていく。そうした行為の中から信頼関係が生まれていくし、信頼関係を築いていれば情報も商品も確保はできる。


営業マンに付き合う

2009年春の全店フェアにノミネートされ、第二位に入賞した『頭のいい説明すぐできるコツ』は、営業マン自身がノミネートした前年の第一位作品よりも多く売ったのだが、その上を行く作品があったために第一位を逃してしまった。
その営業マンはとてもやりきれない気持ちになったようで、
「二位にご褒美はないんすか」
と、私にぼやいてきた。
「わかったよ、うちの店で拡販してあげるよ。とりあえず200冊入れてよ」
とその場で答えて、仕掛け売りが始まった。

第一位作品は全社で拡販キャンペーンをするのだが、二位作品は何もしないのが通例。第一位作品はどちらかというと女性向けの作品だし、女性客の少ない店では売上が見込めないと考えていた。
この作品はもともとビジネスマン向けの作品であるし、こちらの方がこの店では売上を見込めると判断したことも背景としてあった。

文庫拡販スペース近くの柱前で中型ワゴンに15面積みして展開したが、仕掛け売り開始当時はそれほど際立った売上は取れず、どちらかというとくすぶっていた状態だった。
数日後、ワゴンの場所を店の入り口の横に異動して、商品のボリュームを上げ、A2サイズのパネルを手作りしたら売上が跳ね上がった。
そしてその勢いに任せて仕入れを繰り返して売り伸ばしていった。

仕掛け売りは常に陳列場所やボリューム、POPやパネルなどを変えていって、商品ごとの最適なスタイルを見つけ出すべきだ。だから、しょっちゅう陳列場所を移動させるし、どの場所が一番フィットするのか探し当てるのも面白い仕事だと思う。

3ヶ月後に最高売上を記録して、4ヶ月目に雑学系文庫として初めて1,000冊超えとなった。その後も売上は止まらず、5ヶ月間連続200冊超えという新記録をつくった。
この仕掛け売りでは店内で一番売れるワゴンの位置が特定できたことが、最も評価すべき点だと記録には残っている。その後はこの位置にワゴンが固定され、雑学系の文庫や教養新書の仕掛け売りの展開場所となっている。

巡り巡って2015年春、第一位帯を巻いたこの作品を売場で発見。奥付を見ると確かに2008年初版発行と書いてある。タイトルも同じだし、この作品に間違いない。6年を経てのベストセラー復活だ。


他店のマネをする

「他の店で売れていますよ」と出版社の営業マンに情報をいただいて、おすすめ本を始めるパターンがある。
2008年の秋、「日本橋や神保町の店で売れています」と声を掛けていただいた作品がそれにあたっていて、タイトルは『それからの海舟』だった。
売れている店は客層的に同様の店であるし、大河ドラマ篤姫の関連本としてもこれから売れるだろうと判断して始めた仕掛け売りだった。

1.     歴史探偵として有名な半藤一利さんの著作であったこと、
2.     江戸東京の人々には勝海舟は人気があること、
3.     大河ドラマの篤姫が高視聴率であったこと

作品をチェックしてみて、以上の3点がこの作品の売れ行き好調の秘訣であると判断して、これならこの店でも売れるだろうと考えた。

最初は50冊程度の仕入れで始めたものだったが、すぐに文庫の週間ベストテンにランクインしていった。仕掛け売りのスペースだけでなく、入口のベストテンコーナーからも良く売れていた。
どちらかと言うと仕掛け売りにまだ慣れていない担当者は慎重な仕入れだった。それでも売上の上昇とともに仕掛け売りの展開がだんだんと大きくなっていった。
最初は8面積みだったが最盛期には16面積みも行った。店としての仕掛売りのスタイルがまだ確立できていない時期だったため、中途半端な商品展開で終わってしまった感がある。本来ならもっと売れたはずだとの後悔の念もあった。

売れ行きの最も良かった12月に大河ドラマが終わり、その時点で展開がスローダウンし、1月末に終息した。残した在庫で500冊はクリアしたし、チェーン内の他の店でほとんど手を出していなかったので、独走状態でチェーン店内第一位の作品になった。

