2015年6月9日火曜日

書店発ベストセラーのつくり方 6

6. 激戦!新書ダービー

 スタート
『考える力』は1月14日に補充分が100冊入荷して、ボリューム感が出てきて売上が上がってきた。
そして、全店フェアが決まって山田と相談して追加注文した150冊が1月26日に入荷して、さらにボリューム感がアップして売上が跳ね上がっていった。
これで勢いがついた状態でフェアに突入できる。第1位を取る体制がほぼ整ったと薫は判断した。

丸山が手配した「この新書がすごい!」の商品が店着して、五月雨式に全店フェアがスタートした。
「2月は28日しかないので1ヶ月のフェアとしては物足りないから1月28日からの32日間で決着をつける」
と丸山が言っていた。
薫は入口の新書拡販スペースの棚2本のうち1本を使って20点の商品を陳列した。いよいよ新書ダービーの始まりだ。

最初の週は全5段広告を打ちまくる新聞広告の影響があって『脳に悪い習慣』が独走状態で先頭を突っ走っていた。
薫の推した『考える力』は仕掛け売りをしている2店舗を中心に売り伸ばして、普通ならトップを走るような数字をあげて2位につけていた。
取りあえず『脳に悪い習慣』の新聞広告が終わるまでは我慢の時だ…丸山が言っていた。
『辺境の力』が3位につけ、『時間力』が4位につけている。
さすがに売れている作品を推した3人のノミネート作品は、ベスト5に3点とも入っている。
こういう状態だとフェアとしては売上が取れるので、店の担当者から突き上げを食らうことはない…これは丸山のセリフだ。

新書ダービーは第一週目に全店で1日200冊を超えた日が2日あった。二週目はちょっと下がって平均170冊だ。

途中経過
『脳に悪い習慣』は二週目に広告がなかったせいで、売上が一週目よりも落ちてきた。
薫の推す『考える力』は第2位につけていた。第二週だけを見ると『脳に悪い習慣』と『考える力』の売上が拮抗してきた。
もしかしたらチャンスがあるかもしれないと薫は思った。山田は地方出張をキャンセルして新書ダービーにかかりっきりになると言っていた。
愚直に店を回り続けている山田を薫は応援していた。そして『考える力!』を自分の店で売り伸ばしていった。

新書ダービーが始まって第三週目に入ると、最初から一位をひた走っている『脳に悪い習慣』を『考える力』が上回る売上を取るようになった。

1月28日から31日までは62冊差がついていた。2月の第一週は107冊差をつけられた。2月7日時点では合計169冊差になってしまった。それが第三週に29冊縮め、140冊差になっていた。
これは面白い展開になってきたと薫は思った。

そんな状況のある日山田が店にやって来た。
「A店とF店が非常に協力的で助かっています。B店も含めて3店舗が大きな売上を作って、全体を牽引してくれるような体制になっています。先週だけでいくと売上が逆転したと教えてもらいました。これからが正念場だと思うので、店廻りにもう一段力を入れるつもりです」
と薫に話しかけてきた。

「B店も彼らに負けないように頑張ります。その他の店の在庫は品薄になっていない?大丈夫?」
「初回搬入の冊数を売上が上回る店が出てきて、在庫が薄くなる店も多くなってきた。追加注文へのきめ細かな対応が必要になってきてると思う。だから毎日店を回っています。品薄な店には少量であれば持っていった商品の中から納品するし、注文の量が多い場合は納品までの時間がもったいないので直送もしています」

「丸山が店での1位をどれだけ取れるかがカギだと言っていたけど、どんな感じ?」
「まだ、第一週目の大きな貯金があるようで『脳に悪い習慣』を抜けないでいる店が多いですね。これからも店の担当者との話し込みを重視して営業していきます」

「丸山が第1位を取ったら全店キャンペーンをやってやるって言ったんだって?」
「そう。確かに聞きました。がんばらなくちゃ。全店キャンペーンになったら、初回の投入は5000冊だって聞きました。その分だけでも重版できる部数なんで、同僚や上司を含めて、みんなで全店を回る体制を作って、何とか1位を取りたいと思っています」
「そうなんだ、すごいね。最後まであきらめないのが一番大切だと思う。がんばって!」

 最後の叩き合い
薫は山田に声援を送る意味もあって、また100冊の追加注文をした。それが第四週に店着するはずだ。まだまだ頑張るぞという気持だった。

第四週目、『考える力』はダービー期間中の最高売上を記録した。『脳に悪い習慣』とだんだんと近づいてきた。
『脳に悪い習慣』は新聞広告が終了して、売上がだんだん下がってきている。そんな状況だから差が詰まって来たのだ。
この週だけで104冊差を縮めている。サンライズとサンセットの状態となって逆転がなるかどうか微妙な状況だ。
第四週を終わって28冊差まで接近した。あと残り4日、どちらに転ぶかわからない。

先週、丸山が来た時に言っていたセリフはこんな感じだった。
「営業力の差が最後に出るかもしれない。店を盛んに回っている営業と、広告で売上を作る営業とどっちが最後に笑うのか楽しみでもある」
薫もそう思うし、最後まであきらめずに販売していくつもりだと言っておいた。
「最後に笑うのは、あきらめずに最後まで粘り切った方だろう」
これが丸山の捨て台詞だった。

3月2日、丸山から正式に結果が発表された。996冊対984冊、12冊差で『考える力』が逆転をした。
「やったあ!」
それも最終日の1日前での逆転だったらしい。丸山が結果を知らせたら、山田が大喜びしたと言っていた。

今回の新書ダービーにはもうひとつドラマチックな出来事があった。
3月1日に『脳に悪い習慣』がTV番組で紹介されて、全店で1日に100冊以上売れた。これがもし1日ずれていればと思うと鳥肌が立った。パブを中心にした営業戦略の恐ろしさをたっぷり味わったと丸山が言っていた。

社内ネットにアップされた店別のデータでは、フェアそのものの売上はA店が第1位で、E店、F店、そしてB店と続いていた。
元々新書はA店が強い。予想通りの結果だった。薫の店もE店にはそんなに離されずに、お互い300冊台の売上だった。全体的には満足できる結果だと薫は思った。

『考える力』だけの数字を調べてみたら、F店が131冊、A店が130冊だった。薫の店は122冊でちょっと負けてしまった。
残念!
でも、薫の願った通りに第1位になって、第1位帯を巻いて拡販ができる。
山田の粘り強い営業の成果だし、彼に感謝しなくちゃ。
そして、これからが薫の腕の見せ所だ。長く、辛抱強く売るのは得意だから、
「年間1000冊はいただきだ」
とその時薫は思った。

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