2015年6月9日火曜日

書店発ベストセラーのつくり方 5

5. 塾生の宿題

三回目の会合
1月下旬、三回目の丸山塾が予定されていた。
その日も塾生たちが、いつもの時間に、いつもの喫茶店に集まってきた。3回目ともなると、メンバーにもだんだんと馴染んできて、冗談を言い合う気安い雰囲気が出てくるようになった。
さて、全員そろったようなので三回目の講義を始めましょう…最後に席に着いた丸山の言葉で講義が始まった。

今日の内容は品揃えについて。社長から「品揃えの基本的な考え方を伝えてほしい」とリクエストがあったので、内容をどうしようか考えたんだけど、「品揃えでお客さまを呼ぶ」という内容にした。

やっぱり、店を構えて商売するときの基本は品揃えだと思うんだ。快適な店舗環境やお客さまに対する接客もとても重要なんだけど、最終的に欲しい商品がないとお客さまはお買い物に満足しないと思う。

新店の立ち上げや、既存店のリニューアルの時に使った、お客様を呼び込むための品揃えの考え方を、今日は皆さんに披露しようと思う。
今回もテキストはA4サイズのペーパーで21ページもあった。回し読みをした。

質問があればどうぞ…と言われてすぐに大場から手が上がった。

「客層の二重構造ができて成功した」ありましたが、具体的にはどういうことなのでしょうか?

この時は…昔を思い出す老人の遠い目つきになって丸山が語りだした。

若い女性向けのファッションビルに300坪の店を出す、というロケーションだったのだが、SCとしてはメインターゲットを決めてテナントミックスを考えて施設をオープンさせている。

ビルとしての宣伝も25歳前後の女性向けにターゲットを絞っていたし、入ってくるテナントも、そのゾーンに合わせた一流の店ばかりだった。SCもテナントもそれぞれにターゲットに合わせた集客をもくろんでいた。
だから、25歳前後の若い女性は十分に集客できるのだけれど、書店はその層だけをターゲットにしても難しいし、ターゲットに合わせた店づくりをするなら、300坪もいらないはずだ。

ファッションビルに300坪の専門書を中心にした店をつくるとなると、SCの狙っている客層以外のお客さまを集客しないと、店として成り立たないと誰でもわかることだろうと思う。そこで、品揃えでお客さまを呼ぶことが頭の中に芽生えてきた。

幸い、駅ビルの5階という立地条件も良かったし、ファッションビルにフィットした快適な環境で、時間をかけて商品を選べる条件もそろった。そして、商品の関連性を意識した商品配置で回遊性の高いレイアウトもできた。
あとは競合店との違いを商品構成と品揃えで表現すればいいとその時は考えたし、入門から専門まで小ジャンルごとに細かく意識した品揃えをすれば絶対競合店には負けない自信があった。

専門書のゾーンは40代から50代の客層がお金を落としてくれるはずだし、芸術書は60代、70代の方が、2~3万円する商品でもよく買ってくれるお客さまだと思う。店としてはそういう客層を呼び寄せるための品揃えをしなくてはならない。
その条件をクリアできたからこそSCの呼ぶお客さま以外の店独自のお客さまを呼びこむことができたので、客層の二重構造が出来上がったということ。これでようやく300坪の売り場面積も意味のあるものに変わったと言える。
こんなところでどうだろう…

回遊性の高いレイアウト
「ありがとうございました。もう一つよろしいでしょうか?」
今日は大場が積極的だ。
「回遊性の高いレイアウトってどういう風にしたらできるんでしょうか」
丸山が再び遠い目つきに変わった。

この時はフロアに2か所の導入部があった。一つはエスカレータで、もうひとつがエレベータだった。ほとんどの多層階の店ではエスカレータが客導線としては一番重要視するだろうと思う。
エスカレータとエレベータが反対側についていたので、どちらを入り口と考えどちらを出口と考えるか結構微妙なラインだった。そこで考えたのが客層によって使い分けが生まれるのではないかということだった。

エスカレータは各フロアを巡って上がってくるのでSCのテナントミックスに対応してお買いものを楽しまれる方が使うのだろうと想定し、エレベータは自店だけを目当てに来ていただけるお客さがが利用すると考えた。
店は通路を挟んで3つのゾーンに分けて商品構成をしていたし、それぞれのゾーンへの行き来がしやすいように通り抜けるのが容易になる棚配置をしていた。だから、商品を見ながら入口から出口を回遊しやすいように商品を配置するようにした。