「チェーン店内の第一位作品をみんなで作ろう」という考え方がこの店で浸透し始めていた時期だったので、この作品で第一位を取ったことは意味のあることだった。その後各自が自分のジャンルでチェーン店内第一位作品をどんどん作っていくようになったから。
トータルではとても売れ行きの良い店にかなわなくても、単品で第一位を取ることに快感を覚えることは、売上目標とのかい離が激しく、仕事の目標がつかめなかったジャンル担当者のモチベーション維持にはとても役立った。


この店で売らなきゃどこで売る

日本銀行から神田方面に向けての通り沿いの両側には地方銀行の延々と建物が続いている。また、周辺の路地裏には消費者金融の看板がたくさん取り付けられてあった。そのエリアを舞台にしたミステリー小説『裏金街』が20094月に発売された。

その店では10冊の入荷で7冊売れていた。文庫担当者が販売データを見て売れていることに気づき、残り少ないこの作品を手に取ってみて、小説の舞台が地元であることに気付いた。そこで、
「この店で売らなきゃ売る店がないぞ」
と、考えてすぐに追加注文をしたのだが、制作部数をほとんど配本してしまっていて、手元に配本の残りはなく、
「在庫がありませんので、注文に対応することができません」
と言われてしまった。
売らなきゃいけないと思っても商品がなければすぐには仕掛け売りの展開をすることができない。

一部の気の早い書店から新刊配本の返品が返ってきて、改装出庫という形が取れるようになったと言って、530日に注文していた分のうち50冊だけ入荷した。これで、8面積みの商品展開がようやく可能になった。
また、617日には返品改装分が溜まったことから200冊の入荷があり、当初狙っていた仕掛け売りのスタイルがようやくできあがった。6月、7月と販売実績100冊越えができ、8月末には累計売上が300冊を超えた。
一部の店でしか売れないと重版のロットも大きくすることはできなくて、その後も月に50冊程度が入荷するペースで、その店にとって地味ながら着実に売れていく作品となった。当然のことながらチェーン店内でこの作品の実績は独走状態の第一位だった。

こうした地元が舞台になった作品は、事前に情報をつかんで配本時にまとまった部数を確保できると、売り伸ばしは容易にできるようになる。少部数の入荷で棚前の平台陳列だけでは、地元を舞台にしている作品であることに気づいてもらうのも難しいことだと思う。
それなりの部数で店の一等地でボリューム陳列をして、作品を紹介するパネルやPOPでアピールして初めて多くのお客様に認知してもらえるものだ。認知して頂けるお客様が多ければ多いほど販売実績が大きくなっていく。
このケースは商品が入荷して、売れてから初めて気づいたパターンになってしまい、商品手配が後手になって販売機会の損失が多く出てしまったように思う。

仕組みを利用して1000冊越えをめざす

天使のナイフ』は30冊の入荷ですぐに150冊の追加注文を出版社にお願いをした。残念ながら120冊の減数入荷だったが、実績の蓄積があまりないために低いランクしか設定されていなかった出版社であったことも減数の背景にはあったようだ。
150冊の追加注文をした根拠は
1..3日で15冊の売上となったこと、
2.乱歩賞受賞作品であったことが決め手だったし、 
3.講談社の作品を積極的に売ってランクアップをしなければいけない
と考えていたことも大きな要素としてあった。

もともとミステリー系の新人賞の中で江戸川乱歩賞が最も売れると言われている。
その後に追加注文が入荷して、本格的な仕掛け売りを開始してからの販売実績を見て、「もっと売れそう」に感じたので、8月末に締切りとなっている全店フェアの候補作品に店文庫担当者推薦枠でノミネートした。

9月末、発売後約1ヵ月半で200冊の販売実績となり、三ヶ月目の10月が最高売上で月に200冊を超えた。10月の数字は全店フェアに参加して意図的に拡販したものだった。
最初から独走ぎみで一位を走っていたのだが、1店舗で大きな数字をつくっても他の店が追随してくれないと最良の結果は残せない。

