2015年6月23日火曜日

斉藤塾 第三講義テキスト 2010

参考資料 

企画を成功させる技術


店全体を舞台に企画を考える
企画力がなかなか身につかないと悩む人もいるようだが、意外と簡単で、やってみればできるものだなと感じる人もいるようだ。きっかけと、やる気と、ちょっとした冒険心があればすぐにできるものだ。

ジャンルが配置された場所によって、日の当たらないままに忘れ去られたような売上で推移してしまう商品が多くある。そういうジャンルを担当するメンバーのやる気を引き出す意味でも、店全体を舞台にする企画は良い循環を導き出す。

入口近くに配置されたジャンルでも、店全体に分散して展開をすると意外に売れる商品もでてくる。考えるヒントとして多層階の店を思い浮かべてほしい。
最上階のフロアの商品を一階で販売すると何倍もの売上が取れるでしょう。全フロアに商品を置く全店展開になるとどのくらい売れるものなのか。

最初に店全体を舞台にする企画として、ビジネス書の棚で実用書を売ろうとした事例を紹介する。実用書担当者が考えて私がバックアップして実施したものだ。
「海・川・プール 出かける前にちょっとスロトレ」
を、パネルのコピーとして採用し、ビジネス書の新刊やおすすめ本を展開している店入口左側のスペースで、中央の棚の一番上の棚一段を使用してこの企画は始めた。

期間は2009年6月20日から8月31日までの73日間だ。当初は夏休みに入るまでと考えていたが、売上好調につき延長した。
対象顧客はビジネス書を見に来る30代のビジネスマン を想定した。
子供と一緒に出掛けて裸にならなければならない季節を前に「スローなトレーニングで体を絞ろう」という提案内容だった。商品はスロトレで体を絞る3点の書籍を選定した。

過去に何店舗かで仕掛け売りの実績が出ている『ストレッチメソッド』を3面、 B店のお客さまに合いそうな『30秒ドローイング』2面 、隙間に『一日6分痩せる体をつくる』1面展開して棚一段を埋めた。面数の入れ替えは在庫量に合わせて随時行った。
30秒ドローイングはメタボ対策にも応用可能と判断し、40~50代のビジネスマンも視野に入れていいかなと思った。

企画を考え出すヒント
「海・川・プール 出かける前にちょっとスロトレ」というコピーは実用書の担当者が考えたった。打合せの段階で季節とターゲットと商品の組み合わせについて話し合っている時に自然に出てきたように思う・

…もうすぐ夏だ。小さい子がいるサラリーマンは子どもを海に連れていく。山にも川にも行くかもしれない。
当然、子どもの前で裸になる機会が多くなるだろう。
おなかが出ているとちょっとかっこ悪い。今のうちにおなかをへこませておきたい。でもハードな減量作戦はできそうにない。スロトレだったらいいかもしれない。そう考える人たちはこの店にいっぱい来店しているのではないだろうか。

こんな感じで考えていったとき、どの場所がいいかという話しになった。ターゲットは小さい子供のいるお父さんだよね。彼らがこの店で一番行きそうな場所ってどこだろう。
一階の入り口のビジネス書のおすすめ本が並んでいる棚だよね。だったらそこがいいか。その場所の真ん中の棚の上の段一段使っていいよ。

そんな感じでこの企画は始まった。
このPOPが入口に出ていると、もうすぐ夏休みという季節感が出せるから一石二鳥の企画だと思った。
書店では何時も同じような商品展開をしているせいか、季節感があまり出てこないような気がする。
そんな中でもうすぐ夏だよというイメージが与えられる看板があれば、季節感が出てくるだろうし、望ましいことだとも思う。

たしかに男性向けのスロトレの本はターゲットがビジネス書と重なっているし、ビジネスマンの生活シーンを切り取る作品だと考えると、ビジネス書のおすすめ本の中に入れても不思議ではない。
後から考えるとそういうことになるのだが、普通の書店員はあまりそうしないのではないかと思う。

忘年会シーズンを前に実用書をビジネスマンに提案する企画第二弾を始めた。今回の商品は『おとなの箸袋おりがみおかわり』1点だけ。11月の下旬から始めて12月16日までに39冊販売されている。
実用書担当者は成功体験を積んだことで次々と企画を考え出してくるようになった。

ジャンルミックス
C地区の会では毎回特別企画を発表している。第1回目は「おすすめ時代小説フェア」だった。11人の出版社担当者が他社本でノミネートし、3人の店担当者が推薦した本と合わせて14点でこの企画は実施された。

特別企画にはご褒美があった。1位から4位までに入賞した作品の推薦者に、フェア参加店から店を選びフェアを開催する権利を与えていた。一ヶ月間のフェアでは『のぼうの城』が第1位になり、その作品の推薦者はKさんだった。

KさんはB店を選んでくれたので、協議をしてフェアの内容を詰めた。文庫や新書の50点ものフェアを提案されたが、そういう企画には興味がなかった。
そこで、売れ筋商品の『会計天国』を中心にして何点か周辺商品を固めたフェアをしたらどうかと提案した。

