2015年6月17日水曜日

斉藤塾 第二講義テキスト Vol 2 2010

囲い込みの技術Vol.

出版社から見た囲い込み
私のミリオンセラー計画を実践する際、重要な要素となるのが企画の推進母体。この業界では出版社、取次、書店の三者の協力体制が組めると成功が見えてくる。社内の協力者、取次のメンバー、書店員がそれぞれの領域で協力してくれることが必要となる。

仕掛け売りの全国的な展開をつくるには地方も視野に入れなければならない。いつでも出張できるのは少数者だし、行きたくてもいけないエリアが多い。だから、社内や社外に協力者を得ることはとても重要なこと。だから、社内営業と社外営業の両方が必要とされる。

自分が重版の部数を決定でき、広告枠も決めることができるなら、一人でもある程度の売り伸ばしの実践はできるだろうが、基本的には社内のメンバーに協力してもらえないと何もできないことが多い。特に若手ならばなおさらのこと。

仕掛け売りの拠点を作るテストマーケティングをしようとしたら、100冊展開5店舗、50冊展開10店舗、30冊展開35店舗と考えていく。完ぺきにこなすためには50店舗の書店員の協力とほぼ2000冊の在庫が必要となる。

仕掛け売りの広がりを作りたいと思ったとき、100冊展開を50店舗に広げたかったら5000冊が、50冊展開を50店舗に広げたかったらの2500冊の在庫と、それぞれ50店舗の協力者が必要。部数の確保はベストセラーづくりには欠かせない要素だ。

広告を絡めて受注の促進をして、全国的な展開を強めたいなら、社内の広告担当の協力が必要だし、パブに乗せたかったら新聞、雑誌、TV局、新聞記者、書評家、雑誌記者、ディレクター、などの協力者が必要だ。

自分のやりたいことに進んで協力してくれる人をつくる囲い込みの技術は、企画の推進母体を大きくして、計画を実現しやすくさせるためのもの。自分のまわりに何でも協力してくれる50人の協力者がいれば、たいていの企画は成功させることができる。

特約店・法人特約
出版社による書店の囲い込みは古くからある特約店制度が代表的なもので、今も新刊指定配本の優遇措置を優先的に行っている出版社がある。売上上位300店、年間売上3000冊以上など特約店の基準は出版社の事情でそれぞれに違う。

上位10店に入ると、減数なしの言いなり指定配本ができるようになると聞いたことがあるが、一般の特約店とは比べのもならないほど優遇される。それがあるから 書店は特約店になりたがるのだ。

特約店になるためにはその出版社の本を売らなければならない。基準の売上に満たなくなると特約店から外される。また、年に一度の特約店会では成績優秀者の表彰も行われている。こんなかたちで出版社は書店を囲いこんでいた。

単店特約店の考え方を変更して、法人特約に移行する出版社が増えている。法人特約はG‐5が最初だろうと思う。法人単位で出版社と特約契約を結ぶスタイルは、右肩下がりの業界では、生き残りの戦略の一環ととらえる出版社も多い。

法人特約は毎年協議して年度の目標を定め、目標達成すると報奨金を支払うパターが多い。法人ごとに条件が異なることもあるが、単店主義の特約店制度に対し、お互いに会社単位で結束することを意図した制度となっている。

通常は出版社にも書店にもそれぞれ推進担当者を置いて、お互いに協力し合いながら目標を達成のための活動をする。双方の担当者にとって、万難を排して毎年目標を達成させることが至上命題となる。

毎年最大の条件での目標を達成が望ましいのだが、担当法人の実績を順次押し上げ、自社の中での地位向上に努力することも重要視される。毎年地力をつけながら一つずつ順位を上げていくのが最も喜ばれるパターンだ。

実績を上げるためには店担当者との良好な関係を築く必要があるし、本部のバイヤーとも良好な関係を築かなければならない。日々の商品の動きを見つつ、売上の状況を気遣いながら対策を練っていく。

目標達成のためにはその出版社の商品を売らなければならない。そうした出版社では新刊配本も追加注文への対応も特約法人が特に優遇されている。また、法人特約を結んでいる出版社と結んでいない出版社では書店の優先順位が変わってくる。

法人担当に必要な資質はまずお客さま志向を持つこと。
次に相手の懐にするりと入り込める人なつっこさを持つこと。
目利き力があって、社内の商品確保力を持っていることも必要な要素だ。さらに書店担当者を味方に引き入れる力 や影響力の強い担当者を見抜く眼力も大切な要素だろう。

勉強会
出版社が書店員を囲い込みたい時には勉強会がよく使われる。文庫新書やビジネス書系の出版社などで多く企画されているし、出版社に頼んで勉強会をして、若手社員を引き連れて参加したこともある。

勉強会は企画するメンバー、運営するメンバーによってやり方は違ってくるが、出版社と書店の間に横たわる課題についての話し合いや、目玉商品の企画説明があり、そのご質疑応答をして確認をする。会議終了後の懇親会とセットで実施することが多い。

中には編集長が参加してくれるケースもある。編集長は出版のトレンドについての話しや、目玉となりそうな商品の説明をしてくれることが多い。この先どういう新刊が出のか、どういうテーマに注目しているのか、そんな話をしてもらえると書店員は喜ぶ。

懇親会には多くの編集者も参加することもあるのだが、中には営業マンよりも営業力のある編集者がいて、自分が編集した作品を盛んに売りこんでくる人もいる。その場で仕掛け売りの話がまとまって、結果として大きく売り伸ばしたこともある。