他の店への提案は出版社の担当者の仕事なのだが、最後の週にその担当者は地方へ出張に出かけていて不在だった。その所為ではないのだが、結果として最終週に逆転されて第一位を逃してしまった。
何ともやりきれない思いが募った。これがこの作品の売り伸ばしが中途半端に終わってしまった本当の原因だと思っている。一位になっていればこの作品も「ストロベリーナイト」と同様に年間1,500冊以上売れていたはずだ。

状況は敗者には厳しく、12月からの全店フェア第一位作品の拡販が始まり、これまで大きな売上を作っていた仕掛売りのスペースを明け渡すことになって、やむなくこの作品の仕掛け売りは終息した。

全店フェアで第一位になって拡販キャンペーンでさらに売り伸ばす、という仕組みを利用して1000冊越えをねらった作品だったが、出版社担当者と協力して追随してくれる仲間を作れなかった。仕掛け売りは600冊で終息して、1000冊越えを目標としている文庫担当者にとって、悔いの残る作品となってしまった。


戦略的な仕掛け

おすすめ商品は基本的には販売員の売りたい気持ち、あるいは、お客様に紹介したい強い思いで決まるようだが、実際の現場ではもっと複雑な条件が絡み合って決められることもある。
日経新聞出版社の特約店制度は業界でもステータスが高いと評価されている。特約店になるには基準の売上をクリアしなければならず、売上を落としてしまうと特約店からはずされてしまうこともある。
特約店昇格を確実にするため、ビジネス人文庫の仕掛け売りを行って売上冊数を稼いだことがある。担当者の個人的な思いでなく、組織的な要請から始めるおすすめの方法を「戦略的な仕掛け」と呼んでいる。

8月末の段階でそれまでの売上推移から今年の最終売上を予測すると、基準に対して600冊不足する状況だった。だが、それなりの商品を選び、ふさわしい展開方法で不足分を補うことができれば、確実に特約店になることができる。
売上冊数を稼ぐという観点から商品を選ぼうとすると文庫が浮上してくる。日経新聞出版社にもBJ文庫というレーベルがあって、ビジネス書を文庫化した作品が多く発行されている。また、駅系の書店の一部が文庫の仕掛け売りで特約店になるケースも増えてきている。
その例にならってBJ文庫で売り上げを稼ぐことにしたわけだ。

商品選定では、日経新聞出版社の週間ベストの中で、長く一位に居座り続けていた『エクセル即効ワザ99』を取り上げた。ビジネスマンはほぼ全員がエクセルを使っているので、ビジネス街の書店の入店客のほぼ全員が対象顧客となる。しかも、即効ワザが満載であれば、エクセルで苦労している方々にジャストフィットするはず。
200冊の注文に対し150冊の減数入荷で仕掛け売りは始まった。減数出庫は販売員のやる気をそぐやり方なのだが、まだ信用が高まっていないから起きる現象でもある。それでも、出版社と粘り強く交渉を重ね、強く売上を稼げるボリューム感を演出できるまでに商品を確保した。
頭のいい説明すぐできるコツ』の仕掛売りで成功したワゴンを引き継ぐ形で商品展開のスペースを確保できたことで、3ヶ月間で650冊余りの売上を記録する事ができた。
12月末までには4500冊の特約店基準をクリアして見事に特約店になることができた。

こういうスタイルでおすすめするのは店頭の現場では例外的なものなのだろうが、これも一つの現実的な商品選びのスタイルだ。おすすめ商品を選ぶ根拠は何種類もあるだろうが、その根拠を知れば販売員へのおすすめ商品の提案がしやすくなるだろうし、ベストセラーづくりにチャレンジする土台も築けるだろう。


出版社の協力でその気になる

初回配本30冊で、初速の売れ行きを見て、追加注文をして仕掛け売りをスタートさせたのが『勝つ司令部、負ける司令部』だ。この作品は歴史好きの40代から50代の男性向けの作品だ。
内容は日露戦争の東郷元帥を勝つ司令部とし、第二次世界大戦の山本五十六元帥のを負ける司令部として比較論じた作品だ。『失敗の本質』という作品が長く売れ続けていたし、戦史に組織論を学ぶという考え方は経営者たちのポピュラーな本の読み方だろう。