折よく朝日新書の財務三表系の新刊が発売されたばかりで良く売れていたので、同著者の既刊本も抱き合わせることにした。新書2点、文庫1点、単行本2点が選ばれ、全点ボリューム陳列で棚一本を埋めた。結果的にジャンルミックスの良い事例ができたと自分では喜んでいた。

Kさんの出版社からは3点を各100冊で搬入してもらった。期間中の売上は42日間で351冊で、その内の162冊がKさん出品した作品で54%の消化率だった。
コーナーを縮小しながらこの先も販売していける素材なので、多少の返品は出るにしても返品率のことは考えなくてもよさそうだ。

ジャンルミックスの企画は面白いと思うのだが、本のサイズがバラバラだと変に余白ができるので、並べにくいのも事実だ。それでも、何とか工夫して並べて出来上がったものに満足できれば、かえって楽しいと思えるのではないだろうか。

ある程度のスペースがないと難しいとは思うが、お客さまはサイズより中身を重視する場合もあるだろうし、同じ著者の作品を並べる時などはサイズ重視の見た目のきれいさよりも著者のバリューの打ち出しを優先してもいいのではないかと思う。

店全体を舞台にして企画を行う意味
自分の担当ジャンルの中だけで商品を置いているのと、店の色々な場所に商品を置くのとでは自分の気持ちの持ち方が変わってくる。

店の奥の方に配置されている商品が入り口近くの場所や新刊台を使えると販売冊数が大きくなる。お客さまに新鮮な驚きを与えることも可能だ。
担当者の気持ちが変わってくると商品への思い入れも変わってくる。

ジャンルミックスや、陳列場所によって売上が違うし、陳列方法によっても違いが出てくる。そんな工夫をするたびに売上が大きくなり、担当者の経験知も大きくなっていく。

自店の最高の場所で思いっきり腕を振るうと、積極的な考え方が出てくる。売上や注文部数が大きくなると、成功するたびに腕前が上がっていく。

新刊の注文数や追加注文の数が大きくなるし、次はああしたい、こうしたいというアイデアも湧いてくる。
自店の最大販売数を経験すると、売り方に対する自信が出てくる。

数年前に大ブレイクした、角川文庫の『ダ・ヴィンチ・コード』はチェーン全体で10万部以上売れた。上、中、下、三巻が各数百冊入荷して、それを一気に陳列し、それが一気に売れていく。
すぐに追加がまたドカーンと入る。また売れていく。これを何回も繰り返した。この経験から当時の文庫担当者は仕掛け売りの実力を一段上げたのだ。

店全体を舞台に企画を考える効果は、ひとつは売上のスケールの違いが考えられる。自分の担当範囲だけで行う企画より店全体で行う企画の方が、良い場所を確保して行うことを想定しているので、必然的に売上も大きくなるはず。

他の担当者も使っている棚を使用するわけだから、失敗したら何を言われるかわからないし。絶対成功させようと思う。
そういう心理状態で成功させることができれば本人が自信を持つようになる。

もうひとつは店全体を舞台にすることで、他の場面でも店全体のことを考えるようになることがあげられる。
みんなで協力しないとできないものだから、成功すればチームワークもよくなるはず。そんな効果も期待できるのではないか。

複数の店をつなぐ企画
C地区の会第二弾の特別企画は、「この装丁はすごい!」だった。
普段あまりフェアにはなりにくいテーマだが、国際ブックフェアを見学したときにアイデアが湧いて作った企画だった。

ジャンルを特定せず単純に装丁というキーワードに注目して誰がどんな本を選ぶのか興味があった。

この企画でノミネートしていただいた出版社は13社。店の担当者からは4人が推薦作品をだして17点18冊でフェアを開催した。

参加店は1店舗増えて5店舗だった。企画がたて込んでいる時期だったため十分な展開期間が取れなかった。
店別の実績ではB店が第1位だった。作品別では『宇宙のはなし』が1位だった。1位から5位までの作品推薦者が企画開催店でのフェア開催の権利を獲得した。

複数の店をつなぐ企画は中心人物とサポートメンバーが機能すれば、チェーン内の店だけでなく他の書店ともコラボした企画を行うことができる。

以前行われた渋谷地区4書店合同フェアは出版社営業担当者のまとめ役だったと聞いている。
「酒飲み書店員の会」や「千葉ダービー」も書店員と出版社営業担当者との協力で運営されている。

複数の店をつなぐ企画は参加メンバーが協力しあう必要性があるので、自然とチームワークが取れてくる利点がある。
企画の推進母体が大きくなるとチームとして機能できるように取りまとめるリーダーが必要になってくる。

推進母体が大きくなると参加メンバーの知恵を集めやすいし、企画の工夫度を高くすることができるので、当然アウトプットも大きくなる。
推進母体のメンバー一人ひとりが、企画に対して楽しさを感じて行動できるようになると、大概の企画は成功できると思う。

