2015年6月11日木曜日

書店発ベストセラーのつくり方 9

9. 熱戦、雑学ダービー

 スタート
2月24日店着で雑学ダービーの作品が入荷してきた。どの店でも同じタイミングで入荷しているはずだ。
大前は入荷した商品をすぐに品出しした。すでに場所明けもできていたし、POPやパネルも用意されていた。
店の一等地にあるフェア台に並べた。
もちろん自分のおすすめ作品は最も売れる場所に置いたし、文庫のおすすめ商品のコーナーにも、別枠で鈴木に手配してもらった50冊を6面積みにして展開していた。
スタートダッシュをよくするため、準備万端整っていたので、いつでもOKという気分だった。


2月24日大場は公休日だった。雑学ダービーの品出しは、その日の出勤メンバーにお願いしてあったのだが、その他の注文品の入荷量が半端なく多かったために後回しにされて、翌日の午後になってようやくコーナーづくりができた。
1日立ち上がりが遅れただけなので大場自身は気にしていなかったのだが、初速を作ることに失敗してしまうと、1ヶ月の期間限定のフェアでは命取りになることを、その時は深く考えないでいた。


全店フェアの売上カウントは2月25日から始まったが、1週間後、途中経過が社内ネットにアップされた。
文庫担当の誰もが気にしているデータだったが、1週目のトップランナーは初日から快調な売上を記録した『こころのコーチ』だった。

2位に65冊もの差をつけていたので、大前は「してやったり」と思った。
自店での別枠での展開や、他店での鈴木の粘り強い営業が良い影響を与えて、事前に練った作戦が功を奏して、初日から好調な売上を記録することができたと喜んだ。

 二週目
大場のおすすめ作品は初動が思わしくなく、5位でスタートしている。
トップを走る作品との売上冊数の差は81冊ついていた。これには大場もちょっと面喰った。松原も初めての経験で戸惑っているのかもしれない。

何とかしなくてはいけないと思った松原が、一気に全店を回る決心をした。
バックには数十冊の商品を忍ばせて、店を回り、フェアの中でもより良い場所での展開をお願いし、別枠での展開も可能な限り店の担当者にお願いしていく。

話がまとまれば、少部数の注文の場合は持っていった商品を置いていき、多めの数の場合は会社に連絡を取って、その場で直送の手配をした。
1日十数店舗を回って3日で全店を踏破した。

3月11日、2週目のデータがアップされた。1週目と比べて明らかに数字の変化が生まれていて、『笑って生きる』は第2位に上がっていた。
一気に3作品をごぼう抜きしていたのだ。ただ、1位との差はまた開いて、118冊差になっていた。

大場はデータを見てとても楽しみになってきたのだが、まだまだ予断は禁物だと松原に話した。
松原もその辺は理解していたし、さらに店回りを繰り返して、営業強化をしていくと約束してくれた。

大前は2週目のデータを見て、順調に推移していると判断していた。このままのペースでいければ、1位は間違いなく自分の手でつかみ取ることができる。
ただ、一気に5位から2位に上がった『笑って生きる』には不気味な感じがして仕方がなかった。大場の顔が目に浮かんだ。

1週目から比べて部数を伸ばしているのは自分のおすすめ作品を含め、3作品ほどあったのだが、他の作品が微増だったのに比べて、1週に比べて50%増は驚異的な数字だ。その一番多く部数を伸ばしたのが『笑って生きる』だった。

3月18日、3週目の速報が出た。相変わらず第1位は『こころのコーチ』だったが、第2週と比べて2冊しか差が増えていない。
つまり第3週だけの売上ではほぼ均衡状態になってきたということになる。

鈴木と連絡を取って対策を考えないといけないかもしれない。短期決戦の場合は1週遅れると命取りになりかねないと丸山も言っていた。
やはり鈴木に店回りの営業を再度強化してもらわないといけないのかもしれない。

最後の追い込み
大場は松原の作戦の有効性を感じ始めていた。第1位を独走している作品との差がだんだんと縮まってきている。
手ごたえを感じているのだ。松原の営業スタイルは間違っていないし、上手くすれば流れを変えることになるかもしれない。

この時点で3位以下の作品との差がどんどん開いてきている。これは2強対決の様相に変わりつつある証拠だろう。
いかにして勝負に勝つか、競合する相手はただ一つの作品に絞られてきた。

3月25日、4週目のデータがアップされた。驚くべきことに、この週の売上だけ見れば1位と2位が逆転していた。
それも38冊もの差がついている。松原の店回り作戦が驚異的に効いているのだろう。

2月25日のスタートからの売上でも、1位と2位の差は113冊差に縮まってきた。松原にようやく笑顔が返ってきた。
それまで酒を飲んだ席でも、苦虫をつぶしたような顔をしていることが多かったのに、だいぶ変化が生まれてきた。


大前は4週目の売上の変化に対し冷静な判断をしていた。あと1週間で100冊以上の差がある。
これを逆転するのには膨大なエネルギーが必要だし、まだまだ鈴木と協力してできることは多いだろう。改善する余地はあると考えていた。

鈴木も先週の中だるみを大いに反省して、今日から再度全店を回ると言い出した。ここまで来て負けるわけにはいかない。
会社のみんなも今度こそ勝ちたいという気持ちが日ごとに強くなっている。

 
ダービーは4コーナーを回って最後の直線に差し掛かってきた。ここからの追い出しで勝負が決まるのだ。
まくりが効いて最後のゴール前で逆転できるのか、先行馬の逃げ切りが功を奏するのか、いよいよ最後の叩き合いの時を迎えた。

第5週は両陣営とも驚異的な数字をたたき出している。
特に『笑って生きる』は第4週より130冊以上売り上げを伸ばした。それでも逆転は叶わず、14冊差で逃げ切りが成功した。
雑学ダービーは大前、鈴木ペアの勝利で終わった。

キャンペーン開始と計画の達成
過去3年間すべての企画に参加して一度も勝てなかった出版社の意地を最後に見せて、初めて参加して今日この作品でしか勝負できないと言っていた松原の作品の追い込みをかわして逃げ切った。

雑学ダービーの第1位作品の全店キャンペーンは5月1日から始まる。雑学ダービー第1位の帯を巻いて、5000冊を投入して拡販が始まった。
大前は感無量だった。自分がノミネートした作品が1位を取るのはとても気持ちのいいものだった。鈴木も同じようなことを言っていた。

5月から6月にかけての2ヶ月間で『こころのコーチ』は5000冊以上を販売した。
候補作品としてノミネートした1月27日から、全店での累計売上は7000冊を超えている。このままのペースでいけば累計売上1万冊は容易にできるだろうと思う。

ミリオンセラーが可能かどうかはさておき、この売上数字から判断すると数十万部にできることは間違いない。大前の丸山塾の実践課題、「書店発ベストセラーをつくる」は達成できたと判断していいと丸山が言っている。


『笑って生きるは』大場の店では圧倒的な数字をたたき出し、1ヶ月で180冊以上の実績をつくった。
ただ、1位と2位の差はとても大きくて、たった14冊差なのだが、5000冊投入してのキャンペーンは1位作品しか行われない。

ダービー期間での営業活動で投入した商品がその後の売上を作ってくれている。
キャンペーン期間の2か月で1700冊以上の販売実績をたたき上げているし、ノミネートが決まった時期からの累計売上は3000冊以上の実績た。

今後の松原の営業次第なのだが、山村書店で3000冊以上売れているなら、少なく見積もっても10万部は超えるだろう。だから多少手前味噌ではあるが塾の課題はクリアしたと言えると思う。

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