「この店で売らなければどこで売る」
担当者が意気に感じて、店頭の一等地にテーブル一台陳列を開始した。店の客層にジャストフィットするはずなので、ボリューム感を出してお客さまに強烈にアピールしたい、そう考え200冊の注文をしたと言っていた。
この作品は新人物往来社という出版社の文庫本だったのだが、歴史の専門書を発行している会社なので、これまでこれほど大量に販売できる商品はなかった。最初は出版社の担当者もどうしたらいいかわからないような様子に見えた。
「どうしてこの出版社の作品が大量陳列されているのだろう。意味がわからない」
来店する他社の営業マンは口々にこう言っていた。誰もこの作品がベストセラーになるとは思っていないようだ。

担当者の心意気が出版社のメンバーに伝わって、積極的な協力体制も出来上がった。店頭の一等地でボリューム陳列された商品を見て出版社の担当者も喜びを隠せないでいた。めったに使うことのないA全の大きなポスターをこの店のためだけに作ってくれた。
A2サイズのパネルや手書きPOPも作ってくれたし、商品は常に確保してくれていて、注文のたびに満数出荷をしてくれた。出版社の協力を得ると売りたがり書店員はその気になっていく。積極的な販売が続き、作品の売上はいつの間にか1200冊を超えていた。

売行き好調に付きチェーン内の他店へ展開を広めようと画策をしたのだが、どういう訳かどの店でも売上が振るわず、途中でやめてしまう店がほとんどだった。唯一の例外が1店舗だけあって、200冊以上の実績を上げている。
それぞれの店の注文履歴を見てみると、仕掛け売りが成功できなかった店は、どれも30冊や50冊で展開を始めていたが、例外的に成功したこの店は100冊スタートだった。

一等地で大きな部数で商品が展開されていると、それを見た人は
「なんでこの作品がこんなにいっぱい積んであるの?」
と驚いたり、不思議に思ったりするはず。そこに
「ああそういうことなのか」
と納得させてくれるPOPがついていると反応は全く変わってくる。
最初に驚かせて、次に納得させると、つい商品を手に取ってしまう行動に出るのが人の心理だし、ボリューム陳列が担当者の心意気をお客さまに伝えることにもつながっていく。



売れているのってうちだけ?

文春文庫の新刊『侠飯(おとこめし)』の追加が入荷してきた。
新刊コーナーで何気に売れていて、発売から10日間で30冊近くの実績があり、一日で5~6冊売れている日もあった。
「何で売れているの?」
「わかりません」
私自身も何故売れているのかはよくわからなかったが、
「やはり黒系の作品が良く売れるご当地銘柄なのだろうな?」
と話した。そうしたらすぐに電話で追加注文を出したようだ。
「どこにもそんなに売れている店はありません」
出版社の担当からはこんなふうに言われたと担当者は教えてくれた。

12月17日に入荷した商品は、ミステリー系文庫のおすすめ本コーナーに8面積みされた。早速当日に5冊売れている。いまだに売れている理由はつかめていないのだが、売れる作品には違いないようだ。
出版社のFさんが送ってくれたPOPには

読んでいるうちに思わずお腹が空いてくる
グルメ小説新ジャンル ここに誕生!!

と書かれていた。

この店の文庫の新刊コーナーでは売れ筋の作品は4面積みして、それに次ぐ作品は2面で様子を見るようにしている。注目作品で大量入荷した作品はおすすめ本コーナーで8面~12面積みをしているし、超注目銘柄は200冊以上の仕入れになるので、入り口のテーブルを使ってボリューム陳列をして、おすすめ本コーナーと合わせて2か所で大きな展開をする。
今月の新刊は小粒の作品が多かったようで、直木賞作家の作品と同じ入荷数だったので、2面積みだった。そんな販売条件だったが、昨日までの売上を集計してみると当月の新刊の中では一番の販売実績となっている。


ちょっとした会話で担当者がその気になることはよくあることで、今回は“ご当地銘柄だろうな?”というフレーズに担当者が反応したのだと思う。追加注文でボリュームアップしてさらに売上を加速させた事例になるといいなと今は思っている。

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