全店企画
全店企画をするとわが社では関わりのある人たちがたくさんいる。

出版社の方たち。企画を推進する本部スタッフ、企画を実施する店長連中、スペースを空け商品の陳列の工夫をして商品を展開するジャンル担当者、企画のジャンルによってはジャンル担当者の組織も関わってきますし、それから店ごとに商品をセット組みして搬入していただく取次の方と、最後に企画に参加して商品をお買い上げいただくお客さま。

こんなに関わりある人たちがいるのだが、店のジャンル担当者がお客さまにおすすめして実際に売上を作ってくれるので、一番楽しさを味わってほしいメンバーだと思う。
全員が楽しめる企画をつくるのは難しいことかもしれないが、今まで実際にブレイクスルーができた企画は全員が確かに楽しんでいた。そう実感している。

おすすめ文庫全店フェアの1回目は売上が記録づくめだったし、納涼会をみんなで楽しみ、店の担当者には売上第1位、効率第1位、POP大賞、陳列優秀店などの表彰があった。
3ヶ月で15000冊も販売できたことで、最後には著者と出版社の皆さんを招待して1万部突破記念のパーティも行った。

候補作品に選ばれなかった出版社には多少の不満があったかもしれないが、それでも店に来てお客さまとしてお買い上げしていただいた方が大勢いた。
お客さまはこの時には気に入った作品を投票することもできたので楽しめたと思う。

もともと小さい店が多いし伝統の力もないところから実績を積み重ねてきたから、本部機能の充実が欠かせなかった。商品の手配も本部主導で行っているし、店の担当者は逆らえない構造になっているのかもしれない。だから、「全店企画になったから」と言えば、多少の不満があっても大丈夫。みんなしっかり展開してくれる。

もちろん売れない企画を実施すると大変なことになる。売れない企画を連発したら、みんな黙っていないでしょう。でも、幸いなことにこれまではほとんど失敗することなく来ましたし、ブレイクスルーの歴史もあったので納得性が高いのだろうと思う。
出版社の皆さんが「みんな元気だね」とか「チームワークがいいね」などと言ってくれているが、私はまんざら嘘ではないと信じている。

企画を成功させるキモ
自分ひとりで考えた企画でも立案、実施した後で必ず評価・反省をすることをおすすめする。常に問題点を意識し、改善点を探していくと次の企画に生かせるからだ。さらに他のメンバーのアイデアをもらいながら企画の修正をして実施するといい。

そしてここでも評価・反省を実施する。そうしていくうちに企画そのものが進化していく。
企画の推進母体を大きくして出版社や取次のメンバーや全店レベルの協力でさらにアイデアが集まると企画がだんだん大きくなっていく。
全店での企画でも常に終了時には課題を整理して次への工夫のアイデアを考えておくといいと思います。

企画を成功させるには出版社、書店員、お客さま、本部スタッフなど全てのメンバーの参画意識を高める必要がある。順位を競ったり、新記録を目指したりして、出版社担当者が書店担当者を訪問し話し合いながら、お互いのやる気を高め、売り方を工夫する。

そうした中で納涼会や新年会を企画したり、表彰やある種のご褒美があったりするとメンバーの参画意識はどんどん高まっていく。参加者全員が楽しさを感じられる企画はモチベーションを上げられるし、必ず企画は成功する。

全店企画を繰り返した中で企画を成功させる秘訣は何かと問われれば、二つの要素が重要だと言うことにしている。
ひとつは順次企画の推進母体を大きくすること、もうひとつは企画を実施する際に必ず新たな工夫を加えることた。

企画を成功させるには関わりのあるすべての人たちが企画そのものを楽しめることが大事だと思う。
参画意識の持たせ方によってみんなの企画に対する協力度合いが違ってくる。

おすすめ文庫全店フェアで出版社訪問をしたケースでは、自分で企画の説明をしてその気になっていった担当者が多かった。

店での商品の展開の工夫、POPの付け方、飾り付けの仕方、そのあたりが店の他のメンバーを巻き込んで行うようになったし、随分と変わってきた。そして色々な面でだんだんと上達していった。

結果的にブレイクスルーができ、全体で楽しく企画をこなしていけるようになっていった。

企画提案のすすめ
出版社の営業担当者が書店の担当者に認めてもらえる早道は活きの良い企画を提案できたときだと思う。
色々なデータを集めたり、全国の書店の現場で見聞きしたりしたことを参考にして活きの良い企画を提案しましょう。

もちろん売れる企画でなければなりませんし、できればオリジナリティがあって
「これはいい!!」
とお客さまに認めて頂ける企画がいい。

そうした企画は大概売れるし、出版社の担当者と書店の担当者が本当に認め合った企画は絶対に売れる。ただし、押し付け的な企画はあまり売れないことが多いと思う。

企画に参加した全員に楽しんでいただくことと、参画意識も持たせ方は表裏一体だと思う。企画が楽しければ当然参画意識も高まるのだろう。
それには、企画にかかわる人全員に企画の楽しさを説明するところから始まるのかもしれない。

企画を出版社から書店に持ち込むこともあるし、書店から企画に参加してほしいと依頼されるケースもあるだろう。そんな時、成功体験をしている会社とそうでない会社で積極的に参加するか、どうでもよく参加するかに別れてしまうのかもしれない。


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