勉強会に出席すると書店員はその出版社に肩入れしたくなる。出版社の人や作品に馴染みが出てくるからだ。
書店は出版社を頼りにしている。 出版社との協力体制がうまく機能するようになるとコミュニケーションがよく取れて販売方法も改善されていく。こういうことから勉強会をして書店員を囲いこむ出版社は結構多い。

全国に売りたがり書店員は蔓延しているので、彼らを組織化することができると、売り伸ばしに大きく貢献してくれる。それが、ミリオンセラーづくりに直結する動きになる場合がある。

先頭を切って仕掛け売りをして拠点づくりに協力してくれるメンバーをあらかじめ決めたり、マーケティング的な発想でポイントとなる有力書店担当者を囲い込んで仕掛け売りに巻き込むことも重要なこと。

声をかけた書店員の売り伸ばしが成功するととても喜ぶし、それが『本屋大賞』でつながるメンバーだとすると第一位を得る可能性が出てくる。そうしたことを意図的に行おうとしたときに組織化という言葉が現実味を帯びてくる。

商品研究会
売りたがり書店員を集めて商品研究会という名の勉強会を開催する。自社の注目銘柄の企画説明をして、ゲラを用意して発売前に書店員に読んでもらう。作品に対するコメントと、初回配本の希望数を記入するアンケート用紙に記入してもらう。

コメントは広告の文章に使用したり、帯に記入したりする。出版社は当然、希望数通りに配本する。気に入った作品を希望通りの部数を確保できると、書店員はその気になって売りまくる。

売りまくる書店員の店をテストマーケティングの拠点として売れ行き動向をチェックし、影響力のある強いデータを他の店の書店員に示して、仕掛け売りを伝播させ、意図的に売り伸ばしを計っていく。

「何処の店の誰に仕掛けて売ってもらうか」を営業戦略の柱にしている出版社もある。そういった出版社は売りたがり書店員を組織化して、彼らを軸にしてベストセラーづくりを狙っている。

売りたがり書店員を味方に引きずり込めば仕掛け売りの拠点は容易にできるし、拠点が作れれば10万部計画が可能になる10万部が短期間でできればミリオンセラーも狙えるようになる。

あなたの囲い込みの技術はどんなスタイル?
あなたのしたいことを黙って請け負ってくれる人を作れている?
そのためにどんなことをしているの?
担当エリアにあなたのことを応援してくれる人作れている?
出版社、著者、書店、取次の誰を囲い込む?
他業種の方々との交流をしている?

書店発ベストセラーという方法を試してみたいと考えるなら、全国のあちらこちらにいる売りたがり書店員を発掘して、組織化をしていくことをおすすめする。

信頼
20年ぐらい前の書店はまだまだ余裕があって、メンバーが多くいて、それぞれが楽しんで仕事をしていた。誰が一番人気がある営業マンなのか白黒つけてみようと考えた人間がいて、営業マン人気コンテストの企画に賛同したメンバーが投票した。

人気投票の結果、H社のTさんが第1位になった。ちょっと背が低くて、それなりの顔つきはしているが。モテ顔とまで言えるようではなかったし、当時の書店の女性陣も容姿で選ぶような人間はいなかったような気がする。

人気投票には第一位の理由も明記してあったので、なぜ第一位なのかは明確に示すことができた。投票用紙に書き込まれていた人気の理由はどれも納得、そうだよなと感じる事柄ばかりだった。

・押しつけがましくない
・書店員を立ててくれる
・さらりと新刊案内をしてくれる
・約束は必ず守る
・他社情報も充実している
・適切なデータを提供してくれる
・確実に商品を確保、供給してくれる
・店の特性に合わせた商品をおすすめしてくれる

こんな信頼される営業マンがいたらいいなと思える内容は、基本的に今も変わらないと思う。

店を回ると売上が上がる魔術
自分と接する営業マンには新人が多くいたが、ベテランの優秀な営業マンもそれなりに頑張っていた。彼らの営業スタイルを分析すると、一人ひとり方法は違っても、書店員と協力して売上を伸ばす技術を持っていることに気づいた。

1 勉強会を実施して書店員を仲間にして売り伸ばした。
2 キーパーソンとの蜜月による仕掛け売りの成功を他店へ広げて大きな実績を作った。
3 店員に働きかけて成功させた仕掛けの事例があると、本部に情報を全店に流してもらう。
情報が流れた後で店を回り受注を促進していくスタイルを確立した。
4 売れ筋の新刊を大きな部数を指定配本して全店でボリューム陳列を実施した。

具体的な方法は違っても、彼らが店を回ると売上が上がる。それを「店を回ると売上が上がる魔術」と総称した。

優秀な営業マンの売上を伸ばす技術を分析すると、次のような項目が浮かび上がった。
1 店の担当者とのコミュニケーションのレベルが高い
2 チェーン店内のキーパーソンをしっかりと握っている
3 キーパーソンの所へ行くと自然と話がまとまっていくことが多い
4 どの商品がその店で売れるのかを把握している
5 お互いが信頼し合っている

自社商品だけでなく、他社商品も含めて幅広く売れ筋商品を把握している営業マンは情報提供力が優れている。すると、店担当者とのコミュニケーションレベルが上がって、書店員がその気になる営業提案が多くなり、販売実績を大きくする力となる。

キーパーソンを知り、精度の高い営業提案の成功が重なって信頼感が高まると、提案がいつでも通るようになる。そこで、他店への影響力を持つ強い売上が作れると、周辺のメンバーが自然と追随するので、全店に提案内容が波及しやすくなる。
これが「店を回ると売上が上がる魔術」となるのだ。


0 件のコメント:

コメントを投稿