エスカレータの登り口が東側の端にあり、下り口が店内のほぼ中央にあったので、まずは登り口からエレベータのある西側のはずれまで通りやすくして、エスカレータの下り口から帰るような客導線を想定した。
エレベータで直接上ってくるお客さまは、店が独自に呼び込むお客さまを想定し、エレベータから出て左側に芸術書を、右側に専門書を配置することにし、真ん中のゾーンはスクエアな商品として雑誌、実用書、旅行書をエスカレータの降り口まで配置した。
エスカレータで登ってくる方向けには絵本・童話、文庫新書、文芸書、人文書の順に配置して、配置そのもので入門から専門までの意識を持つように考えつつ、SCの想定するゾーンのお客さまに対応できるように配置した。

客導線のメインはエスカレータなのだが、専門書ゾーンの集客が順調にできたおかげで、エレベータの使用率も割と高めにすることができ、全体として回遊性の高いレイアウトになったと考えている。以上です。
「ありがとうございました」

塾生が取り上げた作品
最後に丸山の発言があった。
「以前の塾で仕掛け売りにチャレンジして書店発ベストセラーを作ってもらいたいと言ったと思うんだけど、みんな決まったかな。薫ちゃんどう?」
またも一番か、定着しちゃったな…薫が答えた。

「私はこの新書がすごいフェアのノミネート作品を第1位にして、年間1000冊販売することをテーマにしたいと考えています。よろしいでしょうか」
「ふーん、年間1000冊か。第1位帯を巻くとだいたい1000冊が見えてくるかい?」
「はい、今までのパターンだと1000冊以上売っています」
「わかった。がんばってちょうだい。薫ちゃんは他の店で売るわけにはいかないから、山田さんと協力する形を取るといいと思うよ。」
「はい、そのつもりです。『考える力』を全力で押していきます」

「川越君はどう?」
「はい、丸山さんから声をかけていただいた、東京出版社の方の10万部計画に協力しようと思います。『相部屋』の拡販に挑戦します」
「おお、うれしいね。薫ちゃんもこれはこれで協力してちょうだいね」
はい、相部屋も頑張ります…

「加納さんは?」
「はい、私も東京出版社の山本さんに声をかけていただいた作品の売り伸ばしに協力したいと思います。ユニークなタイトルなので、どうなるかわからないのですが頑張りたいと思います」
「おお、そうか、二人が手伝ってくれれば大丈夫だろう。二人とも頑張って」

「山崎君はどう?」
「はい、私はまだ発売されていないのですが、映画の話題が半端なく盛り上がっていて、映画雑誌にもどんどん紹介されている小説が4月に文庫化されるそうなので、その作品を取り上げたいと思います」
「それって、単行本で70万部までいった作品だよね。売れるってわかっている作品なんじゃないの」
「はい、そうなんですけど、どこまで売れるのか、最大販売部数にチャレンジしてみたい気分なんです」
「最大規模っていくと、どのくらいの部数を考えているの?」
「はい、山中さんが年間目標に掲げた1000冊を目指していきたいと思っています」
「60坪しかない君の店で、1000冊って途方もない数字なんじゃないの?大丈夫かいな。でも売り方次第では何とかなるかもしれないな。頑張ってください」

「大場君は?」
「はい、私は3月の全店フェアの作品を押したいと思います。出版社の方とも話をしていますので、二人でノミネートしてフェアに参戦してぜひ1位を取りたいと思います」
「で、銘柄は何?」
「言っていませんでしたっけ。失礼しました。『笑って生きる』です」
「了解、雑学系の文庫では売れ線の作家の作品だよね。頑張ってください」

「最後に残ったのは大前さんか。大前さんは何でチャレンジするの?」
「私も同じフェアに参加する作品で頑張りたいと思っています。自分が推薦して、全店フェアの銘柄にノミネートするので、何とかしないといけないと思っています。大場さんとは戦うことになりますけど、『こころのコーチ』は絶対勝ちます」
「おや、最後の二人はもう戦いが始まっているんだね」

「わかりました。みんなそれぞれ考えた上で決めた作品なんだろうから、最後まであきらめずに頑張ってちょうだい」


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